新たな世界の扉が開くかも……?
夕方の教室の中、佇んでいるのは僕と華ちゃんだけだ。
「えっと、それで僕に話って何かな……?」
僕は男の姿で学院の制服を着ている。そして挙動不審な僕はどうやら呼び出されたようだ。
「あのね、夕夜君に言わなきゃと思って呼んだの……」
「言わなきゃいけないこと…………?」
おかしい。何故かこの手の話…………前にもあったような気がする。
「私、夕夜君のことが好きなの」
「!? えっ!? ぼ、僕も華ちゃんのことが……」
嬉しくて、直ぐに返事を返そうとした時だ。
急に華ちゃんが僕から遠退いて行く。そして、少し僕の方を振り向きながら華ちゃんは言った。
「――でもね、私、女の子は恋人には選べない。夕夜ちゃんは女の子だもの」
すると、今まで男の姿だった僕から薬の効果で女性の身体になってしまった僕に変わる。
「なっ――!? どうして!! 華ちゃん!!」
「さようなら――――――ずっと女の子のままの夕夜ちゃん」
そして僕のいた地面がガラガラと崩れていき、僕もそれに合わせて落ちていく!
「うわあぁぁぁ――――――――――っ!!」
いつしか僕は暗闇にのまれていった…………。
★ ★ ★ ★ ★ ★
「わああ―――――あ? あれ?」
目覚めたらいつもと変わらない僕の部屋だった。
いや、変わったことはあった。思い出したくもないけれど、事実なのだから受け入れなければいけないことは分かっている…………分かってはいるが感情が追いつかないんだ。
その変わったこと。それは――――僕が完全に女性の身体になってしまったこと………………だ。
「……本当に戻れないのかな?」
でも、薄々気付いてはいた。生理になった時は女の子は皆なるものと聞いて素直にそうなのかという感じだったが、たぶんあの時から徐々に身体の細胞が女性の身体へと作りかえられていったのだと思う――――たぶんだけど。
「これから僕はどうやって生きて行けばいいんだろう……」
気絶してから今日が幾日経ったのかもわからない。まあ今は知ることすら面倒だ。
「……もう引きこもろうかな……そして立派な引きこもりニートに…………ふふふふふ」
さあ! まず手始めに何からしてやろうか!(悪の魔王風)
ガサゴソ、ガサゴソ…………
おや? こんなところにDVDと漫画が……これは由良ちゃんが置いていった物かな?
…………何か可愛い女の子がいっぱいいる絵だな。
ギャルゲーか? …………よし、見てみよう。
いざ! 出陣――――――っ!!(意味不明)
「美景さんから言われたけど……夕夜ちゃんが嫌なら無理に連れて行かなくて良いと思うの」
夕夜が倒れてから5日。美景に頼まれて夕夜の様子を見に来ていたが、夕夜が目覚める気配はなく相当ショックを受けたことが分かった。
そんな夕夜をそっとしておけないかと由良は思う。だが、由梨は違うようだった。
「そんなの夕夜の為にならないわ。例え辛くても、夕夜が乗り越えないといけないの。今まで私達は夕夜に対して夕夜が傷付かないようにしてきたけど、それじゃあ夕夜も私達も変わらない。今、変わる時なんだと思う」
「…………変わる時?」
このままだと夕夜ちゃんも駄目になってしまうのは嫌だ。ならば、無理矢理は嫌だけども根気強く説得すれば夕夜ちゃんは強い夕夜ちゃんになるのかもしれない!!
それならば、やるしかない!
「分かった。私やってみる!」
「夕夜ならきっと立ち上がれるわ」
そして、夕夜の部屋の前……。
「夕夜! 起きてる? 入るわよ」
「夕夜ちゃん、起きてる?」
びっくりさせないようにドアの前で夕夜に呼びかけてみた。
が
『お姉さまっ!!』
「「………………」」
今、夕夜とは別の女の子の声が聞こえた。
しかも『お姉さま』と言っていた。
一体この部屋で何が起こっているのだろうか?
双子は視線だけで頷き合いそっとドアを開けた。
そこにいたのは――――――
「お姉さま、私はお姉さまが嫌だと言っても私はお姉さまが好きなのです!!」
「駄目よ。私達は決して結ばれてはいけないのよ」
「そんなの、お姉さまが私を好きだと、離れたくないと言ってくだされば私はお姉さまにどこまでもついて行きます! ……だから、だからどうか私を好きだとおっしゃって!!」
「佑実っ!」
そして二人の少女は抱き合う――――。
♪~~♪~~(エンディング曲)
「う゛っぅぅ~…………良かっだ~~~~!! おめでどう! 二人ども結ばれて良かったよ~~~~!!」
テレビからエンディングが流れていて女の子二人の幸せそうな絵が流れているのを夕夜がテレビの前でティッシュを片手に涙を流しながら拍手をしているという意味不明な光景が目の前でやっていた…………。
「何これ…………」
「! これは!?」
どうやら由良は思いあたることがあるようで由梨に説明した。
「今夕夜ちゃんが見ているのは『マリア樣は見ていた』っていう小説が原作のはっきり言うと百合……ガールズラブの物語なんだけどね? 今女子の間で流行っているのよ」
「『マリア樣は見ていた』!? 何でそんなの夕夜が見ているのよ?」
「たぶん、私がゲームとか置いていった時に紛れてたのかも」
「…………」
ちらりと夕夜を見るとまだ感動に浸っているようでこちらには気づいていないようだ。
ちょっと……いや、かなりムカツク。人が心配していたのに夕夜はお気楽にアニメなんか見て楽しんでいるなんて…………!!
衝動的に夕夜の肩を掴みガクガクと揺さぶった!
「ちょっと! 夕夜、あんた目が覚めたなら何で私達に電話とかメールくれないのよ!!」
「!? ゆ、由梨ちゃんっ!? ご、ごめっ、って、うっ!?」
「夕夜っ!?」
~しばらくの間お待ちください~
「ごめんね……連絡しなくて……」
吐き気は治まってやっと喋れるようになった。
「……いや、こっちこそ急に揺さぶってごめんね? すっきりした?」
「うん。何か全部出た感じ」
「そう。……それで、美景さんから聞いたけど……」
「僕が完全に女性になったってこと?」
「…………」
双子の顔を見てやっぱりそうかと納得する。
「まあ、色々と不満とかあったけどさ、こうなっちゃったら仕方ないもんね。死ぬよりかはマシだから僕はこれから女性として生きて行こうと思う。だから、由梨ちゃん、由良ちゃん」
「「……何?」」
一息吸って僕の素直な気持ちを言う。
「僕が愚痴を言う時には付き合ってくれると嬉しいな」
ニコッと笑って言うと双子は何故か呆れた顔をした……何故だ。
「夕夜って神経図太かったのね。まあ、夕夜がそういうなら私達は何も言わないし、一緒にいるだけよ」
「そうね! 夕夜ちゃんが幸せならそれで良いもの」
「いや、別に幸せじゃないけど。あ! そうだ」
ふとさっきのアニメを思いだし、由良ちゃんに聞いてみた。
「『マリ見た』って他にも何作かあるんだよね? 由良ちゃん、持ってたら貸して?」
「良いわよ。そんなにハマったのならサークルもあるから見に行ってみる? 今度の日曜に東京ビックサイトでコミケあるから行きましょう」
「え! 東京ビックサイト!? い、行く!!」
興奮して話が盛上がってきたところで由梨ちゃんが疑問を僕に言ってきた。
「その『マリア樣が見ていた』って実際どういう話なの? 由良から聞いたけど、ガールズラブの話らしいじゃない。夕夜はどこにハマったのかわからないんだけど」
「まあ、僕も最初はガールズラブって次元が違うって思ってたけど、これは――――――尊いんだ」
「……はあ?」
由梨ちゃんが意味わかんないって顔をしているが気にしない!!
「主人公の佑実がリアンヌ女学院に入学するところから始まるんだけどね――――」
主人公 林 佑実は平凡な家庭に生まれた女の子で高校受験の前に見学に行ったカトリックの学院、リアンヌ女学院に行った時のこと、彼女は運命に導かれ出逢ったのです。
髪は腰まで伸ばしてあり、顔は見惚れる程美しく儚げな女生徒に。
そして主人公はその先輩と一緒にいたいとリアンヌ女学院を希望校に選び見事合格。
主人公は晴れて憧れの先輩に会いに行くが先輩、城ヶ崎 霞に冷たくあしらわれる……だが主人公は挫けずに霞と接する内に霞の闇に気付きその闇を少しずつだが和らげていく。
そんな主人公に霞は段々と惹かれていくがこの恋は決して結ばれてはいけないものと主人公を遠ざけてしまう……主人公は離れて行く霞に不安を覚え、今までとは違う気持ちに気付く。
そう、それは恋なのだと…………。
「という女学院の秘密の花園的な素晴らしいストーリーなんだよ!!」
「ふーん」
「!? 『ふーん』って何!? 人がせっかく熱く語っているのに酷いよ~!!」
由梨ちゃんは『マリ見た』の本をちらりと見て僕の方を向くと
「興味ないからいい」
ガーンッ!!
「それより、元気になったんなら明日から学院に来なさいよ? 皆心配してるんだからね!」
「わ、分かった」
夕夜が返事を返すと由梨はさっさと部屋を後にした。由良も由梨の後を追いながらふと夕夜に振り返る。
「夕夜ちゃん、コミケ楽しみにしてるわね!!」
そう言って由良も帰って行ったのだった。
後に残された夕夜は………………
「――――とりあえず、続き見よ!」
そう言っていそいそとDVDのディスクを替えたのであった……。
夕夜は新たなジャンル『ガールズラブ』を覚えた!!
シリアスって難しいですね(-_-;)
というか、全然恋愛してないし!?(´д`|||)
夕夜のオタク進化ストーリーになっとる……。
いや、これから恋愛に行くんだ!
……………きっと(;´д`)