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4-3

 今週から試験週間で部活は休みだった。

 試験前の決起集会という名目で、私と陽子はファミレスでパフェを食べていた。

「ねえ、桐島君とはどうなったの?」

「あら、ずいぶん直球ですわね、奥さん」

 紙ナプキンで口元を拭いて、窓の外に目をやる。手を繋いだカップルが目の前を通り過ぎて行って、私はなんだかため息が出てしまった。

「え、ええっ。なにかあったの? どこまでいった?」

 陽子が身を乗り出して聞いてくる。

「どこまでっていうか、スタート地点よりも前に戻ってきたっていうか」

「どういう意味? え、まさかフラれたの?」

「そっちの方がまだマシだったなぁ」

 ほんとにね。

「えー、なになに? もったいぶらないで教えてよ」

「だーめ。内緒」

「えー、ひどい。私に隠しごとするなんて」

 陽子のこういうところを私は可愛いと思えるときと、めんどくさいなと思ってしまうときがある。今回はどちらかと言えば可愛いと思った。

「いや、陽子にだけは嘘つきたくないからさ。詮索しないでおくれよ。まだ心の整理がつかないんだよね」

「そっか、ごめん。……じゃあそんな立花子にグットなニュースがあります」

 陽子は私を励まそうとしてくれてか、妙に甲高い声を出した。

「お、なになに」

「失恋の傷を癒すのに一番いいのは次の恋。じゃじゃじゃじゃーん。立花子のことを好きって言っている男の子がいまーす」

「……へー」

 思った以上に薄情な声が出てしまった。上手いあいづちの「さしすせそ」とやらを使いこなせる女子になるにはまだ時間がかかりそうだ。「はひふへほ」なら得意なのに。

 はぁ? 引くわー。ふざけてんの? へー。ほー。の「はひふへほ」だ。

「え、なに。興味ないの?」

「いや、まあ。しばらくそういうのいっかな。慣れないことしたら疲れたわ」

「そう? 残念。ようやく立花子が恋のすばらしさに気付いてくれたと思って嬉しかったのに」

 陽子には申し訳ないが「マジで? キャー」とか言って食いつくような気分じゃないのは確かだ。

 私は少し糖分を補給しようと、パフェの残りに手を付けた。脳がとろけそうなほど甘ったるい生クリームが口いっぱいに広がっていく。

「でもでも、めっちゃ人気のイケメンだよ」

「私、べつにツラはそんなに気にしてないし」

「またぁ、そんなこと言って。桐島君、けっこう美形じゃん」

 そう言われて、彼の横顔を思い出した。確かに涼しげな目元とか、整った鼻筋とか、顔のバランスはいい。

「それもそっか」

「ふふ、立花子。恋する乙女の顔になってる。あーあ、部活一筋の立花子がそんな顔するなんてね」

「そんな大げさな」

「いやいや、中学の時、色々揉めてたじゃん。後輩と同期の子が後輩の男の子取り合ってさ」

「あー、あったね。そんなことも」

「あのとき言ったこと覚えてる? 『恋愛なんてバカしかしない。あいつらまじ正論しか言ってない私のことを自分の恋路を阻む悪魔としか思ってない』って。そう言ってる立花子の顔がそれこそ悪魔みたいにこわくってさぁ」

「えー、ひどい」と口では言ったが、確かに今思い出してもあの時のことはイライラする。恋は盲目だとは言うが、巻き込まれて迷惑を被った側としては他人の恋など心底どうでもいい。

「でもそんな立花子が今や恋する乙女だからね。いやぁ私心配したんだよ。バスケと結婚するんじゃないかって」

「いや、まあバスケットボールとは結婚してるつもりだけどさ」

「ダメ。ボールは友達止まりでいいの。立花子はちゃんと恋して結婚して、私と一緒に育児に苦しむの。そして旦那の愚痴を楽しむの」

 陽子は幸せそうに笑う。

 ちゃんと恋して、結婚して、か。

 私は微かによぎる疑問を表に出さないように気をつけながら「うー、それはたしかに楽しそうだなぁ」と笑った。

 思ったことをそのまま口に出す。そんな子どもでいられた時間はもう終わるのだと、私は何となく気付き始めていた。


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