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この世の中は、幸せで満ち溢れてる。
そんなことを私は最近、思うようになった。なぜかといえば簡単だ。私は生まれて初めて、恋をしたからだ。
年頃の女子高生らしく、私は恋愛マンガを読んで胸をときめかせ、恋愛ドラマやら映画を観て胸をキュンキュンさせる。
でもそれは、普通のことだ。特別じゃない。私だけの感情じゃない。
世の女子高生の大半が、同じイケメン俳優を見て、同じような憧れを抱く。それは至極当然の感情というか、メディアに踊らされているとでもいうか、大衆迎合的な文化にまんまと迎合しているというか。
自転車を立ち漕ぎして、街を駆け抜ける。風が私のモヤモヤを吹き飛ばしていった。
そう、小難しいことはどうでもいい。
私は彼に恋というような感情を抱いてからというもの、尋常ではないくらい胸がキュンキュンして仕方ないのだ。これが量産型であろうとオーダーメイドであろうと、私にとっては生まれて初めての衝撃的感情であることに変わりはない。
きっかけは、いつものように、私が何も考えず思ったことを口に出したときのことだった。
「それ、お母さんがつくってくれてるの?」
私は彩り豊かなお弁当と彼の顔を交互に見て言った。
「え?」
普段はあまり感情の起伏がない彼だったが、少し戸惑っているようにも見えた。だから私は畳みかけるように話し続けた。
「だってなんか、めっちゃ愛がこもってそうだから」
最近、少しだけお母さんの料理の手伝いをするようになった私には、そのお弁当にどれだけの時間がかけられているかわかった。
彼は私の言葉を聞くや否や、少し照れながら嬉しそうに言った。
「恋人が、つくってくれたんだ」
普段は静かで目立たない彼の、無邪気な笑顔。
その笑顔が、私が恋に落ちた理由だ。
お読み頂きありがとうございます。
小分けにですが毎日投稿しようと思っていますので、最後までお読み頂ければ幸いです。