殺戮の夜
いったい何が、起きたんだ……!?
御崎ソーマは、目の前で起きている出来事が信じられなかった。
ソーマが立っている夜の森。
小さな池のほとり。
空に上った満月の光が辺りの草木を銀色に濡らす中。
そこかしこでパチパチ音を立てながら、折れた木の枝や落ち葉が燃えていた。
いまソーマの周囲に転がっているモノたち。
それは黒焦げになった何人もの人間の死体。死体。死体。
そして屍は人間のものだけではなかった。
ソーマのすぐ前に横たわっているモノ。
それはソーマがこれまで見たことも無い怪物だった。
ゴツゴツした岩の様な鱗が炎に焼かれて炭化している。
身体のそこかしこからドス黒い血が噴き上がっている。
大きな、双つの頭を持った……蜥蜴人。
これを……俺が……!?
ソーマは呆然として自分の両手を見つめる。
血に染まったソーマの手。
だがソーマが見慣れたいつもの自分の手ではなかった。
ソーマはフラついた足取りで歩き出す。
池のほとりに駆け寄って、水面を覗き込む。
夜空の月をくっきり浮かべた水鏡に映ったソーマの顔は……。
自分の姿が、信じられなかった。
14歳の男にしては小柄でほっそりしていて、いつも周りから「女みたい」なんて笑われるソーマだったが……
いま覗き込んでいる姿は、もうそんなレベルではなかった。
着ていたはずの学校のブレザーが、影も形もなかった。
かわりにソーマがまとっていたのは、フリルのついた黒鳥のような優美なドレスだった。
そのドレスから、スラリと伸びるむき出しの手足。
顔も変わり果てている。
まるで雪の様な白い肌。
ばら色に染まった頬。
桜色の唇。
炎から巻き上がる熱風を受けてゆらめく、輝くような銀色のロングヘア。
そして髪の毛の周囲にパチパチと瞬いている紫色の火花。
水鏡に映っていたソーマは、紅玉のような真っ赤な瞳をした美しい顔立ちの……少女の姿だった!
俺の身体は、いったいどうなってしまったんだ!?
ソーマは茫然として変わり果てた自分を見つめる。
落ち着け……考えろ……思い出せ。
ソーマは頭を振りながら、必死に自分の記憶をたどる。
そうだ。
全ての始まりは、あの時の……!