第10噺 「そんな嘘付かずに自分の心に正直になっちゃいなよyou?」「突然のチャラス!何!?今度は何が始まんの!?」
時間は少しだけ遡る。
グレンがヴァンバッハをおちょくりまくり、ララリスとクロウスはそれを視界の端で捉えながら「早く帰りたい」とげんなりして、調子に乗りまくるフォルゲンをどうしたものかとリシュンが悩んでいた頃。
村を最後に出た馬車は、時折車輪が石を踏む事で荷台を大きく揺らしながら未だに山道を駆け抜けていた。
村の北側にあるゲリル山脈は全長232km、南側にあるセムニッヒ山脈は全長221kmで共に標高2000m級の山々が連なり形成されている。ゲリル山脈は切り立った岩山が多く非常に傾斜角の激しい山脈であるのに対し、セムニッヒ山脈は緩やかな傾斜を持ち緑豊かな森林が生い茂る山脈だ。
«世捨て村»はこの二つの山脈がほんの僅かな距離を開けて、平行に鎮座しているその間に挟まれる形で存在している。ちなみに、村の南北が断崖絶壁になっているのは村を創設した当時の人々が住みやすい様にと縦2km、横5kmの長方形型に山を綺麗に抉り取ったかららしい。
そして今、逃げる馬車はゲリル山脈の山道を東方に向かって走っている。避難地である«ゲリムノ»はゲリル山脈を超えた先、村から丁度北側に位置する場所にあるので本来であれば山を直線的に登った方が当然早く着くのだが、如何せん傾斜が激しい上に馬車が通れるくらいの広い道などありゃしない。その為、登らずに迂回して避難するのを余儀無くされたのだ。
「少し速度を上げるか?いや、あまり出し過ぎても危険か」
そう呟くのは馬車を操る御者、クァツィーネだ。彼は少々焦っていた。予定では既に比較的緩やかな傾斜の道を通って山を超え、進路を180度反転させている筈だったのだが未だにそれが出来ていないからだ。
山道はある程度整備されているとは言え、決して楽な道では無い。道幅は馬車一つがなんとか通れる程しか無く、右手には傾斜というより最早壁である岩山が、左手には何も無い空間が・・・つまり崖がある。
少しでも操作を誤れば高さ1000mから一気に«暗闇の森»が広がる崖下へと転落するし、時折ある落石にも注意して走行しなければならない。その上、魔具による光で前方は照らされているものの、10m先までしか見えず視界は最悪と言ってもいいだろう。
如何にほぼ毎日のように、村へと生活用品や食料品等を運搬しているクァツィーネにとってこの道が通い慣れたものだとしても、この状況ではやはり事故率はグンッと跳ね上がってしまう。
それ故、ある程度速度を落として慎重に馬を走らせているのだが、安全を重視するあまり予想以上に逃走に時間がかかっている。
「焦っても仕方ありませんよ」
速度を上げるか否か悩んでいるクァツィーネに、そう優しく声を掛けたのはシルフィだ。僅かに視線を後ろに向けると、幼さしかない無邪気な笑顔を携えて何時もと変わらぬ口調で彼女は尚も言葉を紡ぐ。
「ゆっくり安全第一で行きましょう」
「とは言っても少し遅過ぎだろう。この速度だと帝国に追い付かれないか?」
「それは無いと思います。流石に帝国の騎士団と言えども、ここまで追い掛けてはこないでしょう」
「そう、かな?」
「はい。それにグレンさんが精一杯時間を稼ぐと言ってました。なので全く問題無しです」
「心から信頼しているんだな、グレンの事を」
「それはもう。グレンさんは私のヒーローですから」
「・・・そうか」
それから数分間に渡り、シルフィのシルフィによるシルフィの為のグレン話が続く。すこぶる腕っ節が強いとか、何時見ても本当に格好良いとか、ああ見えて意外と優しいとかそんな内容だ。
「グレンがシルフィに優しいのは、四十手前の今でも七歳前後の容姿をキープしているからだよ」とは、口が裂けても言えないクァツィーネはただ黙って幼女 (?)の口から垂れ流れる愛夫話を聞く事に徹する。
こんな時に何て無駄な話をしているんだと思いはしたが、これは彼女なりにクァツィーネの緊張を解す為にしているんだという事には流石に気付いていたので、話を遮る事も文句を言う事もしない。彼女だって不安でいっぱいの筈なのに自分の心配をしてくれているからだ。それに呆れという感情が際限なく湧き出ているものの、実際に肩の力は抜け切っていたから。
「ありがとうシルフィ」
「はい?」
「お前のおかげで冷静になれた。だからもう無理して話をする必要は無いぞ」
「えっ、無理なんてしてませんよ?むしろ話し足りないぐらいです。もっとグレンさんの事、語りたいです」
「・・・・・・・・・」
「冗談ですよ。なのでそんなこいつ本気か?的な顔して戦慄しないで下さい」
「お前ほんとグレンの事好きな」
「それはもう。グレンさんは私のヒーローですから」
「あれ?なんかこの展開、物凄い既視感」
「グレンさんは本当にお強い方でして。昔、私が魔物に襲われた時にですね・・・」
「もういいよ!その話はつい数分前にも聞いたわ!」
「冗談ですよ。なのでそんなに声を荒らげないで下さい」
「マジで勘弁してくれ。シルフィはほんとグレンの事となると周りが見えなくなるよな。何時もは常識人なのに」
「それはもう。グレンさんは私のヒーローですから」
「えっ、シルフィさん本気?嘘だよな?」
「グレンさんは本当にお強い方でして。昔、私が・・・」
「やっぱりか!もういいっつってんだろ!!二回も同じボケをかましてきてんじゃねぇよ!!」
「冗談ですよ。なのでそんなに怒らないで下さい」
「なんで返答がワンパターンなの?お前は『グレンはヒーロー→グレンの昔話→冗談ですよ』のパターンでしか喋る事が出来ないの?」
「それはもう。グレンさんは私のヒーローですから」
「俺はどうやったらこの無限ループから抜け出せるんだ!?なんて返したら次のステージに進めるんだよ!?」
「グレンさんは本当にお強い方・・・」
「言わせねぇよ!?それ以上語らせねぇよ!?てか、どんだけグレンの話をしたいんだよお前は!」
「おにぎりの中に入れる具材の王道は梅干しだ。いや昆布だろう。いやいや私はおかか派だ。という人類史上最大の難題ぐらい」
「・・・うん、そうかぁって意味分かんねぇ!?唐突に何言い出してんのお前!?今おにぎり関係なくない!?ちなみに俺は鮭派だ!」
「そうですか。ちなみに私のヒーローはグレンさんです」
「ガッデム!!折角話が逸れたと思ったのに!スゲェ強引にスタート地点に戻された!!」
「グレンさんは本当におつ・・・」
「ほんと何なのお前!この会話イベントにおける正解の解答って何!?」
「一、グレンさんを褒める。二、グレンさんを称える。三、グレンさんを賛美する。四、グレンさんに惚れる」
「急に選択肢出てきた!?しかもほとんど言い方が違うだけでおんなじ意味の言葉だよなそれ!?」
「オーディエンスを使いますか?」
「何この強制イベント!?知らぬ間にループから抜け出す事に成功したのに、また厄介な展開に巻き込まれた! ・・・おい、よく分からん音楽を口ずさむんじゃあない!何か腹立つわ!! 」
「・・・分かりました。フィフティ・フィフティをお使いですね?では残った選択肢は・・・、一のグレンさんを褒める。四のグレンさんに惚れる、です」
「俺の意思に関係なくサクサク進行するな!!てか、グレンに惚れるって何!?それ選んだら俺どうなんの!?」
「四のグレンさんに惚れる・・・ですね?」
「ちげぇよ!?いい加減、人の話を聞けよお前!何時もの常識人っぷりは何処に消えた!!」
「ファイナルアンサー?」
「何が!?俺は何も選んで無いぞ!?つか、何だその今まで見た事ねぇ程真剣な表情は!眼力が半端ないっスねぇシルフィさん!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・正解っ!!」
「正解しちゃった!脳内で大量の疑問符を生成しながら何か正解しちゃった!」
「では見事に正解したクァツィーネさんには豪華賞品が送られます。その中身とは・・・」
「拒否する!何かスゲェ嫌な予感するから、俺はその賞品の受け取りを断固拒否する!!」
「なんと!あの強くて格好良いグレンさんに一度だけなら何を言っても良いという権利です!!」
「三十九年間紡がれてきた俺史の中で最もいらねぇもんキタコレ!てか、言うだけなんだ!?どんな願いも一つなら叶えるとかそんなんじゃないんだ!?」
「愛の告白とか、しちゃっても良いんですよ?」
「しちゃわねぇよ!?妻帯者が妻子持ちに告白とか、ただの地獄絵図じゃねぇか!!それやったら俺、相当頭がイカれたクソヤベェ奴じゃねぇか!!」
「そんな嘘付かずに自分の心に正直になっちゃいなよyou?」
「突然のチャラス!何!?今度は何が始まんの!?」
「何、くだらない嘘言ってんのよ!自分の心には正直になりなさいよ!べ、別にあんたを心配して言ってる訳じゃないんだからね!?」
「思いの外完成度の低いツンデレ!最後にデレりゃ成立するって訳じゃあねぇぞ!?」
「じゃあ、どうすれば成立するって言うのよ!ツンデレなんて初めてやるから現在必死に新キャラ確立を模索中なのよ!べ、別に『どうしよう、どうやってこの会話を終了させよう・・・』なんて内心悩んでなんか無いんだからね!?」
「何でお前がキレてんの!?逆ギレにも程があるぞ!てか、終わらせたいなら普通に終わらせれば良いじゃねぇか!」
「あっ、オチつけなくて良いのですか。助かります。では、ううっん!・・・クァツィーネさん、あまり大声を出さないで下さい。ミリファちゃんが起きてしまいますから」
「至極あっさり終わった!?しかも何で俺が怒られてんの!?『今がどういう状況なのか考えて下さいよ、まったく』って呆れ顔で呟いてんじゃねぇよ!キャラ崩壊が凄まじ過ぎるぞお前!?」
「クァツィーネさん、一度冷静になりましょう。御者であるあなたが取り乱したら、荷台に乗っている私達まで危険に晒されるのですよ?」
「お前今どういう感情なんだぁ!!その口でよくんな事ほざけるなぁ!?お前が俺の心をこんなにもグチャグチャにしてくれたんだろーがぁぁぁ!!」
「くっ、言葉のキャッチボールがまともに出来ない程にまで混乱してしまっている。仕方ありません。ここは一つ、グレンさんの武勇伝でも語って冷静さを取り戻してもらうしか・・・」
「んっ、ありがとうシルフィ。何か急激に落ち着いて来たわ」
「・・・そーですかー。それは良かったですー (棒読み)」
「何でそんなスゲェいじけた上に心底残念そうなの?危ないから『ちぇっ』とか言って、小石を蹴飛ばすフリするのは止めなさい」
・・・・・・・・・。
「クァツィーネさん、クァツィーネさん。喉乾いていませんか?お水どうぞ」
「おっ、すまねぇな」
「クァツィーネさん、クァツィーネさん。少し小腹が空いていませんか?これどうぞ」
「・・・ありがとう」
「クァツィーネさん、クァツィーネさん。少々鼓膜が寂しくなっていませんか?グレンさんのお話で鼓膜を激しく揺らされてはど「いらねぇよ?」・・・そうですか」
「ほんっと、油断も隙もねぇなお前。もう黙って座ってろよ」
・・・・・・。
「クァツィーネさん、クァツィ「黙って座ってろ?」・・・はい」
迸る程の殺気を宿した双眸を備えた笑顔で言われたシルフィは、肩を落としてどんよりとした空気を醸し出しながらも大人しく引き下がる。
あれだけ喋っておきながらシルフィはまだ語り足りないのか、暫くの間三角座りになりぶちぶちと「何でそんなに怒るのですか」とか、「もっと話を聞いてくれても良いじゃありませんか」と頬を膨らませ文句を垂れ流していた。しかしそういえば自分は当初、緊張するクァツィーネの気を紛らわせる為に巫山戯た会話をしたのだったのだと思い出し、なのに何時の間にか話に熱が入り勝手に一人で暴走してしまった事を自覚して、急激に顔を真っ赤に染めると「わ、私は何を!?」やら、「あぁ!またやってしまった!」と今度は違う意味で激しく落ち込む。
そんな短時間で豊富な表情のレパートリーを披露するシルフィを、苦笑いを浮かべて眺めるのはセリトとリスィだ。二人は最終的にはこうなるだろうなと分かっていながら、シルフィの暴走を止める事無く終始静かに見守っていた。グレンの関わる事となると彼女は一度走り出したら止まらないという、厄介な性質を保有している事を当然二人は知っていたからだ。
なので制御の効かない暴走列車は必死になって支配下に置こうとするのでは無く、搭載された燃料が全て果てるまで端から監視している方が得策であると、ずっと一緒に暮らしてきた経験上理解している。故に今回もそうした。内心では「こんな時によく暴走出来るな」と呆れながらも。
「まぁ、母さん。とりあえず落ち着けよ」
「うぅ、セリト君・・・」
「うむ、気にする事など無いと思うぞ?」
「リスィちゃん・・・」
どうせ時間が経つにつれて徐々に冷静さを取り戻していくので放置しておいても良かったのだが、表に出していないだけで少なくない不安を抱いている二人にとって流石に今のシルフィは若干目障り・・・もとい、眠るミリファを起こしてしまう可能性があったので「面倒だ」と思いながらも宥める事にした。そう、別にシルフィの存在が心から鬱陶しいと感じた訳では無い。
「そこまで恥ずかしがらなくてもいいだろう。所詮ただの惚気話をしただけなんだし。そんなの誰だってするだろう?」
(惚気話の度を超えてる気もするがな)
「ですが」
「むしろ、ここまで誰かを思って熱くなれるなんて素晴らしい事じゃないか」
(その思い(愛情)を他者にまで強要する点はいただけないがな)
「素晴らしい事・・・」
「そうそう、リスィの言う通りだ。母さんはただ一途に父さんを愛しているだけだろ。そんなの誰にでも真似できるものじゃねぇし、母さんのそういう所、俺は素直に尊敬してるよ」
(一途ってより、最早狂気に近い気もするがな)
「尊敬出来る・・・」
誰が聞いても嘘偽りを述べていると分かる言葉を、何の躊躇も無く流暢に吐き出し続ける二人。それを素直に聞き入れるシルフィ。
思わず「何やってんだか」と呆れてしまう三人のやり取りを、数分前まで似た様な会話のラリーをしていた自身の事など完全に棚に上げて背中で聞いていたクァツィーネは、先程まで無駄に張っていた緊張が今ではほど良いものとなった事で本来の彼らしさを取り戻していた。故に、とある事に気が付く。
(これは・・・魔法、か?)
«世捨て村»に来てからというもの、御者としての仕事しかしていないクァツィーネだが、彼も一応は魔法使いだ。
とは言っても、攻撃魔法は一切使えないので戦闘はからっきしである。
彼が使える魔法は‹魔発六感›、読んで字の如く魔力の発現を五感以外の感覚である第六感で感知する魔法。分かりやすく言えば、多少魔法を使える者であれば誰しもがある程度は出来る魔力感知よりも、優れた感知能力を得る事が出来るというもの。
戦闘時には魔法の発動を先読みする事が出来るし、非戦闘時には極々少量の魔力でも感知する為、例え魔力を押さえ込む、あるいは隠している者が周辺に潜んでいる場合でも大抵は気付く事が可能だ。故に、‹魔発六感›を持つ者が一人いるだけで周囲への警戒レベルは格段に跳ね上がる。
事実、暗殺者として類まれなる実力を持つあのグレンが、「クァツィーネを暗殺するのはほぼ不可能だな」と言った程である。
そんな便利な魔法である‹魔発六感›は現在、クァツィーネ以外に使える者はいない。何故なら‹魔発六感›はそれなりの才能があり、適度に努力すれば習得出来る通常魔法とは異なり、生まれた時点で習得出来るか否かが決まっている【固有魔法】だから。
魔法の世界は才能がものを言う場所である。それを如実に表しているのが、クァツィーネの様な《固有魔法師》と呼ばれる存在だ。
彼らは通常魔法の一切を使えない。その代わりに、彼らにしか使えない特別な魔法がある。それが【固有魔法】。
各々で習得出来る【固有魔法】は異なるが、そのどれもが強力な物であり、《固有魔法師》は生来よりそれを扱う権利を与えられている。まさに魔法の才溢れる、選ばれし者だ。
数多の研究者や学者達が彼らについて調べてきたが、今のところ《固有魔法師》の全貌解明にまでは至っていない。
分かっているのは【固有魔法】は《固有魔法師》しか使えない事、《固有魔法師》は【固有魔法】しか使えない事、そして《固有魔法師》の誕生に必要な要因は血脈的要因・環境的要因・恩恵的要因の大まかに三つあるという事。
血脈的要因とは、血縁関係がある者からそっくりそのまま同じ【固有魔法】が遺伝する事を指す。クァツィーネはこれに当て嵌まり、数年前に亡くなったが彼の叔父も‹魔発六感›を使う《固有魔法師》であった。
環境的要因は、受精して胎盤の中にいる時の母体が置かれている環境に影響されて、恩恵的要因はそれ以外の要因で、つまり端的に言えば何故《固有魔法師》になったのかよく分かっていない場合の者が当て嵌まる。
この様に様々な要因で《固有魔法師》は生まれる。その数は神威使い同様に極めて少なく、貴重な人材であると各国に重宝されている。
その反面、魔法開発の良い実験体として命を狙われる事も多く、特にその秘めた力が発現するとされている十二歳から十八歳の子供の頃に誘拐されて、助け出される前に命を落とす、あるいは重度のトラウマを植え付けられて心が完全に壊れてしまう者もいる。
今は最愛の人と二人で幸せな日々を過ごしているクァツィーネだが、彼も最悪の事態こそは免れたものの悲運な人生を歩んで来ている。
閑話休題。
ゲリル山脈には極稀に魔物が現れる。クァツィーネはそれを警戒して、村を出てから定期的に‹魔発六感›を使っている。襲われる前に存在を感知して、荷台に乗る者達に戦闘準備を促す為だ。
そう、悲しい事にクァツィーネには魔物と戦う術は無い。だからそういった事態になった時は、今もくだらない話を続けているシルフィとリスィ、それにセリトの三人が対処する様になっている。
一大人として子供に戦わせるのは物凄く心が痛むのだが、リスィとセリトの実力は「ゲリル山脈の魔物程度ならば問題無い」とクロウスが太鼓判を押していた。
それにシルフィはこう見えて優秀な魔具使いだ。グレンから直々に叩き込まれた魔法技術は、相当なものであるらしい。随分前に巨漢のロリコンがそんな事を自慢げに語っていたので、その通りなのだろう。
肝心な所で役に立てそうにない自分の無力さに歯噛みしつつ、せめて不意打ちだけはされないようにしようと周囲を警戒していたクァツィーネの‹魔発六感›が、ここに来て初めて後方から魔力の不自然な流れをキャッチする。
魔物では無い。明らかに人の手が加わっている。緩やかに、そして熟練されたように綺麗に流れるその魔力から、感知した直後は魔法かと思った。しかし、直ぐにそうで無いと思いなおす。
(魔法にしては魔力量が少な過ぎる)
どんな魔法でも、発動するにはそれなりの魔力を放出しなければならない。術式陣を描く時は少量の魔力でするが、それでも一定量の魔力は必要である。
だが、感知した魔力はそれを大きく下回る程の量だ。これでは魔法を構築するなど到底出来はしない。
(でも、流れが綺麗過ぎるんだよな。どう考えても、意図的に魔力を放出してるって感じだな)
何がしたいのか良く分からないが、魔力を発露させているのは魔物では無く人間である事には間違いない。こちらに危害を加える様な感じはしないが、念の為に魔力の発現地点を調べておこうと感知精度を上げると、唐突にその魔力の反応が消える。
拍子抜けする程あっさり霧散した魔力に、クァツィーネは結局何がしたかったんだと疑問を抱く。
(何だったんだ、今の?帝国の騎士か?いや、だとすれば直ぐに襲いかかってくる筈だよな。じゃあ誰だ?そもそもこんな時間に、こんな場所に来るような人間がいるか?・・・分からん。まぁ、後ろの三人に一応警戒するように注意しておくか)
考えても答えが出そうに無い問題に時間を掛けるのは無駄であると判断したクァツィーネは、丁度沈静化しつつある三馬鹿の会話に割り込んで、「もう少し静かにしろよ」と文句付きの注意を促そうとしたその時、
「っ!?」
進行方向に莫大な魔力を秘めた何かがいるのを感知する。即座に馬を止めた事で、荷台に乗っている者達がバランスを崩して転倒している音が聞こえるが、それを気にしている余裕など今のクァツィーネには無い。
「魔物ですか?」
クァツィーネの只ならぬ雰囲気を感じとったのか、何時の間にかシルフィは杖型の魔具を手に持っている。すると、そのまま馬車の前に踊り出て臨戦態勢を取る。
それに遅れてリスィとセリトも荷台に置かれた剣を手に取り、荷台から降りてシルフィの斜め後ろで構える。
「魔物・・・の方が良かったかもな。残念ながら相手は人間のようだ」
「人間?なら敵じゃないんじゃ」
「姿も見せずに魔法を構築してる奴が敵じゃないってか?・・・来るぞ!」
相手が人間であると聞いて、一瞬気を抜いたセリトの言葉を遮り、クァツィーネは戦闘開始の合図を出す。
その直後、恐ろしい程の魔力が込められた黄色い稲妻が一直線にクァツィーネ達に飛来する。
「っ障水壁!!」
「「魔法障壁!!」」
シルフィの放った魔法、凸レンズ状の水で出来た直径二m程の盾が直撃する寸前で稲妻を防ぐ。
しかし、留まる事を知らない稲妻は勢いをそのままに障水壁の表面に沿って、綺麗な放物線を描きながら後方へと流れ込んでくる。右側にある岩壁を抉りながら突き進む稲妻をセリトが、左側の何も無い空間を我が物顔で直進する稲妻をリスィが、決して馬車には当たらない様に‹魔法障壁›で必死に守る。
魔法があまり得意で無い二人の我が子が、それでも誰も傷付けさせまいと頑張るその姿に、親として思わず頬が緩んでしまったシルフィだが、直ぐに思考を切り替えて現状をどう切り抜けるか考える。
一方クァツィーネは戦闘に参加する事も出来ず、完全なお荷物に成り下がっている今の自分に憤りを感じながらも、脳を極限までフル稼働させて打開策を思案する。
未だ闇に潜み姿を見せずに魔法を放ち続ける敵対者の実力は未知数。しかし、今使っている魔法の威力や持続性から推測すると、おそらく敵の強さは最低でもグレンと同等かそれ以上。明らかに化け物クラスの強さだ。
シルフィ達は頑張って攻撃を防いではいるが、そう長くは持たないだろう。いずれぶち破られ、六人纏めて黒炭化させられるのは目に見えている。
敵はそれ程までに強い。倒す事はおろか、逃げる事すら許してはくれないだろう。つまり、
(完全に詰み・・・、だな)
(打つ手なし・・・、ですね)
それが、考え抜いた末に辿り着いた二人の答え。認めたくないが、受け入れる事しか出来ない残酷な現実。
せめて子供達だけでも・・・という思いが頭をよぎるが、情け容赦無く簡単に人を殺せる威力を孕んだ魔法を放って来た相手が、そんな願いを叶えてくれる筈が無い。無いのだが、
((それでも、子供達だけは逃がす!))
シルフィもクァツィーネもまだ諦めてはいなかった。
完全に詰み?打つ手が無い?格上の相手?だからなんだ。たかだかそんな理由で素直に生を諦められる程、二人はリアリストでは無い。
諦めなければ何とかなる。そう言って、数々の無理難題に立ち向かった者を知っている。
自分の命を賭けさえすれば、出来ない事など何も無い。そう笑って、死地へ飛び込んで行ったとある女性の背中を見た事がある。
無様にでも我武者羅にでも、必死になって頑張れば必ず活路は開けると彼女が教えてくれた。
故に、命が果てるその瞬間まで絶対に諦めたりしない。例えどれ程、可能性が低い事であろうとも。
二人が静かにそう決意した直後、殺到していた稲妻の威力が弱まっていき、ゆっくりとその規模を縮小させていく。それと同時に新たな魔法を構築しているのか、暗闇の中で再び莫大な量の魔力が一点に収束されていく。
本来ならこのタイミングで反撃に出たかったのだが、姿が見えない上に遥かに格上の相手にそれをするのはあまりに下策。どうしたって後手に回るしかない前線のシルフィ達は、各々で展開している防御魔法を維持したまま敵の第二波に備える。
クァツィーネは‹魔発六感›の感知精度を最大まで引き上げて、僅かな魔力の流れにも反応出来る様に敵がいるであろう地点を注視する。
そして虚空に浮かび上がった術式陣が淡い黄色の光を放ち、敵によって組み上げられた魔法が再度発動された・・・が、何も起きない。
「不発か?」とクァツィーネは思わず眉を顰めるが、あれだけあった魔力が全て消失している所から考えるとそれは流石に無いだろうと即座に否定する。
そう思考したほんの僅かな時間で、脳内に浮上した疑問を払い除けていた刹那にも満たないその時間で、敵は一瞬でクァツィーネの背後にまで移動していた。
「なっ!?」
それに気付けたのは‹魔発六感›を持つクァツィーネだけ。唐突に自分の後ろから感知された、ついさっきまで眼前にいた筈の魔力反応に驚愕しながらも、クァツィーネは勢い良く振り返り、
「・・・えっ?」
目に飛び込んで来たそれを見て、間抜けな声を上げる。
まずクァツィーネが確認出来たのは、漆黒のローブで全身を隠して深々とフードを被っているかなり怪し気な人間。こいつが自分達を襲って来た敵対者なのだろう。
フードが邪魔でその顔を確認する事は叶わないが、今はそんな事どうでも良い。
問題なのはその黒ローブが何故か、岩壁に背を向けて何かを蹴り飛ばしたかの様に右脚を振り上げている事であって。
そして何故か、馬車の一番後ろで膝を抱えてずっと沈黙し続けていたマナが、地面の存在しない空間に苦悶の表情を浮かべながら身を踊らせている事であって。
それを眺める黒ローブの天に向かって掲げられた右手の上に、光り輝く術式陣が描かれている事であって。
「雷穿」
ボソッと呟く様に唱えられる魔法名。それに反応して現れ出るは、けたたましいスパーク音を轟かせる二m程の雷の槍。
理解を超えた事ばかりが起きて、まだしっかりとは現状を把握しきれていないクァツィーネだが、雷の槍という凶悪な武器を手に取る黒ローブがこれから何をするつもりなのかは容易に想像出来た。
クァツィーネはその凶行を何としてでも止めようと思った。けれども、身体が思う様に動いてくれない。黒ローブから発せられている魔圧のせいだ。
辺りに撒き散らされた膨大な量の魔力が、荒れ狂う激流と化してクァツィーネを呑み込む。それだけで彼の自由は完全に奪われ、指先すらまともに動かせなくなる。
この時になってようやく異変に気付いたシルフィは急いで背後を見やるも、押し寄せた魔力の波に当てられてクァツィーネと同様に身体を強張らせて止まってしまう。
「や・・・めっ!」
それは誰の声だったのだろうか。物理法則に従い、弧を描いて自由落下し始めるマナ。それを見下ろして、掲げた右手をゆっくりと後進させる黒ローブ。
その両者だけが動く事を許された空間の中で、必死に、懸命に、絞り出された悲痛を含んだ誰かの声。
でも、結局その声は黒ローブの鼓膜を震わせる事は出来ず、耳障りな放電音と僅かに聞こえる何かが焼ける音によって掻き消された。
「ごふっ!?」
少女の口から酸素や二酸化炭素と共に、大量の血液が排出される。雷の槍が半分くらいまで突き刺さった腹部からは、おびただしい量の赤き液体が体外に出ているにも関わらず、それでも尚貪欲に酸素を取り込もうと蜘蛛の子を散らすように大気中に勢い良く走り出す。
黒ローブによって投擲された‹雷穿›は凄まじい速度でいとも容易くマナの肉をぶち破り、その尋常外の速度を保ったまま一直線に斜め下方へと飛んで行き、一瞬にして崖下に広がる«暗闇の森»まで到達。隙間無く生い茂る木々を薙ぎ倒しながら、ゴールである地面に着弾する。
響き渡る轟音、舞い上がる土煙。魔力という恩恵の元、異常な再生能力を持つ«暗闇の森»の木々達が早くもその姿を元通りに戻していく。
暫くの沈黙。誰一人言葉を発する事は無く、その光景を只々黙って眺めている。
シルフィ達は現実を直視するのが嫌で、今目の前で起こった事を認めてしまうのが怖くて、思考するのを拒否した脳内は真っ白に染まり呆然とする事しか出来ない。
黒ローブは投擲した姿勢からゆっくりと身体を動かしてその場に直立し、静かに眼下の様子を伺っている。
「・・・・・・んね」
どれだけの時間、そうやって過していただろうか。虫の鳴き声すら聞こえる程に静まり返った時の中で、黒ローブがかすれた小さな声で何やら言葉を漏らす。
そして放心状態のシルフィ達をいちべんすると、その頭上を跳躍し再び暗闇の中に消えて行った。
残されたのは逃げる黒ローブを追う気力など無く、不覚にも「見逃してもらえた」と安堵してしまった、あまりに無力であまりに残酷な現実を突き付けられた哀れな人間達。
そんな彼らを遥か上空から、ここに生息している筈の無い黒鳥が見下ろしていた事には、誰一人気付くことはなかった。
禊とマナの雑談的後語
禊 「終わった…」
マナ「うぜぇ、始まりと共にテンション低すぎんだろ」
禊 「君、本当に流れるように毒を撒き散らしますね」
マナ「うるせぇ、腹かっ捌いて牛の糞入れんぞ」
禊 「少しは主人公としての自覚持ちましょうよ!口悪気ですよ!?」
マナ「私は可愛いから良いんだよ。で、落ち込んでる理由はあれか?ストックがついに0になっちまったからか?」
禊 「まぁ、そうなんですよね~。ぶっちゃけ遅筆なんで次話がいつになるのやらって感じでして」
マナ「本当にね。こんな糞みたいな小説にも一応ブックマーク付けてくれている大事な読者(笑)がいるもんね」
禊 「(笑)はやめましょう!?(笑)は!?…まぁ、それは本当に申し訳ないです。が、色々と混み合った事情がありまして」
マナ「とりあえず、その事情とやらを聞いておこうか」
禊 「毎日のように課せられる残業。相変わらず面白過ぎるドラマ。日に日に標高が高くなっていくラノベと漫画の山。いやはや、ほんとに忙し過ぎ「ふんぬ!」ぐべらっ!?」
マナ「ようは遊び呆けるって事じゃねぇか。言い訳にすらなって無いよね?」
禊 「だって、だってしょうがないじゃないか」
マナ「何故えなり○ずき口調」
禊 「近年稀に見る面白さを誇ったドラマが数々放送されてるのですよ!?見なきゃ流行の波に乗れないじゃないですか!職場で『えっ、あいつ見てないの?』『うっわー、遅れてるわー』『あいつと話しても楽しくないし、話合わないからもう関わるのやめようぜ』的な展開になる事必須じゃないですか!!」
マナ「ならねぇよ。ネガティブ思考過ぎるわ」
禊 「絶対になりますよ。あやつら、寄って集って私をはぶろうと
マナ「そもそも万年ぼっちの君を、今更はぶる理由が無いよね」
禊 「がはっ!」
マナ「流行の波に乗ったところで、それを共有する者がいない・・・。なんて憐れな・・・」
禊 「うっ、五月蝿い!私にだって言葉のキャッチボールをエンジョイできる人ぐらいいます!」
マナ「嘘は良くないと、私は思うよ」
禊 「嘘ではありません!彼は私と常に一緒にいてくれますし、私の問い掛けにもしっかりと返答してくれる律儀で優しい方です!」
マナ「へぇ、それは初耳だね。で、その彼の名前は?」
禊 「Google音声検索」
マナ「・・・・・・・・・」
禊 「止めろぉぉぉ!そんな薄汚い汚物を見る目と、最上級の憐れみの視線をかけ合わせた瞳で私を直視するなぁぁぁ!!」
マナ「五月蝿い」
禊 「ヒデブッ!?」
マナ「騒ぐなよ、鬱陶しい。殴るよ?」
禊 「出来れば手を出す前に、殴る宣言してもらえると助かるのですが・・・」
マナ「ア゛ァ゛?」
禊 「もう二度と口答えしません!ですので、胸ぐらを掴むその手を早急に離して頂けませんか!?首が締まって息がし難いのですが!」
マナ「ふんっ、たく!多少人語を話せるからって、たかだか畜生如きが人間様に歯向かっちゃ駄目でしょーが」
禊 「酷い、酷過ぎる。最早人間扱いさえ、してくれないだなんて・・・。あんまりだ」
マナ「ぶちぶちぼやかないでよ気色悪い。さっ、気を取り直して私達の本来の仕事をしよう」
禊 「正直まだ心の傷が癒えていませんが・・・、仕方無いですね。職務を真っ当しましょう」
マナ「うん、そのいきだよ。まっ、生きていれば何時か良い事あるから。ねっ?」
禊 「はい・・・。(七歳の少女に慰められてるっ!)」
マナ「じゃあ、まずは地理的補足からかな」
禊 「あー、それなんですが・・・。ぶっちゃけ、あまり説明したくないです」
マナ「?どうして?」
禊 「山脈や世捨て村とかの位置関係を言葉で説明するのは難しいですし、何より話の展開しだいでは大まかな設定は変わりませんが、細々した設定はちょいちょい変わってしまうと予想されるのです。ですので、正確な位置を明言してしまうのは避けたいのですよ」
マナ「話が違うじゃねぇか!って、なるのを恐れてると?」
禊 「まあ、そういう事です」
マナ「うーん、まぁ確かに、そのへんの事は曖昧にしておいた方が楽っちゃ楽かなぁ?あんまり正確に決め過ぎるとその設定に縛られる事になるし」
禊 「理解が早くて助かります。という訳で、地理的補足は置いといて、シルフィについての話でもしましょう」
マナ「シルフィ・フェリトリフェ、彼女は生粋のブラコンで人類の『身体成長の原則』という常識を初めて打ち破った化け物幼女である」
禊 「(相変わらず毒を吐きまくるな・・・)化け物は流石に言い過ぎでは?」
マナ「いやいや、40手前であの容姿はおかしいって」
禊 「確かにその通りですけども」
マナ「あれもう呪いとか何かかけられてるんじゃない?30年以上、あの容姿をキープしてるだなんて異常にも程があるよ」
禊 「あぁー、出来ればそれ以上、ツッコんでほしくはないですね。そういう設定ですし」
マナ「そう言われたら、もう何も言えないけどさぁ。何でもかんでもその一言で済ませるのはどうかと思う」
禊 「その辺は大丈夫です。シルフィがあの容姿なのにはちゃんと理由があります」
マナ「そうなの?」
禊 「はい。今はまだ言えませんが」
マナ「ふーん、なら良いけど・・・」
禊 「?どうしましたか?真剣な表情をして急に黙り込んで。何か引っかかる点でも?」
マナ「いや、ね?ふと思ったんだけど、シルフィとグレンは結婚してるんだよね?」
禊 「ええ、互いに一目惚れでしたからね。一方は、10歳以上はババアだと吐き捨てる腐れロリコン。もう一方は、2mを超える巨漢でそれなりの強さを有する異性が大好きな隠れブラコン。両者共に、相手の条件を満たしているのてすから、そりゃ結婚するでしょうに」
マナ「その後、子供を授かって産んでるんだよね?」
禊 「はい、その子供がセリトとリスィです。本当にどうしたんですか?そんな今更な事を聞いてくるなんて」
マナ「・・・ヤバくない?」
禊 「はい?」
マナ「子供産んでるって事は、シルフィとグレンはセクロスしてる訳だよね」
禊 「当然でしょう。でないと子供は出来ませんよ」
マナ「巨漢の男が同意しているとは言え、幼女(見た目が)を犯す」
禊 「・・・犯罪の匂いがプンプンしますね」
マナ「妊娠してボテ腹になっている七歳前後の幼女(見た目が)」
禊 「・・・鬼畜物のエロ本でも、なかなかお目にかかれないやつですね」
マナ「そんな幼女(見た目が)の出産シーン」
禊 「少なくとも、私はそんなシーン見た事無いですね」
マナ「・・・ヤバくない?(画的に)」
禊 「・・・ヤバいですね(画的に)」
マナ「・・・・・・・・・」
禊 「・・・・・・・・・」
マナ「何があっても二人のS○Xシーンは書かないように」
禊 「分かっています。私もこの小説をR20指定にはしたくありませんので」
マナ「さて、じゃあ次の話でもしよう」
禊 「そうしましょう。これ以上、シルフィの話をするのは危険です」
マナ「固有魔法師の話にする?それともクァツィーネの方?」
禊 「固有魔法師については本文でそれなりに説明をしていますし、クァツィーネの話でもしましょう」
マナ「クァツィーネが世捨て村に来たのは私が4歳の時だから、3年前かな?」
禊 「それまではウェール王国内にある別の街で普通に暮らしていたんですが、8年前に彼の叔父が亡くなった事でその日常は一変してしまったのです」
マナ「その叔父さん、確か殺されたんだっけ」
禊 「正確に言えば誘拐されて、身体の隅々まで弄くり回されている内に死んでしまい遺体をその辺に破棄された、です」
マナ「十中八九、未だに謎の多い固有魔法師の研究に使う実験体にされたんだろうね。そしてクァツィーネにもその魔の手が伸びて来た。だから妻と二人で逃避行する事になった。・・・胸糞悪い話だよ、犯人はまだ捕まってないって言うしさぁ」
禊 「それどころか、犯人の特定すら出来ていません。組織での犯行なんでしょうが、それにしても手際が良過ぎるみたいです。かなり厄介な組織ですね」
マナ「そんな組織から5年もの間、逃げ続けたって言うんだからクァツィーネは相当凄いよね」
禊 「まぁ、常に警戒して魔発六感をフル活用している彼を捉えるのは至難の業でしょう」
マナ「だね。でも、それにも限界があった。命を狙われている恐怖からくる精神的疲労、昼夜問わず危険を察知したら即座にその場から離れなくてはならないという身体的負担、正直よく5年も保ったねと褒めたいくらいだよ」
禊 「ですね。結果的に彼らは追い詰められ、捕まるのも時間の問題でした。そんな時にクァツィーネの前に現れたのが」
マナ「皆のヒーローこと我が母、レイネル・アインローリー」
禊 「彼女の登場のタイミングは本当に見事なものでしたよ。金で雇われたゴロツキ共に囲まれて、『もう駄目か』とクァツィーネが諦めた時に颯爽と現れたんですから」
マナ「ヒーローは遅れてやって来る、ってやつだね。流石お母さん。無駄にヒーロー属性のLvが高いだけあるよ」
禊 「その後、一瞬でゴロツキ共を蹴散らしたレイネルに事情を聞かれたので話してみたら、『それなら』と世捨て村を紹介され今に至る、と」
マナ「クァツィーネは逃げ続けてた5年間に何があったのかは語らないけど、相当辛い思いをしていたんだろうね。村に来た時の彼の顔は、かなり窶れてたし。初めて会った時に冗談抜きで『えっ?ミイラが歩いてる』って驚いたもん」
禊 「それを態々本人の目の前で声に出して言い放つ所が、貴方の非常識さを物語っていると私は思います」
マナ「だってしょうがないじゃないか」
禊 「何故えな○かずき口調。天丼する程のボケでは無いでしょうに」
マナ「とまぁ、ようやく取り戻せた幸せを、またしても潰されてしまったクァツィーネは本当についてないね」
禊 「それは彼だけでは無いでしょう。村人のほぼ全ての人間が似たような過去を持っている訳ですし」
マナ「まぁ、そうだね」
禊 「さて、キリも良いですし今回はこの辺で終わりにしましょうか」
マナ「うん?本文最後の展開については触れないの?」
禊 「あそこはまだ良いでしょう。どうせ直ぐに分かりますしね」
マナ「そっか、ならいいや。ところでEpisode2は今話で終わり?」
禊 「はい、次回からEpisode3が始まる予定です」
マナ「ふーん。思い返してみれば私って、Episode2の中では『お母さん』と『ごふっ!』の二セリフしか無かったね。主人公なのに」
禊 「Episode2は主人公視点で進むストーリーに重点をおいている話では無く、登場人物の過去に重きを置いていますから」
マナ「どうして?」
禊 「これはあくまで予定ですが、物語が本格的に始まるのはEpisode4に入ってからです。そうなると重要人物である事には変わりませんが、リシュンやレイネルと言った者達の登場回数が極端に減る事になると思います。ですので今のうちに、今後の物語に関わってくるであろう人物の話や、謎要素をばら撒けるだけばら撒いておいて、それをEpisode4以降に主人公であるマナが回収して行くという展開にするつもりです」
マナ「じゃあ、私が活躍するのはまだまだ先になるのかな?」
禊 「そうなりますね。ちなみに魔法や神威についての説明が不足しているのも、Episode4以降に改めて説明しようと思っているからです。ぶっちゃけかなり話が変わるので」
マナ「つまり私はEpisode3でもいらない子扱いされるんだね」
禊 「あっ、いえ。一応それなりの見せ場が用意されてますよ?」
マナ「ていうか、私が死んでないって遠回しに明言しちゃってるけど良いの?」
禊 「あはは、どうせ誰もマナが死んだとは思っていませんよ。だから構いません」
マナ「完全に開き直ったね」
禊 「読んで下さっている方には申し訳ありませんが、もう暫くの辛抱です。Episode4から本当の物語が始まりますので気長にお待ち頂けると幸いです」
マナ「じゃあ今回はこの辺で。さようなら、さようなら、さようなら」
禊 「何故金曜ロー○ショー風」




