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6-4

【作戦5。告白】

 オレンジ色に染まる観覧車の中で、桐島君は私の方を見て言った。

「今日はとっても楽しかった。阿部さん、誘ってくれてありがとう」

 私は心底嬉しくて、必要以上に顔がほころんでしまわないように気を付けた。

「ほんと? ならよかった。楽しんでるの私だけかと思ってたよ」

「ううん、ほんとに。こんなに楽しいなら彰吾も誘えばよかったね」

 夕日を見つめる彼の横顔は、とてもまっすぐで優しげだ。

 だから私は、どんな顔をすればいいかわからなくなってしまった。

 さっきまで、いっそ告白なんてやめてしまおうかと思っていた。

 友達でも、こんなに楽しいんだから。一緒にいられるのだから。それ以上を望まなくてもいいんじゃないかって、そう思っていた。

 でも私はどうしようもなく、桐島君が欲しくなった。

「桐島くん。私は、あなたのことが好きです」

 一瞬が永遠に感じられると言うのは、きっとこういうことを言うのだろう。

 放り投げたボールが、ゴールに入るかどうかの一瞬。今まで積み重ねてきたものが自分の頭をよぎり、その答えが出るのを待つ数秒。そんな時間によく似ている。

「ごめん。ありがとう」

 桐島君はそう言った。

 先に「ありがとう」と言うのが普通じゃないかと一瞬思ったが、先に「ごめん」と言った彼の気持ちは何となくわかった。

「阿部さんとは、一緒にいてとても楽しいし、今日だって、楽しくって一日があっという間に感じたんだ。ほんとに、信頼してる、大事な友達だよ。でも、ごめん」

 言葉を尽くしてくれる彼に、私は甘えようと思った。

「一緒にいて楽しいって思えるなら、付き合えるんじゃない?」

 こんなめんどくさいこと、普段の私なら絶対言わない。だけど、今日だけはめんどくさくても許してもらえるだろう。

「ごめん」

 彼は言葉を探しているようだった。だから私はもう言葉を探さなかった。

「どうして?」

 私のみっともない悪あがきを見ていられなくなったらしく、桐島君はトドメをさしにきた。

「境界があるんだ。阿部さんも、どんなに一緒にいて楽しくたって、女の子とは付き合えないでしょ?」

 冗談でも言うかのような軽い感じだった。でもそれは紛れもなく、私への拒絶の言葉だった。

 きっと彼は私と付き合うなんて、本当にありえないと思っているのだ。それこそ、「気持ち悪い」と思うくらい。

 私はベタが大好きだ。様式美とでも言うか、当たり前というのがあるのは安心する。だから私は、告白の場所に観覧車を選んだ。でも人生はそんなに単純じゃなかった。

 電車の中、私は桐島君の隣で、ぼんやりと外を眺めていた。桐島君は何事も無かったかのように本を読んでいた。

 帰り道は行きの十倍くらいあるんじゃないかと思うくらい長く感じた。きっとこれが相対性理論というやつなのだろう。

 桐島君とは駅で別れた。最後の言葉は、電車の中でずっと考えていたのでスッと言えた。

「またね」とは言えなかった。でも「さよなら」とも言いたくなかった。

 だから私は、「バイバイ」と言った。

 桐島君も、「バイバイ」と言ってくれた。

 彼は少しだけ私のことを心配してくれているようだったが、もうどうでもいいことだった。私は一人、日暮れの街を歩き家へと帰る。部屋に戻り、枕に顔を押し当てると、言葉にならない声で叫んだ。余計な感情をはやく身体から追い出してしまいたかった。

 でも、叫んでも叫んでもダメだった。いつの間にか涙が溢れ出し、私は壊れてしまった。なぜ涙が出るのか、もうよくわからなかった。

 桐島君は私を好きじゃない。それはだいぶ前からわかっていた。けど、この胸の痛みはなんだろう。

 フラれるって、わかってたのに。万に一つも望みがないことは、わかっていたのに。

 嫌でも思い知らされる。やっぱり私は、桐島君が大好きだった。本当に、本当に、心の底から好きだったんだ。

 ずっと終わらないと思っていた恋の終わりは、こんなにもあっけなかった。

 ちゃんと言えてよかった。これで次の恋に進める。

 そんなことはまだ思えない。まだ自分の気持ちにそう言い聞かせることなんて、できはしなかった。


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