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俺と合体した魔王の娘が残念すぎる  作者: めらめら
第3章 日常変貌〈チェンジワールド〉
19/52

魔法実技

(はぉおおおおお……美味かったぁ。あの『キュウショク』とかいうのを作った料理人。ユナほどではないが、かなりの腕前だな褒めてやる。しかしあの『ギュウニュウ』とかいう飲み物はどうなんだ? なんか甘ったるくて料理に合ってなくないか? もう少しサッパリとした爽やかな飲み物の方が……)

「まったくうるさいなールシオン。食べてる時はあれだけ喜んでたくせに、もう文句タラタラかよ……?」

 昼休み。

 校舎の屋上の金網にもたれながら。

 ソーマは頭の中のルシオンに、ブツブツ小言を言っていた。


 給食の時間も大変だった。

 献立はヒジキの炊き込みごはんと肉じゃが。

 何かを1口食べるたびに、頭の中に響くルシオンの悶絶音に、ソーマは声をあげるのを我慢するのに必死だった。

 あんな教室(トコロ)で大声をあげたら、完全に変なヤツあつかいだ。

 

 昨日から、色々なことが起こり過ぎだ。

 ソーマは気持ちを整理したくて、1人で屋上からの景色を見渡していた。


 空が高くて風もすずしい。

 御珠(みたま)の街並みと、向こうに広がる山並が一望できた。

 気分を落ち着けて、考えをまとめるのに丁度よかった。


「それにしても……」

 ソーマは昨日の夜の景色を思い出しながら、眉をひそめた。


 コウのスマホでいくら調べても。

 昨日の事件は小さな「山火事」。

 ドコのニュースサイトにもそれ以上は書かれていなかった。


 ルシオンを攻撃してきた黒衣の女。

 ルシオンの国から剣を盗んで持ち去った『所長』と呼ばれていた男。

 いったい何者で、なんのためにそんなことを……?


「コゼット? 聞いていいか?」

「なんですのソーマ様?」

 ソーマは自分の肩にとまった小さな青いチョウにそう尋ねた。

 ルシオンの侍女コゼットに。


「お前たちが盗まれた剣って……そんなに凄いモノなのか?」

「はい、それはそれは。『ルーナマリカの剣』は、深幻想界(シンイマジア)の中でも7大至宝と呼ばれるほどの偉大な剣なのです。振るう者の意思の力で魔素(エメリオ)を自由に吸い取ったり、吐き出したりすることの出来る剣なのです」

魔素(エメリオ)を……?」

「はい。それがどれ程もの凄い事なのかは、人間のソーマ様には、なかなか説明しにくいのですが……」

 ソーマの問いかけに、コゼットは少し困った様子でそう答えた。


「盗賊グリザルドによって剣が盗み出されたと知った時、正直わたくしたちは不思議でした。深幻想界(シンイマジア)の、どの地に隠しても、どんな魔王の手に渡ったとしても、剣の存在はたちまち周りの国々に知れ渡ることでしょう。大国インゼクトリアと戦争になるのは必定(ひつじょう)。わざわざそんな危険を冒してまで剣を盗む者の目的が、わたくしたちには分からなかったのです。ですが……」

 コゼットの声が不安げだった。


(剣が持ち去られたのは深幻想界(シンイマジア)の地ではなかった! この世界(・・・・)。人間の世界だったのだ!)

 ルシオンもさっきとは一変。

 イライラした様子でそう声をあげる。


「何か……心あたりは無いのか? 犯人の素性とか目的とか……」

「わかりません。ですが、たしかに不穏な兆し(・・)はありました。もう何年も前から噂だったのです……深幻想界(シンイマジア)の地に人間が入り込んでいると……!」

「人間?」

 ソーマは思わず声を上げた。

 ちょうどこちら(・・・)の世界にやって来たルシオンやコゼットたちと同じように。

 向こう(・・・)の世界に入っていく人間がいるという。


「誰が? 何のために?」

「それもわかりません。でもグリザルドが取引をしたのは、そういう連中だったことは間違いないでしょう。深幻想界(シンイマジア)の各地に通じる大盗賊と手を結んだ何者かによって、剣は人間の世界に奪われたのです……!」

 ソーマに答えるコゼットの声が、震えていた。


「はー……」

 全く手がかりのない状態に、ソーマはため息をついた。


「なにか……探し出す方法とか無いのかコゼット? 剣の場所とかさ?」

「いいえ。今のままでは、何もわかりません。ただ……」

「ただ……?」

 ソーマはコゼットの言葉が気になった。


「この世界の中で、何者かの手で剣の力が振るわれた(・・・・・)ならば、魔素(エメリオ)の希薄なこの世界では、剣の吐き出す膨大な魔素(エメリオ)は強力な(シルシ)となります。わたくしたちに剣の場所を正確に教えてくれるでしょう。それと……可能性はもう1つ……」

「もう1つ?」

 コゼットの言葉に、ソーマが何かを訊き返そうとした。

 その時だった。


「ソーマくん!」

「ユナ……」

 屋上出口の方から、ソーマを呼ぶ声。

 ソーマが振り返れば、立っているのは嵐堂ユナだった。

 なんだか心配そうな顔で、ツカツカとソーマの方に歩いてきた。


「どうしたの? なに1人でブツブツしゃべって……まさかそのチョウチョと……!? 本当に朝からどうちゃったの?」

「いや……違う何でもないユナ! その……なんてゆうか……腹話術の練習してたんだ!」

「フクワジュツ……!?」

 ソーマの口からとっさに飛び出した嘘。

 あからさまにソーマを怪しんでいるユナに、苦しい言いわけだった。


「ああ。年内にマスターしてクリスマスのアレで……ユナたちにも見せたくてさ!」

「なーんだ。そうだったんだ!」

「……え?」

 ホッと胸を撫でおろしたみたいな、ユナの笑顔。


 ソーマは戸惑っていた。

 ユナはソーマの出まかせを、完全に信じてしまっているみたいだった。


「クリスマスの頃には……リンネさんも帰って来るものね。ソーマくん、リンネさんのためにそんな準備を……!」

「う……うん、ウンウンそうなんだ。だから準備を!」

 ユナの早トチリに、ソーマは必死で相槌をうつ。


人形(パペット)は決めたの? もう買ってしまった?」

「いや……別にマダ……」

「そう……じゃあ、わたしが手作りしてあげる! どんなのがいい? ウシ? カエル?」

「あ、うん。ありがとな。考えとくよユナ……」

 目を輝かせてソーマを見つめるユナ。

 ソーマは伏し目がちに、オズオズそう答える。


 腹話術……本気で練習しなくちゃ。

 適当についたウソが、ユナの前で引っこみがつかなくなった。


「楽しみだなー。またアノ頃みたいにみんなで……ソーマくんとリンネさんと一緒に……めちゃくちゃ笑い合えるといいね!」

 リンネさん……リンネ……姉さん……!

 いつかみんなで笑い合ったクリスマスのホームパーティ。

 でも、今年は……!?


 空を見上げてカラッとしたユナの声に、ソーマの心はザワザワさざめいた。


 ユナにつられて、ソーマも屋上から空を見上げる。

 秋の空が、晴れていてとても高い。


「さ。もう戻ろうソーマくん」

 ユナがソーマの肩に手をかける。


「次は魔法実技だよ? さっさと着替えて集合しないと……」

「うん? ああ、そうだった」

 ユナの言葉にうなずくソーマ。

 2人は屋上出口に向かって駆け出した。


 5限目は、魔法実技だった。


  #


「ぃよぅおおおお……! 御崎ソーマくん! 今日もよろしくお願いしまっすわぁ……!」

 黒川キリトが、ソーマをにらみつけながら両手の指をポキポキ鳴らしていた。


 ソーマとキリトは、トライボールのコートの中央で向き合っていた

 キリトの額でピクピクしてる血管が、ソーマにもハッキリわかった。

 

「ソーマ? 大丈夫か? まだマテリアも用意してないんだろ?」

 ソーマの右斜めからは、戒城コウが心配そうなヒソヒソ声。


「大丈夫だよコウ。今日は魔法は使わない。昨日と同じようにやる……!」

 親友の気遣いに、ソーマは静かにそう答えた。


(「魔法」を使った球の取り合いか……! なんか……面白そうだな!)

 ソーマの頭の中で、ルシオンはワクワクした様子でそう声をあげていた。



次回は1/27(土)更新予定です。

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