新たなオタクのお宅訪問
~放課後~
時間が止まってくれれば良いと思ったけど、やっぱり時間は無情にも過ぎていき放課後になり僕は生徒会室にて――――玉置先輩と女子(?)トークを繰り広げていた。
「ねえ、夕夜ちゃん。これ、作って来たんだけど、食べて感想を聞かせてくれるかしら?」
目の前に差し出されたモノを見て僕は目を見開いた。
「こ、これは…………!!」
生徒会メンバーと自己紹介をした後玉置先輩から趣味やら付き合ってる人はいるだの何だの女子トークを繰り広げていたら玉置先輩の趣味と特技のお菓子作りという流れで出された。
目の前でキラキラと輝く美味しそうなモノ――――――それは
「くずきりだぁ~~~~!!」
もっちりと美味しそうなくずきり! これは職人が作ったような繊細な和菓子と言える程のものだ。
これを玉置先輩が作ったとは……単なるお菓子作りが趣味とは言えないレベル――――そう、職人だよ!
おっと、こんなに美味しそうなくずきりを今すぐ食べないと!
きな粉をかけて~♪ 黒蜜をとろ~りとかけまして~~♪
さあっ! ぱくっと一口!!
「……君達、俺の話聞いているのかな?」
サッと僕のご馳走が魔王様に取り上げられた!?
「あ~!!…………」
うん、こういう時は逆らわない方が吉です。学びましたよ、僕は。
仕方ない……終わった時のご褒美に戴こう。
「あら、良いじゃない会長。これから仲良くしましょうっていう親睦を深める為のお茶会をしましょうよ」
玉置先輩がはー君に言ってくれるがはー君はため息をつく。
「親睦ならこれから話す行事で出来るだろう。……それに、それを決めないと困るのは君達だよ?」
親睦を深める行事って何? しかも僕達が困るの? ……それは絶対嫌だな……よく聞いておこう。
少し考えこんでいたら、はー君の隣にいたこれまたイケメンな清潔感溢れる河山先輩(副会長)が困ったような笑いをしながら答えてくれた。
「来月に毎年恒例の1年と2年で親睦を深めるオリエンテーションと言う名の山登りがあるんだよ」
「山登り!?」
えぇ!? お嬢様お坊っちゃまが通うこの学院で山登りって……体力的に大丈夫なの!? 絶対バテるだろ…………。
――――と、そんな心配もしていたが杞憂でした。
「まあ、山登りって言ってもなだらかな道を散歩するだけのやつだけどね」
…………それ、山登り違います!! ただの散歩! さ、ん、ぽ!
全く……セレブの学院は何を考えてんだ……。まあそれなら楽しく喋りながら交流出来るから親睦は深まるのかな?
「会長、早く決めちゃいましょうよ。他にも決めないといけないものもあるんですから」
…………うぇ。静かだと思ったらいたのか。(気付いていたけど無視してた)
「そうだな。――――では、これから行事やイベント等の説明とその他配置決め等を決めて行く」
どうやら生徒会は全ての行事とかイベントで進行やら色々と働くらしい。それじゃあはー君が猫の手も借りたい訳だ。
まあ、僕は手伝いだからメンバーの補助とかで裏方的なものをやらされるだけだろうから大丈夫だろう。
「まず、来月にある山登りだが。これは例年通り3年は参加出来ないので1年と2年で仕切ってもらう」
ええ!? 3年来ないの!? ……早速出番とか胃が痛くなる。
え~と、そうなると1年からは僕と、S組の富田君か……。
ちらりと富田君の方を見ると真面目そうな顔で資料に目を通していた。
そういえば、由良ちゃんが言ってたけど富田君も結構女子に人気だって言ってたよな…………生徒会ってイケメンしか入れないのか?
どこの乙女ゲーだよ…………。
富田 真…… 1年S組で最優秀と言われる程の知能を持っている。しかも顔もインテリ系のイケメンなので人気なのだそうだ。
そんな彼と組まされる僕は絶対女子から嫉妬されるだろうからできればあまりお近付きになりたくない…………。
んで、2年からは玉置先輩と鳴神先輩…………あ! この人はフツメンだ。なんだ、誰でも入れるのか~って失礼だよね……すみません、鳴神先輩。
心の中で謝りながら鳴神先輩を見ると………………鬼畜野郎と仲睦まじく話していた。
何だ? ここはBLゲームの中だったのか…………って、そうじゃないよね。いかん! ゲームやり過ぎたせいか侵食されつつあるようだ。
鳴神先輩の容姿は普通にクラスに一人はいるような乙女ゲーでいうモブ的な顔の癒し系である。かたや、鬼畜野郎は双子情報によると1年から2年までの女子生徒からモテているそうだ。
何故あの鬼畜ぶりがモテるのか僕的に謎である。
「桜井さん、どうやら僕達は1年の担当をするようだ」
だよね~…………関わらないとか無理だって分かっていましたよ。でも、正直玉置先輩と一緒が良かった……。
よし、ここは気持ちを入れ換えて頑張ろう!
「ちなみに、どんなことをすれば良いのかな?」
「先頭は先生方が先導して下さるので後方を先輩方とつくそうだ。後は動物との触れあい体験があるからそこでも見回りをしていくらしい」
「そうなんだ……」
げぇ……先輩とって、あいつとはならないで欲しいんですけど!! 絶対玉置先輩になりますようにっ!!
…………しかしこれ、僕がいなければ富田君だけだったんだよね?いくら先輩がいるとしても人数少なくない?
「荒巻も参加すれば君も大変ではなかったのにな」
? 荒巻って誰?
知らない事は早めに聞かないと後悔すると教訓になっているので富田君にすかさず聞いた。
「あの、荒巻君? って誰なのかな? 生徒会のメンバーだよね?」
すると
「「「………………」」」
何故か皆微妙な顔をして黙った……。何なの!? そんなにヤバイ人なの? 何でそんな人が生徒会メンバーなんだ!?
軽くパニックになっているとコホンッと咳払いをして富田君は説明してくれた。
「ああ。荒巻は生徒会メンバーだ。…………その、今は学院に来てない」
来てないとはどういうことだ? まさか、ひきこもり? 中学で虐めにあって学校に来れなくなったとか……?
「確か荒巻って中学で不良だったけどアニメとゲームに出会って絶賛ひきこもり中っていう奴だよね?」
…………ただのオタクのひきこもりかよっ!! というか、不良なのにオタクに目覚めてひきこもりって何だよ!? 僕だって一日中ゲームとかアニメとか見てたいしやってたいけど、それでも我慢して学校行って勉強とかして終わった後ソッコーで帰ってやるのが楽しみだというのに…………これから社会に出て行く時にやって行けないぞ……。
そんなまだ見ぬ彼に心配していたら鬼畜先輩がまたもや発言していた。
「――――あ! そうだ、会長。桜井さんに荒巻を説得して学院に来させて貰えば良いんじゃないですか?」
「え!?」
な、何を言っているんだ奴はっ!? 馬鹿じゃないの? 何で僕が知らない人を説得して連れて来なきゃ行けないんだよ!?
新手の虐めかこれは!?
「…………」
めっちゃ良い笑顔で笑ってる――――!! やっぱり僕を困らせるのが目的だったんだ! 何て奴なんだ!!
はっ! はー君は何て答えるんだろうか? 僕には無理だって言ってくれるよね!?
「桜井さんなら絶対荒巻を説得出来ると思います。会長、桜井さんを信じてみましょうよ。人数がいれば生徒会の手伝いもやれる事が広がりますよ?」
馬鹿――――!! 余計な事言うなよっ!? これで決まったら僕はどうしたら良いんだ!
…………あれ、何かはー君がじっと見つめてくるよ……。
何か嫌な予感…………。
「桜井さん、頼めるかな?」
やっぱりか――――! うん……、分かってたよ。良いよ! 行けば良いんだろ……行ってやるさ!
くそぅ…………後で覚えていろよ、鬼畜野郎め!!
「…………善処します」
出来るとは思わないから言葉を濁す僕を鬼畜野郎は嫌味な顔をして見ていたのでこっちも精一杯にこやかに笑ってやった。
というか何故奴はこれ程僕に突っ掛かってくるのだろう?
まあ何にせよ荒巻君とやらを説得しに行かなきゃね~……。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
~荒巻君の家の前~
はい、やって来ました荒巻君ち。
いや~お坊ちゃんだからデカイ家に住んでるのかと思ったらまさかのマンション住まい。だけど、やっぱり最高級マンションの上層階で親が買ったマンションで一人ひきこもってるとの事。
荒巻君のご両親も何で一人にさせたのやら……あぁ、そういえば、元不良だったっけ。ならご両親も手に負えなくてうちの学院に押し込めてどうにかしようとしたんだろうか?
でも反対にひきこもってしまいましたけどね!!
…………さて、そろそろ妄想トークで遊んでないで説得に行くか。
でも出て来てくれるかな?
ちなみにこの高級マンション、高いだけあってセキュリティもバッチリで玄関の所で普通は暗証番号を入力したりしないと入居している人は入れないし、その人の友達等も本人が許可しないと出入り出来ないのだが、何故か鬼畜先輩が番号を教えてくれたので通過出来た。
深いことは聞かない。だって自分の身が可愛いから!
緊張しながらインターホンのボタンをポチポチッと押した後にピンポーンとチャイムが鳴った。
「………………」
………………しーん
「………………」
ピンポーン
しーん
「…………………………」
プチッ
ピンポーン ピンポーン ピンポーン ピンポーンピンポーンピンポーン ピンポーン ピンポーン ピンポーン ピンポーン ピンポーン ピンポーン ピンポ~~~~~~ン
とうとう痺れを切らしたのかガチャッという音と共に
「ピンポンピンポンうるっせーんだよっ!! いい加減にしろ!!」
と出て来られた。
ふっ! 秘技 ピンポンダッシュ(ダッシュしてない)使えるな。
「初めまして。私、1年B組の桜井 夕夜と言います。今日は生徒会の同じメンバーとして荒巻君に会いに来ました」
とりあえず自己紹介。それにしても、ひっきーのくせに茶髪イケメンとか舐めとんのかコラ! ……くっそぅ、やっぱり生徒会って顔重視なんじゃないの?
そんな悪態は心の中だけにしつつ表面上はにこやかに告げた夕夜に対して荒巻は嫌悪感を出しながら威嚇してくる。
「…………生徒会――――だと? そんなもん俺には関係ねえ!! つーか、お前何で俺の部屋の暗証番号知ってんだよっ! 誰にも教えてねーのに」
「まあまあ、そんな事はどうでも良いから私の話を聞いて下さいよ。そうしないと私奴に呪われそうなので」
そう言ったら彼、荒巻君は短気なのか
「そんなこと俺には関係ねえだろうが。早く帰れ」
と犬でも追い払うようにシッシッとされる。
…………僕も破天荒な姉がいるからある程度は我慢出来るけど、これは――――――良いよね?
「…………」
「おい?」
キッと見上げて奴に言い放つ!
「ここでお前の秘密を大声で暴露して良いんだな…………?」
「は?」
そしてチラホラと見えるマンションの人達に向けて大声を出した。
「皆さ~~ん! 聞いて下さい!! この男、不良とか言ってるくせに実際は――――」
「わ――――――!? 何言ってんだ馬鹿っ!!」
「むがっ」
バタンッ!!
「…………」
「…………」
僕の暴露を止めさせる為に口を塞がれ荒巻君の部屋の中へと連行されました。
「…………早く入れてくれればこんなことしなくて済んだのに」
「!? てめぇ……人を脅しておいて言うことはそれだけか! …………っ!?」
「?」
? 急に彼が息を飲んだ気配がしたので不思議に思って背の高い彼の顔を見たのがいけなかった。
「!?」
目の前…………ゼロセンチの距離にて顔が物理的にぶつかってしまったのだ。――――そう、僕と荒巻君のアレです。
「~~~~~!?!?」
「っ!?」
顔から火が出るとは良く言ったもので、本当に火が出たかと思う程めっちゃボッ! っていう音がする感じで真っ赤になっていると思う!!(動揺中)
(ど、どうしよう! キスしちゃったよ――――っ!? しかもファーストキスなのに…………お、男となんて~~~~!! 初めては可愛い彼女とって決めてたのにっ!!)
悔しい気持ちで奴を睨みつけると、荒巻君はまだ固まっていた。
(? イケメンならキスくらいしているんじゃないの? この照れようは何なんだ……?)
見ると顔が僕と同じ――いや、それ以上に真っ赤なんだけど……大丈夫か、この人。一応心配なので声かけてみるか……?
「…………あの、大丈夫?」
自分より慌ててる人見ると冷静になれるって本当なんだな。妙な事で冷静な自分に驚く。
「!? あ…………」
おお、動いた。じゃなくて、とりあえず落ち着いて話すには座って話せる場所が必要だよな~~…………と、言う事で。
「失礼しまー―――す」
勝手に部屋に上がりました♪
「――――こ、これは!?」
何ということだろうか! この部屋にはお宝がありましたよ!
ゲーム機が全種類揃っているなんて、流石お坊ちゃんのオタクのひきこもり!! なんて素晴らしい! あ! 最新機種のPS VIもあるじゃないか!? あれ、確か十何万するとか言うやつで欲しかったけど手が入らなかったんだよね。
…………やらせてくれるかな?
「…………おい」
「あ、やっと動いた」
「~~~~やっと動いたじゃねーよっ!! お、お前! さ、さっきの事、誰にも言うんじゃねーぞっ!!」
「さっきのって……キスの事?」
「言うなって言ったばかりだろーがっ! お前は馬鹿か!? 馬鹿なんだな!?」
「馬鹿って言う方が馬鹿なんだよ。というかまだ照れてるの? あれは事故なんだからノーカウントだよ」
あわあわしている荒巻君にそう言ったらポカンと口を開けて「事故……ノーカウント……」と言っていた。
「……お前は慣れているのか……ああいう事するの」
失礼な……僕だってファーストキスなんだ。事故だと思わないとやっていられないじゃないか!
「ファーストキスだよ! 誰彼構わずやってるような言い方しないでくれる!?」
「え……」
しまった…………墓穴を掘ってしまった。
「そんなことより! ねえ、このゲーム機って荒巻君は全部やったことあるの?」
「え? ……あ、ああ。全部やってる。発売されたのは全部ある」
ぎこちないながらも話を逸らしたが、まさか全部やったことがあるとは驚きだ。ソフトも僕が知っているものもあれば知らないコアなものまである。
「荒巻君てシミュレーションゲームとかってやったことある?」
「ギャルゲーのことか?」
ギャルゲーを出してくるとは……。やっているのか。
「まあギャルゲーもそうだけど、乙女ゲームのことだよ」
「乙女ゲーム……」
あれ、やっぱりやった事ないか……そうだよね、男だもんね。乙女ゲームなんて男のやるもんじゃねぇっ!! って怒られるよね。
――――って何探してんの?
気が付くと荒巻君がソフトが綺麗に並べられている棚から何かを取り出してきた。
それは…………。
「乙女ゲームってこれだろ?」
「!? そ、それは『彼と秘密のアリス』!?」
「ああ。だがこれは1じゃない」
「? ど、どういうこと……?」
1じゃないってどういうことだ? しかも乙女ゲームを自然に出してくるあたりやりこんでいるゲーマーとしか思えないんだけど!?
そんな夕夜の動揺とは裏腹に荒巻は言い放つ!
「これは『彼と秘密のアリスセカンド』だ!」
「せ、セカンドッ!?」
バーンッとソフトをかかげながらドヤ顔で言い放った荒巻君にも驚いたけど、まさか『彼アリ』にセカンドが出ているとは知らなかった。しかも、絶対やりこんでフルコンしているに違いない。
ここまでのオタクとは思わなかったけど、彼とは話が合いそうだ。
生徒会のことは良く思っていなさそうだが、オタクのよしみで来てくれないだろうか? まあ僕も生徒会は行きたくないけど(魔王と鬼畜がいるから)荒巻君がいるならちょっとは楽しめそうだし!(酷い)
新たなオタクの友達を説得しようじゃないか!!
さて、夕夜はオタ友をゲット出来るのでしょうか?(*´ω`*)