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俺と合体した魔王の娘が残念すぎる  作者: めらめら
第3章 日常変貌〈チェンジワールド〉
20/52

それぞれの魔法

「よろしくな。御崎ソーマぁ……!!」

「ああ、よろしくキリト……」

 トライボールのコートの中央。

 キリトが凄い形相でソーマを見下ろしていた。


 朝の事で、キリトはソーマを許さないだろう。

 絶対に、何か仕掛けてくる。


「あーあ。なんでこんな事に……」

 ソーマは相手と自分のチームを見回しながら、ため息をついた。


 ソーマと同じチームなのは、嵐堂(らんどう)ユナと氷室(ひむろ)マサムネ。

 朝方のトラブルに巻き込んでしまった幼馴染。

 そして勉強も魔法も運動も、なんでも完璧のクールなイケメガネだった。


 キリトのチームのメンバーは、戒城(かいじょう)コウと式白(しきしろ)ナユタ。

 心配そうな顔でこっちを見ているソーマの親友。

 そして目鼻立ちのハッキリした、負けん気の強い女子だった。


 ナユタは確か……キリトと付き合っているんだっけ。

 なんて言うか、ものすごく面倒くさいやつらとカチ合ってしまった。


「ソーマくん。無理しないでね。リラックスリラックス……」

「ああ。わかってるユナ」

 自分の陣営の奥まで歩きながら。

 ソーマのわきから、ユナが小さい声でそう呼びかけて来る。


「急に魔法が使えるようになったんだって、御崎くん? 凄いよ、今までの頑張りが形になったんだね……」

「ん……ああ。ありがとうマサムネ……!」

 心の底から感心した様子で、メガネのマサムネがソーマを眺めている。

 ソーマは頭をかきながら、ぎこちない返事。


 別にソーマが頑張ったから、こうなったわけではないし。


「でも、まだマテリアも持ってないのに、アースボールやスカイボールに手を出すのは危険だ。御崎くんはいつも通りミドルボールを……サポートは僕がする!」

「ああ。頼むマサムネ!」

「2人とも、始まる……!」

 マサムネの頼もしい言葉に、ソーマも力強くうなずいた。

 ユナがコートの中央に設置された3つのボールを眺めて、そう声をあげた。


「はじめ!」

 体育教師の羽柴が、試合開始のホイッスルを吹いた。


「いくぞっ!」

 昨日と同じように。

 ソーマはミドルボールめがけて直進する。


 ルシオンとの合体によって得た力は、まだソーマには使いこなせない。

 いつも通り、自分の脚力と根性だけが頼りだ。


 誰よりも早くコートの中央に辿りついたソーマが、ミドルボールを拾いあげた。

 だがその時だった。


「ヘ……!」

「…………!?」

 一瞬キリトの顏に浮かんだ表情に、ソーマは強烈な違和感を覚えた。

 ソーマには確かに見えた。

 キリトはソーマを見て笑っていた。


 そして次の瞬間。


 バチンッ!


「うおあ!」

 ソーマは悲鳴を上げた。

 ソーマの抱えたミドルボールから放たれた「何か」が、ソーマの腕を叩いて、全身を痺れさせたのだ。


 帯魔(チャージ)

 ソーマは自分を打った力の正体に気づいた。


 ミドルボールに、あらかじめ雷撃(ライトニング)の魔法を仕込んだ者がいたのだ。

 術者の意思で好きな時間に発動させる、帯魔(チャージ)の魔法と併用して!


 雷撃(ライトニング)火炎(フレイム)吹雪(ブリザード)……。

 生徒の肉体を傷つけるような危険な攻撃魔法の使用は、校則でも法律でも禁じられている。

 ボールへの魔法の仕込み(・・・)だって、当然ルール違反だ。


 黒川キリト。

 汚いマネを……!

 ソーマは悔しくて、目の前が真っ暗になりそうだった。

 

 ソーマの手を離れたボールが、地面に向かって落ちていくのが、やけにクッキリ見えた。

 試合開始して間もないのに。

 ソーマが油断していたばっかりに。

 また、負けてしまったのか……!


 ……いや、待て。

 何かがおかしい。


「……これは!?」

 ソーマはボールと自分に起きている異変に気づいて呆然とする。

 

 ボールが、ソーマの手を離れたまま宙に浮いていた。

 そしてソーマの体から、体重が消えていた。

 ソーマの体もまた、校庭からわずかに浮かび上がっている。


 無重力(ゼログラビティ)

 ソーマは異変の正体に気づいた。


「御崎くん。早く……ボールを!」

 ソーマのすぐ背後から、マサムネの声。


 マサムネは黒革の手甲(グローブ)に覆われた右手をソーマの方にかざしながら、苦しげな表情だった。


 ソーマの手を雷撃が打った、その瞬間。

 マサムネがソーマとボールにむかって発動させた重力制御魔法。

 とっさの判断で放ったマサムネの魔法が、チームを敗北から救ったのだ!


「あ、ありがとうマサムネ!」

 ソーマがマサムネに答えて再びボールを手にした瞬間。

 ボールとソーマの体に、重さが戻ってきた。


 重力制御魔法は、術者に凄まじい精神集中と体力消耗を要求する。

 マサムネの力でも、数秒もたせるのが精いっぱいなのだろう。


 ソーマは再び、敵陣の奥に向かって走りだした。


  #


飛翔(フライハイ)!」

 ソーマの背中を追いながら、ユナはそう唱えて銀色の音叉を振った。


 ビュウウウウウ……

 ユナの周りで、風が巻く。

 風魔法の標的はスカイボール。

 まだ相手チームは魔法を発動させた様子はない。


 このまま一気に、ユナの風で敵陣にゴールさせてしまえば……!

 

「え?」

 だがその時だ。

 ユナは驚きの声を上げていた。


 ユナの放った風は、確実にスカイボールを捉えていた。

 それなのに……ボールは空を舞っていない。

 まるでノリで貼りついたみたいに、校庭にくっついたまま。

 その場から全く動かない!


「あ……!?」

 そしてユナは気づいた。

 ボールを先に捉えたのは、ユナの風ではなかったのだ。


絡み蔓(テンドリラ)!」

 校庭からボールに絡みついているモノがあった。

 ボンヤリ緑に光ったモノの正体に、ユナは息を飲む。


 それは式白ナユタの手首からのびた、緑色に輝く薔薇の(かずら)だった。


 召喚魔法。

 大気を漂う、魔法の元になる何かの()(ルシオンの言葉を借りればそれは魔素(エメリオ)なのだが)。

 ナユタがその力を寄り合わせて作った薔薇の蔓が、スカイボールに絡みついていたのだ。


「やられた!」

 ユナは小さく呻く。

 いったん絡み蔓(テンドリラ)に絡めとられてしまったら、ユナの風魔法でボールを取り戻すのはもう不可能だ。

 でも……。


 ユナは考えを巡らせる。

 絡み蔓(テンドリラ)の動きは、風魔法よりずっと遅い。

 スカイボールを自陣のゴールまで運ぶには、けっこう時間がかかるはずだ。

 その前に、ユナかマサムネの魔法で蔓を切断してしまえば……。


 だがその時だった。


「あれは……!」

 敵陣のナユタに起こった異変にユナは気づいた。

 彼女はユナを見て、不敵に笑っていた。

 ナユタの両手から、何かが溢れ出していた。


  #


「何を考えてるか、わかってるよ委員長。たしかにわたしの絡み蔓(テンドリラ)は遅い。でも1度こうしてしまえば……」

 戸惑うユナの顔を見て、ナユタはフッと笑った。

 

幻影(ミラージュ)!」

 キリトとお揃いの右手の指輪(リング)に意識を集中して、ナユタはそう唱えた。

 

 そして次の瞬間。

 ザワザワザワ……

 

 ナユタが発動させた絡み蔓(テンドリラ)を覆うように。

 ナユタの両手からあふれ出した凄い量の薔薇の蔓(ミラージュ)が、校庭を覆っていった。


「さあキリト。こっちは任せて、好きなだけヤッちゃいなよ……!」

 ナユタは自陣の奥に立ったキリトに目をやると、そう言って口の端をつり上げた。


  #


「目くらまし! やられた!」

 ナユタの考えに気づいたユナが、悔しげに小さくそう叫んだ。


 ナユタが発動させたのは彼女が最も得意とする魔法。

 それは幻影魔法だった。


 校庭を覆った薔薇の蔓の幻が、本物の蔓と絡み取られたボールの位置を隠してしまった。

 標的(ターゲット)に意識を集中できなければ、魔法の使いようもなかった。


「どうする。どうする。スカイボールは捨てるか……?」

 ユナは再び頭を振って、考えを巡らせはじめる。


  #


「スカイボールは取られたか。だったら僕は……」

 マサムネは、校庭を覆う蔓と呆然とするユナを振り返って小さく舌打ちする。

 目の前に迫っってくる残った1つ。

 

 マサムネがアースボールをにらんで意識を集中しようとした、その時だった。


 ス……


「…………!?」

 マサムネは息を飲んだ。

 彼の視界からいきなり、アースボールが消えていた。


座標変更(テレポート)だね、戒城くん……!」

 目の前で起きた異変。

 そして自分の背後にいきなり現れた、ある気配(・・)に気づいて。

 マサムネは魔法の正体を一瞬で理解していた。


「ハア……ハア……。くーキッツイわこれ……!」

 マサムネの数メートル背後で息を切らせているのは、消えたはずのアースボールに右手を添えたコウの姿だった。


  #


「御崎……。さっきの電撃(ライトニング)でも潰れなかったか。……ったくイラつくヤローだぜ」

 自陣のゴール手前で腕組みをしながら。

 黒川キリトは、こっちに向かって駆けてくるソーマを見ながらイライラした声でそう呟いた。


「だがいいぜ、来いよ御崎。朝のケリはココで着けてやる。てめーの大好きな委員長の見てる前で、今度こそ完璧にブッ潰してやる……!」

 キリトは残忍な表情で、ニヤリと笑って自分の右手を上げた。


「ナユ。やれ!」

 キリトはナユタの背中に向かって、そう叫んだ。


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