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この夏休みは私にとって、失恋の夏だった。
とは言っても、悲しくてご飯を食べられなかったのは一日だけだったし、朝から晩まで部活をしていただけなのだが。
でも、ふとしたことで桐島君のことを考えてしまい、ふとしたことで遊園地に行った日のことを思い出し、ふとしたことで涙がこぼれる。そんな夏だったこともまた確かだ。
そんな夏休みもあと一週間というときのことだった。
『どっか遊びに行かね?』
布施からたった一文のメールが来ていた。私はこういうのを男らしいと思うよりは、ガサツだと思ってしまう。メールまで愛想が無いのはあいつらしいと言えばあいつらしいが。
そういえば布施のほうから連絡が来るのは初めてだった。
布施とは、桐島君とデートに行く前に、
『桐島君に私が好きだってこと、話した?』
『いや、言うわけねーだろ』
『ありがとう。今日から私たちはライバルよ』
とメールして以来だ。
私はまだ気持ちの整理をつけられずにいたので、正直布施には会いたくなかった。
でも、なんだか断るのも億劫になって、私はオーケーと言ってしまった。
まあフラれたことを伝える必要もあるからいいだろうと後からこじつけてみた。
「よっ」
そう言って現れた布施は、Tシャツに短パンとやたらラフな格好だった。
私も大した格好をしているわけじゃないから人のことは言えないが、女の子と出かけるのにその格好はないだろう。そんなことをふと思ってから、すぐに思い出した。
布施も男の人が好きだったのだと。
すっかり忘れていた。まあいい。今日はそういうことは忘れよう。友達と出かけるのだから、余計なことは一つでも忘れた方がいい。
布施はボーリングとカラオケとゲーセンに私を連れて行った。
ボーリングのスコアはお互い上手すぎず、下手すぎず、大して盛り上がりもしなかったので1ゲームでさっさとやめた。よく考えるとボーリングっていうのはなかなか難しい遊びだ。ただ玉を投げてピンを倒す、というだけで盛り上がれるほど人間の頭は単純じゃない。
カラオケは、そこそこ楽しかった。布施はなかなかの音痴で笑えたが、最後の方にはそれも味かと思えた。
ゲーセンは、二人とも負けず嫌いだったので白熱した。クレーンゲームは本当に撤退するタイミングが難しい。
今日私は、まあ本当のことを言えば、少し楽しかった。
だから最後まで、フラれたことを言い出せなかった。
もしかしたら、桐島君からすでに聞いているのかもしれない。だから、今日彼は私を誘ってくれて、励まそうとしてくれたのかもしれない。そんな都合の良い想像をしてみたりした。
でもやっぱり、自分の口から伝えないことは不誠実だと思ったので、別れ際、「またな」と彼が言った後で伝えることにした。
「布施っ」
布施は背中に急に声を掛けられて驚いたらしく、「わっ、なんだよ?」と不機嫌そうに振り返った。
「私、桐島君に告白したっ」
私の言葉に、布施は無表情で硬直した。きっと聞いてなかったのだろう。よく考えたら、桐島君はそういうことをペラペラ話したりしない。
「私、フラれちゃった」
こういうときに、動揺を顔に出さないように気を付けて、でも簡単に笑ってごまかしたりしない。そんな布施は、やっぱり良いヤツだ。桐島君が惚れるのも無理はない。
「今日はありがとね。ちょっと元気出たわ。またね」
私はそれだけ言って、走り出した。
私が良いヤツでいられる時間は、それほど長くないみたいだった。
その五日後のことだった。
私は布施に告白された。




