乙女心って何なんだ?
「………………」
「夕夜」
「………………」
「ちょっと」
「………………」
「人の話聞いてる?」
「………………」
「――――――ちっ」
ゴッッ!!
「いだっ!? な、何で殴るの!!」
ぼーっとしていたら急に姉に殴られた! しかもその前に舌打ちが聞こえたような気もする!
「検査してる時にボケッとしてるほうが悪い」
「あ……」
――――そうだった。今僕は姉の研究所に来て精密検査を受けているところだったんだ。
何故かというと、急激に女性へと変化した身体はとうなっているかわからないので調べようということになったのだ。
だけど、今僕はそれどころではない。
だって、ようやく会えた初恋の子が男だったんだ……。しかもイケメンに成長していたし。
僕の初恋は儚く散ってしまった。そう、ハートブレイクだ。
だって、思わないじゃないか! 初恋の女の子が実は男の子でしかもイケメンて!! どこの乙女ゲー……いや、乙女ゲーにはないか。
そもそも僕は乙女じゃないし。まあ身体は女の子だけど……。
――それに反して僕なんか姉の薬で女の子になるし、元に戻れるかわからないし、挙げ句には初恋が見事に最初から玉砕されるし。
…………なんか、もう考えるの疲れた。
「姉さん」
パソコンを弄ってる姉さんに声をかけると手を止めてこちらに振り向いた。
「何?」
「僕って戻れるの?」
とりあえず、元に戻らなければどうしようもないので姉に早く薬を早急に作ってもらわなければならない。…………そういえば、何故姉さんはこんなとんでもない薬を作ったんだろうか?
「わからないわ。試験的に作った薬だし、元に戻す薬なんて作ってなかったしね」
しーん
「…………あのさぁ、前から言ってるけど」
怒りでこめかみがピクピクしているのが分かる。
「そんな危険な物をどうして僕に使うんだよ!? もし僕が死んだりしたらどうしてくれんのさ!!」
もうこの姉嫌だ!! 誰か姉に優しくなる薬とか作って下さい!! マジで求む!
「まあ今回は私も悪かったと思っているわ。だから夕夜の為に早く薬を作っているのに…………そんな言い方っ」
しくしくと涙を見せる姉に僕は驚き狼狽えた。
姉がこんな風にしおらしい姿なんて見たことがないからだ。
と、とりあえず泣き止むようにしないと!
「ね、姉さん、別に姉さんが僕を思ってくれているのは分かっているからさ、泣かないで――――」
姉の肩に触れようとした手が机に積んであった紙の束に触ったらしく、バサッという音とともに床へと落ちてしまう。
「あ!? ご、ごめん姉さん。大事な研究書類なのに」
そう言って拾おうと手を伸ばしたら姉がはっとして先に書類を取ろうとしたが既にそれは僕の手の中。
「あ」
「何慌てて」
チラッと姉を見た後に書類を見て固まった。
そこに書かれていたのは、戸籍情報。しかも僕ので、性別欄にありえない事が書かれている。
――――――女と。
「…………姉さん、これは何?」
「戸籍情報」
「違うよ! 何で僕の戸籍情報の性別欄に女ってなってるのって聞いてんの!!」
ぜいぜいと捲し立てると姉は悪びれもせず答えた。
「だって、いつ出来るかわかんないし、もしかしたら数年経つかも知れないから戸籍が必要な時にそのまんまだと面倒になるかもしれないから変えたのよ」
「早く仕上げてよ!! 嫌だよ、こんな状況で高校生活なんて楽しめないし、好きな子が出来ても告白なんて出来ないじゃん!」
胸の内を姉に暴露したら、可哀想な人を見る目で言った。
「あんた、生まれてからずっと彼女いないじゃない。しかも好きな子の前では緊張して喋れないし。どっちにしろ無駄」
「………………」
姉さんの馬鹿――――――!!
そんな疲労しかなかった精密検査は無事終わり家に帰宅したのであった……。
夕夜が帰ってやっと検査結果が出た頃、美景は悩んでいた。
「…………これは流石に言いにくいわ」
結果内容とその他が書かれた文字を見てまたため息が出る。
これを知ったら彼はどうするだろうか? 今度こそ私と縁を切るとか言い出すだろうか?
態度には出さないがかなりブラコンな美景は実験と言っては夕夜にベッタリだった。
そんな関係にヒビが入ると思うとゾッとする。
「何か良い案はないかしら……?」
そして案を出すべく美景は研究に没頭するのであった。
このことを夕夜が知るのはまだ先の話である。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「はぁ」
学校に行くのが憂鬱でならない。恵君と会うのも微妙だし、サラ夫に会うのも絶対嫌味言われるだろうから嫌だ。
…………だけど、教室に行けばあの子、華ちゃんが待っているから――――僕は行く!!(誰も待っていない)
「夕夜、おはよう」
「夕夜ちゃん、おはよう」
待ち合わせ場所で二人と合流して歩き始めると由梨ちゃんが持っていた雑誌を僕に見せてきた。
「夕夜、これ見て」
「? …………『星影学院イケメン&美少女特集』? って何これ」
「星影学院のイケメンとか載ってるのよ。結構イケメンがいるって有名なのよ、この学院」
「ちなみに生徒会メンバーが上位を占めてるの」
「そんなの知らなかった……。生徒会にも興味なかったし」
「結構生徒会メンバー目当てで入学する子もいるのよ? まぁ私達は違うけどね」
「うん。夕夜ちゃんと一緒が良いから入っただけだしね」
「二人共……」
(これって感動する場面なの? 色々突っ込みどころがあるんですけど……)
そんな話をしていたらあっという間に学院についた。
ああ……憂鬱だ。教室に行けば恵君はいるし、サラ夫はいるし……でも、華ちゃんが~…………。
ウジウジと考えていて僕は全然気付かなかった。
「おい、ジャマなんだけど? 早く歩けないのかよ」
「!?」
で…………出たな!
「サ……こほんっ! 蓮見君、おはよう」
危ない。思わずアダ名で呼びそうになった……。まあ彼の本名はあのゴタゴタの後華ちゃんが改めて紹介してもらったのだ。
本名、蓮見 吉良、見た目イケメンで中学も結構モテていたらしい。そして高校でもクラスの女子に奴はモテている……羨ま……じゃない!!
非モテ人生だったからってべ、別に羨ましくなんてないんだから! まあ、ちょっとだけ、ちょっとだけあるけども。
……話が脱線した。
そんな奴は華ちゃんに惚れているらしい。らしいと言うのは僕から見て他の女子には適度な距離で接しているのに華ちゃんが関わると変わるのだ。
他の女子には見せないような優しい表情で彼女を見ているのを偶然見てビックリした程だ。
なので、奴は僕にとってライバルなのだ。華ちゃんを好きな僕としては奴の幼馴染みというポジションは相当羨ましく思うが愛は年月が大事ではないと誰かが言っていた通り一目惚れだってあるんだ。
だから僕にだって希望はある!!
「夕夜、おはよう」
「!? め、恵君お、おはよう……」
び、ビックリした……。やっぱり気まずさがあるけど昔の事も懐かしくはあるから微妙だ。
彼の本名 相良 恵君(めぐみと言う)僕の初恋の女の子……と思ったら勘違いも発覚した彼。
恵君もイケメンでクラスの女子や他のクラスの女子も彼をわざわざ見にくるという光景が見られる程だ。
吉良とは反対で寡黙で頼りになるしイケメンというところが女子には良いらしい……。
「夕夜、後で話したいことがあるんだが」
「え……」
「ここでは話しにくい内容だから」
「! わ、わかった。後でね」
(は、話ってなんだ!? あ! も、もしかしてどうして小さい頃男だったのに女の子になってるのか聞かれるかも……でも、恵君ならこの秘密を守ってくれるよね。もしバレたらどうなるかわかんないし……姉さんが捕まっちゃうかもしれないし)
結局は姉のことを見放せないのである。
(シスコンだなとは自分でも思うけどね)
恵君と話をしていると後ろから華ちゃんが挨拶をしてきた。
「おはよー! 二人して何話してるの?」
「え!? い、いや、あの、」
「ただの世間話だ」
「そうなんだ? そういえば二人って小さい頃一緒に遊んだことあるんでしょ? 夕夜ちゃんて小さい頃も可愛かった?」
「え!?」
か、可愛かったって……僕その頃男だったし、普通だし……
恵君の反応を見てみる。
「…………」
めっちゃ考えてる!! やっぱり僕ブサイクだったのかな……ちょっと落ち込む……。
だけどそれは杞憂だった。
「恵君どうなの?」
「華ちゃん、もうその話は……」
(傷を抉るからやめて――!(泣))
「――――――かった」
「へ?」
「とても可愛かった」
恵君はフワッと優しく笑った。
ドキッ
「……………」
「あ~やっぱり可愛かったんだ! 私も見たかったな~」
「無理だな」
「わかってるよ~」
二人は話ながら教室に入っていったが僕も行かないとと思うけど今僕はそれどころじゃなかった。
(何、今のドキッって!? 何で男の恵君にときめかなきゃいけないの!? ま、まさか身体が女の子になると心まで女の子になるとか……?)
「おい」
いつからいたんだろうか、目の前に吉良がいた。
「な、何」
「…………お前さ、恵のこと好きなの?」
「は?」
すき? スキ………………好き!?
「友達として好きだよ……」
心の中はめっちゃ動揺しているがなんとか答えられた!
「ふ~ん」
ふ~んて何……興味無いなら聞くな! 僕の精神が疲れるわ!
「てっきり男として好きなのかと思った。まあそれだったら良いや」
「? 何で蓮見君がそんなこと言うの?」
さっきの言いまわしだと僕が恵君を好きだと駄目と言っているようなものだ。
「…………お前には関係ないだろ。じゃあな」
フイッっと吉良はこちらに背を向け前の二人に並んで楽しそうに喋っている。
「………………」
何故だろう? また心の奥がモヤモヤする……。
「夕夜」
「夕夜ちゃん」
「由梨ちゃん、由良ちゃん」
彼女達はずっと僕の近くに居てくれた。昔もイジメられそうになると二人は助けてくれたし、本当に頼りになる幼馴染みだ。
「夕夜は相良君の事をどう思っているの?」
「? 昔の友達だよ」
「本当に?」
――――本当にそうだろうか? さっきのときめきは友達には無いだろう?
「!!」
もう一人の自分の問いかけに動揺してしまった。
そしてそれが決定的になってしまったとも言える。
そう、僕は――――――
「恵君が好き…………?」
「やっぱりね。見ててわかったもの」
「私達は応援するから頑張ってね」
二人はそう言うと教室へと向かって行く。
僕もノロノロと歩みを教室へと向ける。僕の頭の中はごちゃごちゃとしていてまとまっていない。
ただひとつ思うのは乙女心ってわからないということだ。