荒巻君の説得
祥子「私は絶対に元の世界に戻るんだからっ!!」
眠り鼠「それは無理な話だ。もう、君は戻れない」
目の前の彼は私を見ながらほくそ笑み、私の手首を掴むとグッと彼の方へと引き寄せ、そして――――
祥子「んっ!?」
眠り鼠「君は、もう俺に捕らわれているから」
祥子「な…………っ!?」
いきなり唇を重ねられ驚く私に彼は淡々と告げる。
眠り鼠「自分でも気付いているだろう? 俺と会うたびに君は俺に惹かれていた。俺も、そう。君に最初に会った時から君に捕らわれて惹かれていた」
祥子「私は…………」
この男の言う通り惹かれている。そうでなければこんなにも心が揺れ動かないもの。
でも、それじゃあ負けを認めるようで悔しいから…………
眠り鼠「返事は?」
祥子「……答えはノーよ」
そう言ってやると、彼は驚いた顔をして次に悲しそうな顔になる。最後まで私の話を聞きなさいよ!
祥子「私は女王なのよ? 貴方に捕らわれるなんて真っ平ごめんだわ。だから――――私が貴方を捕らえて私から逃れられないように縛りつけてあげるわ」
眠り鼠「!? …………それって」
祥子「鈍いわね! 私の側に置いてあげるって言っているのよ!!」
自分でも分かる程顔が赤いであろう事が分かるので彼から視線をそらしながら答えてやった。
そして、彼は理解すると同時に私に飛び付いてきた!
まったく、これだから鼠なんて嫌なのよ! ……でも、まあ許してあげるわ。私の鼠でいてくれる貴方だから――…………。
眠り鼠 トゥルーエンド
「…………何、このおかしな主人公」
「元女王だからな」
いやいやいや! 元女王様だからって理由だけじゃないよ!? 何なの? 攻略相手に縛るとか言っちゃってるし!? お前はどこのSMの女王様だよっ! って感じなんですけど!?
しかもこれでトゥルーエンドっておかしいだろ!? 全然幸せそうじゃないよ!
――――!? パッケージよく見たらシナリオライター変わってるし! …………なんか納得した。前のライターさんが神シナリオだったんだね。このゲーム絶対即売られて評価も低いに違いない。
心の突っ込みがビートアップしそうなので落ち着こうと荒巻君が用意してくれたジュースを飲みながら荒巻君の方を見たら……
「………………」
SM女王様に見とれてました。
お前ドM属性だったんかい!? …………あぁ、生徒会メンバーが残念男子だらけとか笑えない。(´д`|||)
はい。そんなこんなでゲームはおしまいにして、早速説得に入りまーす! 決してこれ以上彼のMを見たくなかったからではありません!!
「ねえ、荒巻君は何で学院に来ないの?」
直球で聞いてみました。だって、理由聞かないとどうにも出来ない。
「………………」
黙りです。そんなに言いにくいことなのか…………これは難しいかもしれないかも?
すると、少し小さい声ながらも答えてくれた。
「人が信じられないし、俺みたいなオタクの奴なんて皆と仲良くなんてやれないだろ……」
人が信じられない…………とはたぶん昔に何かあって人に裏切られたりなんかして、そうなったんだろう。んで、オタクだから友達出来ない…………ってそれは違くないか? 頑張れば友達は出来るよ? オタク初心者の僕が数人だけど、友達出来たし!!
あ、そうだ!
「ならさ、私が荒巻君の友達に立候補していい?」
「は?」
わけわかんないって顔された。まぁ、そうだよね。
「人が信じられないって言うのは分かるよ。私も昔虐められて人間不信になりかけたことあるし」
「! 虐められたのか……よく人間不信にならなかったな」
「私には信頼出来る人がいたし、それにね? そこで止まっちゃったらこの先の人生が暗くて生きづらくなると思ったんだ」
「生きづらく……?」
そう、人生どれだけ長く生きられるか分からないけど、こんなところで止まってしまったら大人になった時に僕はどんな風に生きているのだろうと思ったら、こんなところで立ち止まっていられないと思ったんだ。
人生一度きり。悔いは残さないように生きたいよね。
「これからは私もいるし、荒巻君を助けてくれる人もいるから学院に行こう。一緒に楽しい事や苦しい事も乗り越えて頑張ればきっと3年間楽しい思い出として振り返れるから」
ね? と荒巻君を見ると、彼は茫然とした顔をして僕を見ていた。
「一緒に……俺と、一緒にいてくれるのか……?」
「え? ……うん、荒巻君が嫌じゃなければ。私もオタクだから、そういう話を友達といっぱいしてみたかったんだ!」
すると、荒巻君は感極まったように涙が一粒頬を流れるように落ちていった。
「えぇ!? ちょ、ちょっと、大丈夫? どこか痛いとか? 平気なの!?」
焦った僕が荒巻君を心配してオロオロしてたら、荒巻君は泣き笑いみたいな顔をして大丈夫だと言った。
「1度も、誰にも……実の親にでさえ、そんな優しい言葉を言われたことが無かったから……びっくりしたんだ」
「…………」
僕と違って彼には心を開ける人がいなかったのかな? それはとても生きづらくて苦しかったと思う。想像でしか言えないけど、僕がそんな環境だったなら潰れていたかもしれない……。
「荒巻君て……」
「?」
「(精神的に)強いんだね!!」
「んなっ…………!?」
「? 何で顔赤いの? !? やっぱり熱出た?」
「ちっげ――よ!! 馬鹿! 触るんじゃね――――!!」
ドタバタと騒ぎながらも荒巻君は楽しそうでした!
ついでに、荒巻君は明日から学院に行くと約束してくれました!! これで、魔王と鬼畜に馬鹿にされないで済む…………じゃなくて!!
本音は荒巻君が学院に来れて良かったってことなので結果オーライ⭐
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「主任、夕夜君にあのこと説明したんですか?」
「………………」
美景が無言で聞いてないふりをしているのを見て長年部下をしている荒部は勘づいた。
「…………まさか、夕夜君に言ってないとか言いませんよねぇ? 夕夜君にとってこの話をするのがとっても嫌なのは分かります。ええ、とっても分かりますけど、でもね? 言わないと主任、絶対、今度こそ、絶縁されますよ。それでも良いんですね……?」
荒部の言葉に美景は顔を真っ青にしたかと思うと、次の瞬間には何かの資料をまとめ、荒部に向き直ると
「夕夜に説明するから今日は早上がりにするから!」
そう言って脱兎のごとくその場をあとにするのであった。
一人残された荒部はため息をつきながら美景の去って行ったドアを見た後1つの資料を手に取った。
「……まさか、ホルモンバランスを安定させる為の処置が異性とのキスだけなんて誰も想像しないよな……」
その独り言は誰にも聞かれずに消えていったのである。
ご都合主義な物語ですが、読んでくださりありがとうございますm(__)m
これからも宜しくお願いいたします♪