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ジリリ、ジリリ、ジリリ。起床を報せる電子音が鳴り響く。閉じたカーテンの隙間から、うっすらと日が差し込んでいる。朝が来たのだ。北村京介は瞼を開け、重い体を無理矢理に起こして目覚ましを止めた。これまでに幾度となく繰り返された、おそろしく長く憂鬱な1日が、今日もまた始まろうとしていた。
目が覚めなければ良かったのに、と心でぼやく。毎日の事である。
慢性的な倦怠感に眠気、頭痛や軽い吐き気も加わり、ここ数年の京介は常に体調が良くなかった。だが、いくらかの病院で検査を受けてみても、体のどこにも異変は見当たらない。『自律神経失調症』だろうと、最後にかかった精神科で、年配の医師はどこかへらへらとした態度で告げた。原因が分からない体調不良の多くは、体の中にある自律神経という機能が乱れる事により起きているものなのですよ、と医師は言った。あまりにも大雑把で投げ遣りな答えだと感じたが、口には出さなかった。出せないのだ。
ぼやけた眼で部屋を一瞥する。既に鼻が慣れてしまい何も感じないが、いかにもカビ臭そうな灰色の壁。小さな体で必死に風邪を運んでくれる扇風機。そして隣には、ぐしゃぐしゃに皺が寄った煎餅布団と、それに横たわり目の覚ます気配の無い藤川慧がいた。
彼を起こそうとは思わない。その必要が無いからだ。この日は火曜日、平日の朝6時。だがその一時間後も、二時間後も、三時間後も……言ってしまえば三日後も、1ヶ月後も、あるいは一年後も、彼が目を覚ます必要は無いかもしれない。それが羨ましく思えてしまう自分は普通なのか異常なのか、京介には分からない。
めちゃくちゃな誤字してたので修正しました……。