第3噺「にしても、セリトはリスィに甘過ぎるよね」 「あっ?」
「遅いぞ。兄さん、マナ」
何だかんだ言い合いつつ、仲良く喋りながらクロウスの家に着いた二人を見て木刀を携えた少女がそう言い放つ。
腰まであるセリトと同じ黒髪を後ろで一つに纏めたポニーテール、高圧的な目にスラッと伸びた手足、肉付きが良いふくらはぎに筋肉と脂肪の黄金比率が作り出した太股がチャームポイントのセリトの妹、リスィだ。
いや、遅いってまだ九時半だよ?
「もう、九時半だ」
理不尽な糾弾に思わず反論するも、少々怒気が孕んだリスィの一言に一蹴される。
何さ、自由参加なんだから別に何時に来ようがいいじゃないか。
「で、お前は中に入らず何やってんだ?」
少し腹が立ったので、言い返してやろうとした私を手で制しながらセリトが尋ねる。
クロウスの授業は午前中は座学、午後に魔法や体術の実戦練習をするのが定番だ。いつもなら九時には家の中に入り授業を始めるのだが、今リスィはクロウス宅の中では無く庭にいる。
「ああ、クロウス先生は少々用事があって今は家を空けている。帰って来るのは昼過ぎになるそうだ。よって今日は午前中の授業は無い」
なんだと?なら昼まで惰眠を貪る事が出来たんじゃないか。知ってたのなら連絡ぐらいして欲しい。家が隣同士なんだから。
「私も今朝、クロウス先生にそう言われたんだ。連絡のしようがない。それにお前達が本来授業が始まる九時までにここに来ると思っていたからな。わざわざ家に帰る必要などないだろう?」
私の心を見透かしたようにリスィは、真面目に授業を受ける気の無い私とセリトを遠回しに責める。
やだやだ、これだから真面目ちゃんは。結果として昼までに来れば良くなったんだから、多目に見て欲しいね。
「オドソリとミリファは帰ったのか?」
じゃないかなぁ?いないし?
姿の見えない友人の名を辺りを見渡しながらセリトが言う。
オドソリ・ウリガニアはセリトと同い年の男の子で、美形なのであるが超が付くほどの怖がりで臆病者という、なんとも残念なチキメン君。
ミリファ・マキネビルはこの中で最年長の十八歳で、童顔で豊満な胸という強力な凶器をその身に宿す女の子だ。その上、ドジッ子&天然属性まで備えているのでなお恐ろしい。
昔、つい衝動に駆られミリファを襲った時に、邪念だらけの私にとっては眩しい程の笑顔で「マナちゃんは甘えん坊さんだね。」と言われ優しく抱き締められた。あの日から私はこの愛玩具・・・もとい、トロくて危なっかしミリファを誰にも渡さないと心に決めた。
とまぁ今現在、クロウス塾に通って(私は通わされて)いるのは私とセリト・リスィ兄弟、それにオドソリとミリファの二人を加えた五人。
二人はリスィほどでは無いものの、真面目に授業を受ける優等生だ。そんな二人がこの時間になってもいないという事は、午前中は休みだと聞き家に帰ったからだろう。
そうセリトと二人で納得していると、
「何を言っている。二人ならそこにいるだろう?」
そう言いながらリスィは手に持っている木刀を左の方に向ける。その先を見ると下を向き手足を伸ばして、塀にもたれ掛かり座っている二人がいた・・・のだが、
「「うわぁ・・・」」
思わず呆れた声が出てしまった。二人共意気消沈というか何というか、完全に真っ白に燃え尽きてしまっていて、ものの見事に白色の塀と同化している。居ると分かった今でも、目を凝らさないと二人の姿は見えなくなってしまう。
・・・道理で気づかないはずだよ。・・・リスィ、二人に何したのさぁ?
「うん?折角ここに来たのだから昼まで自習でもしておこうという事になってな。オドソリとミリファに木刀を使った模擬戦の相手になってもらったんだ」
リスィの剣術の腕前はかなり高く、セリトをほぼ一方的になぶり殺せるほどのに強い。体術より魔法が得意な二人にとっては、いくら二対一でも勝ち目が無いどころか、ワンサイドゲームになるのは必須な展開だ。大方リスィに勧められ断り切れなくてやる事になったのだろう。
可哀想に、御愁傷様です。
「どんなハードな模擬戦すれば三十分足らずで二人があんなに疲弊するんだ。どう見てもやり過ぎだろう」
セリトは呆れながらに強い口調でリスィを責める。
その声を聞き、「またか」と内心思いながら私は二人から少しだけ離れる。
セリトが強い口調で喋るのは本気で怒っている時だけ。こうなると、大体いつも二人のケンカが始まる。仲裁に入るのは面倒なので、いつものように心の中で茶々を入れつつ傍観者に徹する事にしよう。
ムッとした顔でリスィから口火を切る。
「適度にやった。現に私はそこまで疲れていない」
えっ、どこが?君が疲れてないのはただ単に、君が化け物だからでしょ。
「お前はな。だがあの二人は違うだろ」
そうだそうだ!
「二人共体力が無さすぎる。これくらいした方があいつらも鍛えられるだろう」
リスィ、君ってぇやつぁ何様気取りなんだい!
「そうして欲しいって二人が言ったのか?違うだろ。どうせお前が相手してやるだか何だか言ったんだろ」
丁度良い機会だ、私が二人を鍛えてよろうーー的な?
「・・・だったらなんだ」
おやおや~?さっきまでの威勢は何処にいってしまったんだいリスィさんよぉ!覇気が無くなってやすぜ!?
「なんだもクソもあるか。誰しも得意不得意はあるだろう。短所を伸ばすのは良い事だが、無理やりしても意味無いだろうが」
セリトの兄貴はホント良い事言うぜ。一生ついて行きます!
「・・・」
何黙って下向いてやがんだ自己中女!いつものマシンガントークはどうした!ジャムったか!?
「本当はやり過ぎたって思ってんだろ?だから反論しない。なら、素直に謝ってこいよ。大丈夫さ、二人共許してくれる」
そう言ってリスィの肩をセリトは優しく叩く。
「・・・謝ってくる」
そう呟くとリスィはオドソリとミリファのもとに走っていった。その背中を目で追いかけながらセリトは小さく嘆息する。
いやぁ、今回は早く終わったねぇ?
事なかれ主義のセリトは基本的にリスィに怒られても適当に聞き流している。
そんなセリトが今回のようにリスィに対して怒った時は大抵、セリトが言い負かす。
「まっあいつ自身、自分に非がある事を理解してたからな。正しいやり方だと思ってやった事だから、間違っていたなんて認めたく無かっただけだろう」
子供だねぇ
深々と頭を下げるリスィに、笑顔で首を横に振り何か言っている二人を遠くから眺める。
そんな私達に気付いたのか、こっちを見てぎこちなく手を振ってくる二人に苦笑しながら手を振り返す。あの様子だと、まともに歩けるようになるまで時間が掛かりそうだ。
・・・にしても、セリトはリスィに甘過ぎるよね。
「あっ?」
苦い顔をしながらセリトは私を睨む。
オドソリもミリファもこんな事でリスィの事を嫌いにならないと思うよ?あのままリスィが謝らなかったとしても、少し苦手意識を持つぐらいでいつもの事だと片付けただろうしね。
セリトは普段ほとんど怒る事は無い。そんなセリトが怒るのは、誰かを思っての時だけだ。愛情があるからこそ怒る。
今回もリスィが二人に嫌われるんじゃないかと思い、そうなる前に謝らせるべく叱ったのだろう。
「別にリスィに甘いわけじゃないだろ」
そうだね。リスィにも甘い・・・かな?誰かを思って怒るだなんて、リスィが真面目過ぎるならセリトは優し過ぎるよね。
「・・・うるせぇよ」
意地悪な笑顔を浮かべ顔を覗き込むと、セリトはバツが悪そうに頭を掻きながらそっぽを向く。微かに頬が朱色に染まっているように見えるのは気のせいでは無いだろう。
あらあら、照れちゃって~。可愛いなぁ♪
「あっ、その、兄さん」
いつも間にか戻って来ていたリスィが、セリトの前に立ち歯切れ悪く声を掛ける。
「んっ、どうだった」
「許してもらえた」
「そうか、だから言ったろ?良かったな」
「・・・いつもありがとう、兄さん」
「お互い様だろ」
そう言いながらリスィの頭を笑顔で撫でるセリト。これはこの兄弟のケンカ後のいつもの光景だ。何時だってどれ程言い合っても最後には、周囲がドン引きするほどイチャコラする。本当に仲慎ましいシーンだが、見ている方にも気を使ってほしい。
正直、醸し出す空気が甘過ぎて吐きそうだ。
「それでな、その、兄さん達に模擬戦の相手をしてほしいんだ」
「「ええ~」」
申し訳なさそうに手を擦りながら、上目遣いで性懲りも無く懇願するリスィの言葉に二人揃って心底嫌な顔をしてしまう。
「大丈夫だ、ちゃんと手加減する」
気合いを入れるように胸の前でガッツポーズをするリスィ。
そういう問題じゃないんだけどなぁ。
横を見るとセリトが肩をすくめ、首を小さく振りながらこっちを見ている。諦めろと言う事だろう。
リスィは真面目だが頑固でしつこいうえに思い込みが激しい。自分の正義が何よりも正しいと思っているタイプの痛い少女だ。どうせ今も、セリトや私はもっと強くなった方が良いなんてくだらない理由で言っているのだろう。
馬鹿馬鹿しい、私は努力して強くなる必要など無い。
私はパス。セリトがやってあげたら?
「おい、俺一人に押し付けるなよ。俺だってやりたくねぇよ」
二人に背を向け、クロウスの家に入ろうとする私をセリトが止める。
こいつ・・・、地獄に堕ちるなら一人で落ちろよ。私まで巻き込むな。
セリトさっき言ってたよね。あの売女野郎、いつもいつも俺に迷惑掛けやがって!今日こそケツの穴に肘まで腕突っ込んでキャンキャン言わせてやるっ!!って。
「言ってねぇけど!?」
「・・・兄さん?」
デタラメを言う私に驚愕するセリトを、リスィは冷ややかな目で睨む。
「いやっ、待てリスィ!俺はそんな事言って無い!」
「じゃあマナが嘘を付いていると?」
セリトの後ろにいる私をリスィはチラッと見る。
そんな・・・ひどいよセリト。リスィ、私、嘘なんか言ってないよ?・・・信じて。
目を見開き肩を震わせ、今にも泣きそうな顔をした私は両手で顔を覆う。
そんな私を見たリスィの殺気のこもった目が、呆然と突っ立っているセリトを完全にロックオンし射抜く。
「・・・兄さん、嘘を言うならもう少しマシな嘘を付け。マナがそんな汚い言葉を使うはずが無いだろう」
「使ってたよな!?今目の前で使ってたよな!?」
私、セリトが何て言ってるのか分からなかった。何となく、悪口か何かかなって思って・・・。私、汚い言葉だと知らなくて・・・、それでっ。
嗚咽混じりの言葉を詰まりながら言う私に、リスィは優しく微笑み掛ける。
「マナ、もういい。家に入って休んでいろ。これは私が処刑・・・いや、お仕置きしておく」
「処刑ってなに!?俺、何されんのっ!?マナ、いい加減にしろよ!!このままじゃあ、間違いなく俺の命が危ないから!!」
「いい加減にするのは兄さんだ。さぁ、処刑を・・・もとい、模擬戦をしようか」
「お前どんだけ俺を処刑したいんだ!?ちょっ、マジで待てっ、たのっ、危ねっ!!木刀は首を跳ねる道具じゃないぞ!?的確に首を狙い打ちしてくるなっ!!」
強烈な水平斬りをセリトの首目掛けて放つリスィ。上体を反らしギリギリでそれをかわしたセリトが後方に飛びながら叫ぶ。
それを予想していたかのように距離を一気に詰めたリスィは、着地直前のセリトに肉薄し隙だらけの脇腹に回し蹴りをおみまいする。
「っ!?」
まともに食らったセリトは顔を引きつらせ、右方に派手に吹き飛ばされる。地面を数回転がり勢い良く起き上がったセリトは、前方を睨みようやく臨戦体制をとる。
そんな兄弟の馬鹿騒ぎを尻目に私は静かに玄関へと向かう。
リスィは私の素を知らない。仮面を付けた私しか見ていないので、やる気が無くいつも眠そうにしているが、実際は寂しがり屋で心優しい女の子・・・という認識をしているのだろう。
ゆえに、私が汚い言葉を使うなど想像もつかないだろうし、ましてや嘘など付くはずが無いと思っている。なにせ思い込みの激しい正統派ヒーローのような少女だから。
いやはや、こういう時にこそ、この厄介な性格は有効利用出来る。頼りにしてるよ、お馬鹿なリスィちゃん?
リスィに気付かれないように、されどセリトには見えるように後ろを覗き見しニタッと笑う。
計算通りセリトには私の笑った横顔が見えたようで、唖然とした顔で体を硬直させていた。そんな隙を逃すはずの無いリスィの追撃がまたもセリトに命中している。
戦闘中の余所見は厳禁だというのに・・・、ホント馬鹿だなぁ。
後ろでセリトが何か言っているが私はフル無視を決め込み、爆笑したいのを何とか我慢し玄関の扉を開け家の中に入る。
恩人でもある親友を自分の都合で簡単に切り捨てる事が出来る私が、私は本当に大好きだ。
*****
邪魔するで~。
扉を開け誰もいないと分かっているが、礼儀として一応挨拶をしておく。
お決まりのセリフが返ってこないので少し寂しい気持ちになりながら、躊躇する事無く他人の家に堂々と入りいつも授業を受けているリビングを通り抜け、階段で二階に上がる。
二階にはクロウスの寝室と物置、それと書斎がある。まだ寝たり無い気分なので寝室で一惰眠でもしようかと考えたが、翁汁が染み込んだベッドで寝るなどアイアンメイデン並みの拷問だ。
欲に溺れ甘んじて拷問を受けるか、欲を振り払い寝れないストレスを溜め込むか悩みに悩んだが、泣く泣く脳内から睡魔を追い出す事にし、頭を左右に振りながら一番奥にある書斎を目指す。
クロウスは教師であったが、魔法学の研究をしていた学者でもある。その為、魔導書や魔具に関する本、魔物の生態が書かれた本などを千冊以上保有している。
私は勉強は大嫌いだが、読書は大好きだ。特に魔法関連の本は読んでみると、案外面白い事が書いてあるので好んで読んでいる。
毎朝私が起きれないのは父、リシュンからの遺伝では無く単純に夜遅くまで本を読んでいるせいだろう。
お母さんには悪いけど、夫婦の夜の営みを見てしまった事は何回かあるんだよねぇ。
そんな事を思いながら私は、書斎に入り適当に本を取ろうとし止める。
違う違う、今日も聖遺物に関する情報を集めないと。
聖遺物とはーーー、遥か昔の旧暦と言われる時代に作られた建造物、遺跡から発見された物。
古の人間が作った物なのか、神が作り人に与えた物なのかもわからない代物で、それぞれ固有の形状をしており、固有の魔法が使える特殊武装。
そもそも聖遺物は発掘された当時、500年以上前から現れ始めた魔物達に対抗出来る唯一の物だった。
しかし数が少なく貴重であった事、扱うには高い魔法耐性や技術及び才能が必要である事、内包されている魔法が強力過ぎる事などの理由があり、現在ではあまり使われておらず、各国の切り札的存在となっている。
今の人間の武器は魔具の方が主流だ。魔具とは聖遺物を真似て作った物、言わば偽物だ。
当然、聖遺物よりも魔法の威力や武器としての性能は劣るが、比較的扱いやすい。
本来魔法とは、まず少量の魔力を体外に出し術式陣を描く。術式陣が完成してから大量の魔力を流し込む事で魔法が発動する。この一連の流れが出来る者の事を魔法使いと呼ぶ。
しかし魔具は内部に、術式が初めから組み込まれているので、魔力を込めるだけで魔法が使える。つまり、自身で術式陣を描く事が出来なくとも、魔力を放出する事さえ出来れば魔具を使う事が出来るのだ。
このように魔法は使えないが、魔具を扱う事が出来る者の事を魔具使いと呼ぶ。
魔法使いと魔具使い、それに聖遺物を扱う超越者。
今の時代の戦争はこれらの人間を使い行われる。普通の人間では、戦争に出て行っても何の役にも立たない。
それゆえ、各国は魔法技術の向上や魔具開発に莫大な金をかけている。とりわけ、あまり使われていないとはいえ強力な武器である事には変わり無い聖遺物の発見にはかなり力を入れている。
小便くせぇド田舎にいる七歳の美少女である私には、手に入れるどころかお目にかかる事さえ出来ないギガ貴重でテラ危険な代物を何故調べているのかというと、
・・・手に入れちゃったんだよねぇ、それが。
私はポケットに手を突っ込みそれを取り出す。出てきたのは楕円形で透明色の宝石が付いた首飾り。
一週間程前、レイネルの知人に会いに王都に行った時に、リシュンが露店で買ってくれた物だ。
まさか、激安セールで投げ売りされてたこれが聖遺物だったなんてね。流石に驚き通り越して呆れたよ?
買ったリシュンはおろか、売ってた店主もこの首飾りが聖遺物だと気付いていなかった。阿呆丸出しだ。
ちなみにレイネルとクロウスにも見せたが、特に変わった反応はしなかったので、おそらく気付いていないだろう。私の周りの魔法関係者共は馬鹿ばっかりだ。
まぁ、私も貰った時は気づかなかったけど。
リシュンから手渡された時、「これ、何か変」と少し思ったものの特に気にせずに受け取った。異変に気が付いたのは王都から帰ってきた夜の事。
いつものようにクロウスから借りた本を読もうと部屋の明かりを消し、枕元にあるランタン型魔具に魔力を注ぎ込み明かりを付けようとした時。
首からさげていたこの首飾りが微かに光ったのだ。おそらく、私の魔力に反応したのだろう。
直ぐにその事に気付いた私は、今度は首飾りに直接魔力を流し込む。先程より光は強くてなったがそれ以上の反応は無い。それを見てこれが聖遺物であると確信した。
魔力に反応した以上、これは魔具か聖遺物かのどちらかだ。自慢じゃないが私は大量の魔力を所持している。そして首飾りにはかなりの量の魔力を送った。
しかし、魔法は発動しなかった。魔具であれば確実に魔法が発動するほどの量を注ぎ込んだにも関わらず・・・だ。
つまり、発動させるにはもっと多くの魔力が必要だという事になる。そんなに魔力が必要となるものなど、この世界には聖遺物以外存在しない。
ゆえに、これが聖遺物である事を示しているのだが、
でも、聖遺物であれば誰が見ても一目でわかるはずなんだけどなぁ。
そう、何故誰もこれが聖遺物だと気づかなかったのか。そもそも本当にこれは聖遺物なのか。私の勘違いなのではないが。
そんな疑問を解決するために今、私はこれについて調べている。調べ始めて一週間たったが、何一つわかった事は無いけど。
せめて、名前さえわかれば何とかなりそうなんだけどなぁ。
つい、ぼやいてしまう。仕方なかろうに、勉強嫌いの私がここまで調べて何も無いとか正直苛立ちMAXハートである。
魔力をしっかりと吸収している為、何らかの条件さえ満たせば発動出来るとは思うが、その条件が分からなければ何の意味も無い。ただの薄汚れた首飾りである。
まぁ、聖遺物であろうと無かろうと正直どっちでもいいんだけど?ただ娯楽のねぇこの村でやる事無いから興味本位で調べてるだけだし?
後数日だけ調べて何も分からなければ粉々の木っ端微塵にしてやろっと。大量の魔力を吸引している時点で、危険な代物であるのは間違い様の無い事だしね。
よしっ、とりま片っ端から書物を読み漁ろうか。
手短にあった魔法関連の本を手に取り、私はそう呟きながら読み始めた。