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異世界で命のせんたくをすることになりました。  作者: fuminyan231
1 たびだち
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1-16 しょうにんときゃくと

 ドワーフおじさんの見立てでは、フランの力は平均的な成人男性よりも若干高めとの事。そりゃ追いつかれても仕方ない。



 甲冑(プレートメイル)は着なれてないと動きづらく、また行動する時に音が大きくて目立つ事が多い。厚目の服に鎖帷子、その上に上着を着るのが彼のマストなんだそうだ。

 その上で、腕鎧や足鎧なんかを着けるが、こちらも砂蜥蜴(サンドリザード)の物か、大牙蟻(ファングアント)の物か悩んでるそうだ。正直、違いが分からないのでどっちでもいいけど。


 頭はやはり面頬のついたしっかりとした物を選んでくれた。素材は鉄ではなく、堅石蟲(ロックワーム)の殻を加工した物だ。

 堅石蟲は鉱山などに出没する大型の蟲で、岩を噛み砕いて進むほどの膂力(りょりょく)を持つ。その殻は固いだけでなく弾性にも富んでいて様々な防具に利用されるが、概して高価になる。

 この店で扱っている素材とは思わなかったが、どうも弟子の試作品のようで採算は度外視で入荷したらしい。軽さと固さを両立する珍しい素材で、おそらくこれ以上の物は聖銀(ミスリル)とかの稀少金属類しかない。大きさもまあちょっと大きいが、ベルトで調整できる範囲でありこれは買いである一品と言えるだろう。

 おじさんにこれ以上の物は作れるの? と聞いてみたら、素材と時間があれば楽勝と言ってきた。

 ともかく、フランの防具がこれで揃った。


「あの、お嬢様。わたし、怖くないですか?」


 聞いてくるフランだが、正直言って威圧感が半端ない。

 顔が見えないというだけでこれだけ威圧してくるのだ。逆に言うと、女だといってなめてくる奴は少なくなるだろう。出来ればフランの声も変えたいが、それは無理な話だ。

 あ、やろうと思えば師匠ならできるかもしれない。時間、無いからやっぱり無理だけど。


 武器は手に合いそうな片手用の戦槌(メイス)。これに円形の盾(ラウンドシールド)。私は使えないと思ったが、おじさん曰く、使ってる内に使えるようになる、とのこと。まあ、防御考えたらそうなるけど、ちゃんと受けられるか、おいおい試してみよう。


 あと、当然のようにメイド服はやめてもらう事になった。今は合わせるためにその上から着てるが、違和感がすごくて似合わないことこの上ない。それにメイド服だとメイドだってバレちゃうし。フラン的には嫌だろうが、ここは我慢してもらおう。


 次に私の装備なんだが、これは前回と変わらない方向だ。砂蜥蜴の革の鎧を着けて、その上からローブでも被る。武器は壊れた短剣の代わりに似たサイズの刃折り(ソードブレイカー)と投げて使う小さなナイフ(スローイングナイフ)を六本ほど。

 それにお勧めの小型の弩(クロスボウ)。私の力でも弦を引けるんで、たいして遠距離まで届かないし威力もそんなに高くない。まあ、予備の武器(サイドアーム)として有用かな、と。

 もちろん私の主兵装は魔術なので。


 お代は、全部でダイン金貨35枚とベールマン銀貨20枚。だいたい庶民の一年分近くの金額になっている。

 一般的な庶民が一日に生活で使う金額がおよそベールマン銀貨10枚程度。奴隷や孤児なんかはベールマン銅貨10~50枚くらい。金貨1=銀貨100=銅貨10000という換算が正しいがこれはこの国、ダインベールでの貨幣価値であり、どこでもこうだとは限らない。

 ベルゲルメール王国では小銀貨というものがあったりするし、アクアリア森林連合では滅多に見られない『聖銀(ミスリル)貨』というのもある。聖銀(ミスリル)自体が価値が高すぎるため、外国に流出しないようにされているので外国人相手の商売に使うと罰せられるそうだ。


 もちろん即金で払うつもりだが、ドワーフおじさんは半分で良いと言ってきた。


「証文さえ書いてくれればな。親父殿から貰うか、お前さんが戻ってきたときに返すの構わんが?」

「冒険者はいつ死ぬか分からない商売だって教えたの、おじさんだよね?」


 私の発言に押し黙るダリニオス。ダイン金貨を35枚、ベールマン銀貨20枚をフランの持っている皮袋から出させる。


「はい、ありがとう、おじさん」


 置かれた金貨をじっと見つめているダリニオスは、ぽつりと一言「毎度あり」と言った。


 ご贔屓にしてると情が移るのはよくあることで、そういうときこそ落とし穴に落ちやすい。いつでも自分のままでいるのが、長く商うコツなのさと言ったのも彼自身だ。


 正直、うれしい。

 自分の生き方を見失うほどに気にかけてくれるのは。

 でもそれでおじさんが自分の(せつ)を曲げるのは嬉しくない。


「また、来るよ! その時はオーダーメイドの甲冑(プレートメイル)頼んじゃうから!」


 元気に出ていく。

 湿っぽいのは良くないからね。


「フランドールになら考えてやるわ。お前さんは貧相だからそんなもん着れるかい」


 む、らしい事言ってくれたな。やっぱり憎まれ口くらいでちょうどいいんだな、この人は。




 さてと、かなり使っちゃったけど。まぁ初期投資はかかるからね。次は服屋さんだ。さすがにひらひらのスカートで冒険者もないだろうから。大通りを左手に曲がると、何軒かの服飾専門店が見えてくる。


 私が自分の普段着を作ってもらったのは『セバスティアン』という屋号の店で、貴族よりは商人がよく利用するらしい。オーダーの服ばかりではなく、仕立て済み服の種類が多いのもありがたい。


 だが今回はその店は使えない。なぜならここはいわゆる普段着しか置かない。生地が強くてしっかりした実用的な服ではなく、薄くお洒落で危険の少ない所で着る物なのだ。


 今回はそんな用途にあった服ばかりを取り揃えた『ユージン』という店に入ることになった。


 頑丈な服と言えば、だいたい旅人が着るのが普通だ。だから旅の商人、冒険者、修験者みたいな変わり種とかそういうひとたちがたむろしている。そこに男女の差はない。とても頑丈な服を着てれば虫にも刺されにくいし、転んで怪我をするリスクはかなり減る。


 そんなわけで丈夫さ優先で買っていたら、すごく地味になりました。ザ・作業着って感じ。グレーの上下はデニムで作られていて、丈夫だけどそれ以外は何もないといった服だ。ただ鎧とかには相性は良さそうだ。


 もう少し、遊びを入れてもいいかな? と思い、短めの赤いスカートに下は黒いぴったりするタイツにしてみた。上はジャケット風の上着、その下に革鎧を付けて下には厚手の木綿のシャツ。


 フランは私よりもセンス良かったかもしれない。長めのスカートは蒼く、ズボンは黒で脚が細く見える。上着は短めのサーコートで紋章の代わりに幾何学的な模様が描いてある。鎧は当然サーコートの下に着ている。この格好で兜被ったら間違いなく神殿騎士みたいに見える。というか邪教の神官騎士かな?


「お嬢様、いかがでしょうか?」


 うん、兜の下からかわいい女子の声が聞こえたら、そりゃあ驚くよね。隣にいる人が目をむいて茫然としてる。

 横を抜けようとするおじさんは目を伏せて合わせようとしてないし、向こうでは小さな子が泣くことも出来ずにえずいていた。

 フランには教えないであげよう。

 精神の安定のために。

 しかしながら、嘗められないようにする目的は達しているのでこれで決定だろう。


 だが、買い物はこれだけではない。服というのは一着あればいいというものではない。スペア、着替え、予備、まぁ言い方は色々だが汚れたり濡れたり、はたまた旅装では場違いな所でのよそいきの服なんかも必要になる。予備の服はここで構わないが、そういった服は『セバスティアン』の方が選びやすい。

 そんなわけで、向こうに移動する事にした。



 冒険者の生還率はレベルが低い内は特に高いです。新人冒険者の三分の一は一年以内に全滅ないし活動不能として登録抹消となります。

 装備品などは現金で売り買いするのは当たり前で、それが回収出来なければ職人や商人も商売出来ないのです。

 もちろん、ユーニスのように身元がしっかりしていて取り立てる対象が明確な場合、証文を取っておくというやり方もあります。

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