忘れた頃にやってくる腹黒魔王樣
由梨ちゃんの言った通り次の日には学院に通い出した。
まあ、そこまではいいんだ。そこまでは…………。
ていうか、別に忘れてたぐらいで怒んなくても良いと思うんだよね! だって僕昨日まで大変な目にあってたんだからさ~~顔出さなかったのも悪いと思うけどすっかりさっぱり忘れてたんだからしょうがないじゃん!!
「…………俺の話、ちゃんと聞いているのかな? いや、聞いてないよね?」
ぎゅむっと頬をつねられてマジで痛い!!
「もうひわけありまへんれした……」
魔王樣に捕まってしまった哀れな僕は学院にやって来て早々、どこから嗅ぎ付けたのか腹黒魔王樣がやって来て爽やか王子樣の顔で捕獲され生徒会室にて今に至ります…………。
「――――それで? どうして休んでいたんだ?」
ヒリヒリ痛む頬を擦りながらこれまた何度も言った事を繰り返す。
「先生にも言ったけど、高熱が出てたから休んでた。昨日やっと良くなったから出て来れたんだよ」
僕は5日間寝てたから知らなかったけど、クラスでは相当心配していたようで朝登校したら皆に凄く質問責めにされた。
まあ真実なんて言えないから高熱が続いて休んでいたってことになったわけだ。
だが腹黒魔王樣こと生徒会長のはー君は騙されてくれないようだ…………更に嘘臭い笑顔が濃くなった。
「夕夜……? 俺に嘘をつくなんて偉くなったものだな? 昔のように躾けたほうが良いかな…………?」
「ひぃっ!?」
やばいっ! マジでこの笑顔怖いぃ――――――っ!!
誰か! 僕を助けてぇっ!!
ガチャッ
「――――隼人? …………あれ、先客がいたか」
「安澄か」
天に願いが通じたのかはー君のどす黒い笑顔が瞬時に消えてホッとする。はて? この人は誰だろう。
見た目は中性的な顔ですこぶる美しい。髪は肩につくかつかないかのサラサラな黒髪ではー君と並ぶと美男美女でお似合いだ。
「書類にサインが欲しいんだ。はい、これ」
「ノックしてから入れといつも言っているのに…………分かった。今確認するからコイツが逃げないように見張っておいてくれ」
「見張るって……」
傍若無人な魔王め! 何て酷いことを言うんだ……ってあれ?
この人、誰かに似ているような?
「初めまして。私は3年の 緋翁院 安澄と言います。貴方は?」
「…………」
「……あの?」
「…………」
「…………困ったな」
夕夜の沈黙に苦笑していると突然夕夜の口元が動く。
「――――――だ」
「え?」
ガバッと安澄に近付き夕夜はキラキラとした瞳で言い放った。
「黒薔薇樣だっ!!」
「黒薔薇樣…………?」
そうだよ! 何で気付かなかったんだろうか? 目の前にいる中性的で綺麗な顔をした姿はまるで『マリ見た』のアニメから出てきたような完璧な黒薔薇樣こと、羽山 汐莉樣にそっくりだった。
「おい、黒薔薇樣って何なんだ?」
「え!? 『マリ見た』見てないの? 今結構流行っているんだよ?」
「そんなの見る暇ないし。あっても見ないけどな」
「え――――!? 乙女ゲームにも出るって噂なのに……」
ちなみに黒薔薇樣とはリアンヌ女学院には憧れの先輩が4人いて、『赤薔薇樣』『黄薔薇樣』『青薔薇樣』とそれぞれ呼ばれる方がいるなかの黒薔薇樣は気高く美しい女性で庶民の主人公とも分け隔てなく話してくれる僕のもっとも好きなキャラクターである。
そして、その黒薔薇樣にそっくりな緋翁院先輩も納得と言った顔で頷きながら言う。
「あぁ。あのアニメは見たことあるよ」
「え! 本当ですか!?」
なんと! そっくりな先輩も見ておられるとは……マリ見た人気は凄いな!
「私の恋人が好きで見ているんだ」
「恋人……」
なるほど。これだけ綺麗なら恋人もいるよね。っていうか、あれ? 僕、緋翁院先輩に挨拶してないっ!?(気付くの遅い)
「す、すみません先輩! 私、1年の桜井 夕夜です……挨拶が遅れてすみません!!」
「いや、大丈夫だよ。桜井さんは隼人と仲が良いんだね」
気にする風もなく笑顔で許してくれる緋翁院先輩は、どうやらはー君に書類にサインを貰おうと来たみたいではー君に書類を渡しながら僕に言ってきた。
「あ、昔一緒に遊んだことがあるんです。緋翁院先輩もはー君……会長と仲が良いんですか?」
「ん? 私は中学からの仲だけど風紀委員の仕事とかで頻繁に会ってるから他の子よりかは仲が良いかな?」
え!? 風紀委員なの? 生徒会の役員かと思ったよ。しかし、二人並ぶとイケメン度が凄いよーな気がする。これ、女生徒が見たら鼻血吹きそう。
「そういえば、隼人が言ってた子って桜井さんだったの?」
ん? 僕が何だ?
「あぁ。これからは生徒会も忙しくなるからな。コイツには馬車馬のごとく働いて貰う」
すいませーん! 僕に拒否権はないんでしょうか!?
「へ~~! 隼人にここまで気に入られてる子なんて見たことないな……」
「……先輩、聞き間違いかと思いますが、私気に入られてるとかじゃなくて下僕扱いだと思います……」
そう僕が言うと緋翁院先輩は苦笑しながら言う。
「いや、合ってるよ。隼人って表の顔は王子樣だけど、裏はコレでしょ? だけど、誰一人として裏の顔は見たことないんだよ。というか、隼人が見せない」
「? 緋翁院先輩は見てるじゃないですか」
「私は昔から隼人を知っていたからね。財界などのパーティとかは参加しなくちゃならないから自然と会うこともあってね。その時思ったんだ」
「……何を、ですか?」
今、先輩は重要な話をしている気がする。はー君にとって大事なことを。
「さぁ? ここからは本人に聞いた方が良い。それに、ほら」
「? ――――っ!?」
緋翁院先輩が指す方を何気なく向いたら、そこにいたのは
麗しい笑顔が輝かんばかりに放出されている魔王樣がおられました…………振り向かなきゃ良かった。
「――――夕夜、後は放課後でいい。教室に戻れ」
おおぅ……逆らえない空気がっ!! よし、ここは素直に逃げよう!!
「分かりました。それでは、先輩方失礼します!」
バタン
「…………お前、何考えてるんだ?」
隣にいる悪友は不機嫌さを出しながら聞くと
「別に? ただ、隼人にも可愛い恋人が出来たら良いな~と思っただけ。あの子なら隼人も良いと思っているでしょ?」
やっぱりかと思った。
「…………食えないやつ」
「それはお互い様」
だが、悪友の言葉が何故か引っ掛かった。
『あの子なら隼人も良いと思っているでしょ?』
…………無理だろ。あいつは今は女でも、いつかは男に戻るかもしれないし。それに、あいつは俺のことを兄貴としか思っていない。
…………ん? 何かおかしな考えになってきているな……まぁ良い。
仕事も溜まっているし片づけるか……。
そして二人は何事もなかったかのように仕事に戻った。
その頃の夕夜はというと――――
「……う~~ん。緋翁院先輩って一筋縄ではいかない人かもしれないな…………恵君、はー君攻略難しいかもしれない!! よし、帰ったら早速作戦を…………って、僕 放課後生徒会室行かなきゃいけないんじゃん!?」
一人百面相をしながら教室へと向かうのであった。