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6-1

 私は桐島君に告白することを決めた。

 やっぱり友達になりたいわけじゃなかったのだ。私は彼の特別になりたかった。それがわかったから、もう迷う理由はなくなった。

 だいたい、愛だの恋だのよくわからない私が一端に悩むのもバカな話だ。愛の迷宮に迷い込んでる暇があったら、本丸に突撃して玉砕あるのみだ。

 ちょうど今週の日曜は珍しく部活がオフだった。これは神のお告げだろう。ここで一発、ぶちかましなさいっていう。


【作戦1。デートに誘う】

 第一段階ではあるが、私の計画の成否はここにかかっていると言っても過言ではない。ここで失敗したらアウトなのだ。敗者復活戦もなく、予選敗退。そんな結末だけは避けなければならなかった。

 とは言っても、なにか誘う口実をつくっておこうと私は考えた。

 布施へのプレゼントを選ぶのを手伝ってほしいとか。布施と三人で遊びに行こうって言って、当日、あいつは急病で来られなくなったとかいうことにして……。

 自身の弱気で陳腐な発想力に愛想を尽かし、私は直球勝負に出ることにした。


 試験返却日。今日の帰りのホームルームで席替えをすると先生が言っていた。私はその言葉に背中を押されるように、朝一番に桐島君に声を掛けた。

「ねね、桐島君。次の日曜、空いてる?」

 予定が空いているかどうかを先に聞く。要件を言うのはあと。

 これはなかなかずるい方法だが、今はなりふり構っていられない。

「特に予定はないけど、どうして?」

「一緒に遊びに行かない?」

「うん、いいけど。二人で?」

 多少困惑の色が桐島君の顔に覗いていたが、私は満面の笑みを浮かべ「うん、二人で」と、布施の名前が出る前に即答した。

 さすがに「二人でなら行きたくない」とは言えないはずだ。ふふ、私の作戦は完璧だ。智将とは私のようなもののことを言うのであろう。

 桐島君はまだ少しだけ怪訝そうな顔をしていたが、「いいよ」と言ってくれた。

そこで「じゃあさ、連絡先教えてくれない?」と畳みかけると、桐島君は携帯のメールアドレスをノートの端に書いて渡してくれた。


【作戦2。デートコースを決める】

 私が誘った以上、私が計画を立てなければならないのは当然として、問題はどこに行くか、だ。

ショッピング? レストラン? 映画? 水族館? 遊園地? 動物園?

デートってどこに行くのが普通なんだろう。ダメだな。したことないんだからわかるわけねえな。

 私は自分で自分の浅はかさを笑った。陽子にもきちんと説明をしていない手前、相談するわけにもいかない。とりあえず私は桐島君と最初で最後のデートでしたいことは何かを考えることにした。

 そしてやっぱり、私の好きなところか、桐島の好きなところに行きたいと思った。


 翌日。夏休み前、最後の登校日。

 私はまたしても朝一番に桐島君に話しかけるべく、席を立ち、教室の端へと向かった。昨日の席替えで奇跡は起こらず、私と桐島君の席は遠く離れてしまったのだ。まったく、神様も空気が読めない。

「桐島君ってどういうところに遊びに行くの?」

「え、どういうところって?」

「休みの日とか、夏休みとかに行くところってどこが好き?」

「なるほど。うーん、あんまり遊びに行ったりはしないんだけど、そうだね。山とか海とか、自然が豊かなところが好きかな。あんまり人が多いところは苦手で」

「えー、そうなの? 意外。なんか、勝手に美術館とか演奏会とか行くイメージつくってた」

「そう? まあそういうところも嫌いじゃないけど、あんまりしょっちゅうは行かないかな」

「じゃあ遊園地とか動物園とかは?」

「うーん、小さいころ一度くらいは行ったことあるかもしれないけど」

 あんまりそういうところにはいかないのだろうか。でもよくよく考えると私も最近は部活漬けでてんで行っていない。

「じゃあさ、布施とはどんなとこ行くの?」

 私は不自然でない程度に声のボリュームを絞った。

「遠出はしないけど、カラオケとかボーリングとかかな。あとゲーセンとか。そういうところはよく行くよ」

 なるほど。たぶん普段は布施が行先を決めているんだろう。あんなタバコ臭くて人が多くて騒がしいところ、桐島君が自ら行くとは思えない。

 でもやっぱり、桐島君はどことなく嬉しそうだ。好きな人と一緒ならどこに行っても楽しいってか。クソ、布施の野郎め。羨ましい。

「あ、そうだ。でも」

 彼はそう言って、鞄の中から一冊のガイドブックを取り出した。

「今度、夏休みに旅行に行くんだ」

 私はそれを受け取って、ポストイットが貼ってあるページを開いた。ガイドブックは角が少し折れている。いつも持ち歩いているんだろうか。

「小さいころ家族で行ったことがあるんだ。自然がある以外、特に何かがあるわけでもないんだけどね。なんか、すごく居心地が良かったっていう記憶があるんだ」

 私は曖昧なあいづちを打った。そしてやっぱり私の行きたいところに桐島君を引っ張り回すことに決めた。

 その夜、悩み抜いた末、私は遊園地に行くことに決めた。

 絶叫系の、待ち時間多めの、桐島君が行かなそうなやつだ。やっぱりデートと言えば、遊園地だ。なんとなくだけど、私の中ではそういうことになっているのだ。

 お弁当を作るのはやめた。遊園地に持ち込みは微妙だし。それに、毎日つくってる布施にはどうしたって勝てない。なんかもう、そこで張り合いたくない。おまけに、最初で最後のデートだからって手作りの弁当はちょっと重い。

『朝九時に駅前に集合でいい?』

 私の記念すべき初めての桐島君への連絡は、それだけだった。

 思っていたよりも早く返事が来た。

『了解』

 それだけだった。でも、嬉しかった。


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