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俺と合体した魔王の娘が残念すぎる  作者: めらめら
第3章 日常変貌〈チェンジワールド〉
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風に乗り歩む者

「これは……!?」

 ユナにつかまったソーマは、自分の指先に「何か」が集まって来るのを感じる。

 それは、これまで味わったことのない「力」の感触だった。


(理由はわからないが、お前の体は内側から湧き上がる魔素(エメリオ)の塊みたいなモノだ。他の連中みたいに周りのを使わなくても自分の(・・・)を使えばいい……今だ。解き放て!)

「自分の……?」

 ソーマは小さく呟く。


 ルシオンの言葉の意味はよくわからない。

 でも指先に集まって来る力は、確実に実感できた。


 こいつを……

 トキハナツ……!


 パチンッ!


 ソーマは本能的に、自分の左手の指先を弾いていた。

 次の瞬間。


 ゴオオオオッ!


 ソーマとユナの足元を、凄まじい突風が叩きつけた。


「うおあっ!」

「きゃあああ!」

 2人の足元で発生した突風……いや、竜巻(・・)が2人の体を一瞬で10メートルも上方に巻き上げる!

 パニックにおちいったユナが、ソーマの体に抱き着いていた。


(ヘッタクソだなぁ……。もっとリラックスして力に身を任せろ。風を自分の体だと思え)

「そ、そんなこと言ったってルシオン……!」

 ユナを抱きしめながら、ソーマは竜巻の流れに身を任すしかない。

 突然発生した強烈な風力に、まったく動くことができない。


 でも……風?

 どうして風なんだ?

 頭の中を、小さな疑問がかすめる。


 ソーマは確かに指先の力を解放した。

 でもそれが、風を起こす力だと思ってはいなかった。

 どうして突然、自分でもコントロールできないような竜巻を引き起こしてしまったのだろう……。


 その時だった。


(あーもう見てられない。貸せ、わたしがやる!)

「わっ! わっ!」

 ルシオンがイライラした様子でソーマに呼びかける。

 ソーマは慌てて自分の体に意識を集中するが、もう遅かった。

 ソーマの体のコントロールに、ルシオンが割り込んで来た。


「フッ……!」

 ユナをしっかり抱きしめながら。

 ソーマの姿をしたルシオンは幽かに笑った。


 パチン。

 パチン。

 パチン。


 ルシオンが左手の指先を小さく、たて続けに弾いていく。

 

 ゴオオッ!


 そのたびに発生する小さな竜巻に身を任せながら。

 ルシオンとユナはものすごいスピードで空を駆けてゆく。


(すごい……!)

 ルシオンの中で、ソーマは驚きの声をあげた。

 ルシオンは竜巻を完全にコントロールしていた。


 ユナの風魔法よりも遥かに強力なパワーとスピードを、自由自在に乗りこなしている!


「驚くようなことじゃない。『ユナ』……だっけ? この子の使った『魔法』ってやつに、お前の力を『乗せた』だけだ!」

(力を……乗せた!?)

 ルシオンの言葉を、ソーマはただ繰り返すしかない。

 さっき発生した猛烈な竜巻は、ユナの魔法をソーマの力でブーストしたモノらしい。


「お前は、他の連中の『魔法』の力を増幅させることも、逆に魔素(エメリオ)をぶつけて消滅させることも簡単に出来るのだ。力をコントロールすることを学べ!」

「ソーマくん……いったいどうしたの……!?」

 ルシオンの言葉に、腕の中のユナが呆然として目をパチパチさせていた。


「『ユナ』。しっかりつかまってろ。落ちたら痛いぞ?」

「あ……う、うん……!」

 ルシオンがユナの顔をのぞき込んで笑いかける。

 ユナは顔を赤らめてうなずくと、ソーマの背中に両手を回してギュッと力を込めた。

 

(ウグッ……!?)

 ソーマは頭の中で変な声をあげる。

 ユナの体の温かさと、柔らかな胸の感触が、しっかりソーマに伝わってくるのだ。


「さて……と」

 そしてルシオンは、前方を走るキリトの飛翔魔機(フライトボード)を見つめてニヤリと笑った。


  #


「よう。お前!」

「おわっ! 御崎!?」

 飛翔魔機(フライトボード)の真横からいきなりかかってきた声に、黒川キリトは驚きの声をあげた。

 キリトの右側面を飛んでいるのは、ユナを抱きしめた御崎ソーマの姿だった。


「さっきはサンザン煽りまくってくれたな。だがいいぞ。そのタラタラした乗り物で、このわたしと勝負するか?」

「御崎……お前、でも、どうして……!」

 ソーマの挑発に、唖然とするキリト。


 魔法拒絶者(マジカリジェクト)

 嵐堂ユナに頼らなければ、空も飛ぶことも出来ない無能が、どうしていきなり?

 考えている余裕はなかった。


「ほーれ、ほーれほーれ……!」

 ギュウウウウン………

 

 ユナを抱きしめたまま。

 ソーマのスピードがどんどん上がっていく。

 キリトの乗った飛翔魔機(フライトボード)を、ジリジリと追い抜いて行く……!


 そんな馬鹿な!

 キリトは冷や汗を浮かべながら、右手の指輪に意識を集中する。

 飛翔魔機(フライトボード)を制御する風魔法を研ぎ澄ます。


 飛翔魔機(フライトボード)はキリトの魔法をブーストして、かつ制御を簡単にする特注品だった。

 70万円もする高価なモノだが、キリトの家は裕福だった。

 

 キリトの「ステータス」を示すこのマシンが……。

 スピードで生身の術者に負けるなんて、ありえないことだった。


 それも、相手が、よりによって『御崎ソーマ』!


「クソッ!」

 キリトは怒りの声をあげる。

 飛翔魔機(フライトボード)の出力が最大値(マックス)まで上昇していく。

 キリトの体が、だんだんソーマの体に並ぶ。

 このまま一気に追い抜いてしまえば……。


 だが、その時だった。


 ビュンッ!


 風を切る音がした。

 キリトの体を凄まじい風圧が叩いた。

 キリトの視界から、ソーマとユナの姿が消えた。


「な……!?」

 どうにか体勢を立て直しながら、混乱するキリト。

 ソーマの体が急加速していた。


 飛翔魔機(フライトボード)なんか問題にならないような速度でキリトをブッチギッて、そしてその行方は……!


「いない、いない……バアアッ!」

「おわああああああああああ!!?」

 ソーマの顏が、キリトの目と鼻の先にあった。

 キリトの操る飛翔魔機(フライトボード)の先端にチョコンと飛び乗って。

 ペロリと舌を出している。


 のけぞるキリト。

 飛翔魔機(フライトボード)は完全にバランスを失っていた。

 学校は、もう目前だった。


  #


「よし到着。ここでいいんだろ? 『ユナ』?」

「あ……そうだけどでも……!?」

 ソーマとユナは、学校の校庭に降り立っていた。


「クソオオオ!」

 上空からはキリトの悲鳴が降って来る。

 制御不能になってジグザグに空を跳ね回っている飛翔魔機(フライトボード)から、キリトの体は投げ出されていたのだ。

 地上に落下してゆくキリト。


 このままキリトの体が、校庭に叩きつけられる……と思ったその時。


「『叩きつけろ(パウンドイット)』!」

 右手の指輪を校庭に向けてキリトは叫んだ。

 

 ゴオオッ!

 校庭から巻き上がった風が、キリトの体をクッションのように反発させる。

 どうにか無傷で、キリトは校庭に着地していた。


 飛翔魔機(フライトボード)の方も校庭のずっと向こうに墜落していた。

 こっちはバラバラになって、手の施しようがないだろう。


「御崎ソーマぁあああああああ!」

 キリトが、顔を真っ赤にしながらソーマの方をにらんだ。

 かたく拳を握りしめて、ソーマとユナの方に駆け寄っていくキリト。


 だがその時だった。


「黒川キリト! 空中での暴走行為……いったい何を考えている!」

 教師の厳しい声が、校庭に響いた。

 指導主任の羽柴が、キリトとバラバラになった飛翔魔機(フライトボード)をにらみつけていた。


「待ってくださいセンセイ! 俺は何も……全部コイツが……!」

「わたし、見ていました」

 慌てたキリトがソーマを指さして、羽柴に言い訳しようとする。

 だがユナの冷たい一声が、キリトの言葉を止めた。


「黒川くんが、わたしと御崎くんの前方を邪魔して……びっくりして、わたしのコントロールが狂ってしまったんです。それを御崎くんが……フォローしてくれたんです!」

「嵐堂ユナか……。黒川、いますぐ指導室に来い。話はソコで訊く!」

 羽柴は穏やかな顏でユナに目をやると、再びキリトに厳しい声をあびせた。


 クラス委員長のユナは真面目で成績優秀。

 教師たちから、絶対の信頼を勝ち取っていた。


「クソッ! 御崎……あとでだ……!」

 キリトが凄い目でソーマをにらみながら、羽柴に連れていかれてゆく。


「ソーマくん。すごかった。なんてゆうか……やったね!」

「なに。あんなのチョチョイノチョイだ!」

 ユナが、珍しく興奮した顔でソーマを見る。

 ソーマの姿をしたルシオンは、手をパタパタさせながら涼しい顔だった。


「ソーマ!」

「ソーマくん!」

 戒城コウと姫川ナナオが、校門の方からソーマに駆け寄ってきた。


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