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鏡の向こうの貴方が

掲載日:2018/02/12

第二十三回開催は2月10日(土)

お題「あと五分」/左利き2月10日はふとんの日、ニットの日、左利きの日です。

皆様の参加をお待ちしております。

作業時間

2/10(土)

22:07〜23:03

「玉子いくつ入れる?」

 涼がキッチンに立つときはいつも聞かれる。私はまだ寝ぼけ眼を擦りながら、

「ふたつ」

 と唇を尖らせて言った。

 はいよ、そう言って涼は冷蔵庫から玉子を二つ取ってくると、片手で玉子を割り入れてフライパンを揺する。トーストの香ばしいかおりが漂う中、涼の立てる料理の音とコーヒーメーカーの音のハーモニー。私はそれだけでもう、食欲をそそられる。

「早く着替えておいでよ」

 涼がブランケットを被ったままの私に苦笑しながら、焼いたベーコンエッグを皿に盛る。

 涼と暮らし始めたのは私の気まぐれだが、その中で些細だが気付いたことがいくつかあった。

 ひとつ。

 涼は料理が得意だ。

 私はもともと自炊しないタイプの人間で、冷蔵庫にはビールと冷凍の枝豆くらいしか入っていなかったのだけど、彼が家に来てからというもの、あれよあれよという間にキッチン用品やカトラリー、食材が並び、「人並み」の食生活が確保された。

 ふたつ。

 涼は甘え上手だ。

 私の方が年上という事もあるが、彼がオフの日には毎回と言って良い程、買い物に付き合わされる。曰く、女性の感性を大事にしたいそうだ。涼の作る料理は繊細で、なるほど女性受けしそうだ。

 みっつ。

 涼は左利きだ。

 これも暮らし始めてから気付いた。別段困ることは無いのだけど、向かい合って椅子に座ると、鏡を見て食事をしているようで、不思議な気分になったのを覚えている。

 私の唯一の興味、色鮮やかな熱帯魚たちに餌をやる。

 オフホワイトのセーターと黒のワイドパンツに着替えた私を甘やかすように涼はダイニングテーブルの椅子を引く。かしづくような彼の態度が、いつも笑ってしまう。

「ねえ、他の女の子にもそういう態度なの」

 涼は名前の通り涼やかに笑い、まさか、と言った。

「君だけだよ」

「ならいいんだけど」

 二人、一緒に食事を摂る。鏡あわせのテーブル。涼はコーヒーを淹れてくれ、私はそのかおりに満足げに頬を緩ませた。

「今日は何処へいこうか」

 涼は仔犬のように目を輝かせる。私はううんと唸り、腕を組む。

「先週は駅前に行ったんだったっけ。今日は隣駅まで行ってみる?」

 涼は待ってましたとばかりに、ジーンズの尻ポケットからおもむろに何かを取り出し、私に投げて寄越した。

「わっ」

 手の中で、じゃら、と音がして中を見る。車のキー。私は涼を見、それからまた車のキーを見た。キーには可愛らしい熱帯魚のキーチェーン。

 じゃん、と戯けてみせる涼に目を丸くする。甘やかされているのは明白で、その幸福に、私はささやかな優越感を覚える。

「道の駅まで行こう」

 涼は早々とクロゼットからコートを持ってくる。

「ねえ、早く」

「ん、あと五分」

 私は嬉しさに身を委ね、彼を引き寄せた。

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