始まった身体の不調
「………………」
…………なんか、おかしい。
そう思ったのは朝起きてすぐに分かった。何かがおかしい、と。
だけど、その何かが分からなくてもどかしく感じてしまう。
ただひとつ分かるのは自分の身体がおかしいと言うことだけだ。
「夕夜、調子が悪いなら学校休みなさい。届けは出しておくから」
「大丈夫だよ。熱もないし、休むと授業内容遅れちゃうし」
姉が心配してくれるのは嬉しいが華ちゃんにも会いたい……。
だけど、凄くダルいし、頭もクラクラするし……どうしよう。
ピンポーン
「あ、由梨ちゃん達だ。姉さん、行ってくるね」
「夕夜!」
ばたん
「…………」
後に残った美景は素早くスマホを出してある所に電話した。
『どうしました? 今日休みですよね……もしかして夕夜君に何か?』
後輩の勘の良さには助かるとしか言いようがない。
「えぇ。身体に変調が出たのよ。一応アレを用意しておいて」
『分かりました。……それで夕夜君は?』
その言葉にピタッと止まってしまう。
『…………主任? まさか』
やはりこの後輩の勘の良さはあまり発揮するのはよろしくないかもしれない…………。
『主任!?』
「………………学院に行った」
渋々と言うと電話越しの後輩は息を詰めて――――怒鳴った。
『あんた、馬鹿でしょ!!』
「………………」
『とりあえず、準備しておきますので、一刻も早く夕夜君を連れてきてくださいよ!! 待ってますから』
「分かった」
そして美景は素早く準備を整え夕夜の後を追った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
朝の教室、賑やかな生徒達の話し声が響く。
(…………何だかまた身体がおかしいぞ……? 熱が出てきたのか?)
朝からダルいと思っていたがついに熱まで出てきたらしい。息も熱いし目の前もなんかクラクラしている……。
「おはよう、夕夜ちゃん!」
ああ、今日も天使のように可愛いなあ、華ちゃん…………
「夕夜ちゃん?」
あれ? 何かさらに頭がボーッとしてきた…………しかも、何か――――熱い? よぉ……な………………
バタンッ
「夕夜ちゃんっ!?」
「おいっ!!」
目の前が霞がかったようにぼやぁっと歪んで見えてきた。これはヤバイかと思ったのも束の間だった。
僕は倒れたのと同時に意識も飛ばしてしまった。
「………………? あれ? ここは…………」
目を開けたら見慣れない場所にいた。
「え? ここ本当にどこ!?」
ガバッと起きてキョロキョロと見渡すが見覚えがない。僕が寝ているソファーの他には書類が山積みされた机と何かの数式? が書かれたホワイトボードなどしかない。
こんな訳も分からない所に僕一人とか不安が募る。
すると、一つだけある扉が自動で開いた!
そこに現れたのは思いもしない奴だった。
「!? き、ら君!?」
サラ夫と呼ばなかったことを褒めてほしい。だって、知らない場所にいて不安になっているところへ自分を嫌っている奴がいるなんて思わないだろう。
というか何故こいつがいるんだ? 出来れば恵君の方が良かった。何故かって? だって、こいつ僕のこと嫌ってていつも嫌みったらしい言葉を言ってくるから嫌なんです!!
別に恵君のことが好きだからではない。……友達として好きだけども。
おっと、思考が脱線してしまった。仕方ないからこいつにここが何処だか聞いてみるか。
「あの、吉良君」
「何だ」
おい、人が下手に出てやっているのにその態度は何なんだ! まったく、身体がダルいっていうのに…………ってあれ? 身体がダルくない? しかも熱かったのにそれも治まってる……何故?
「おい、聞いているのか!?」
「……あ、ごめん」
どうやら考えてて聞いていなかったらしい。
「ったく。で? 身体は大丈夫なのか?」
「え?」
何故こいつが知っているんだ? あ、そうか。確か僕は教室で倒れたんだった。だから心配してくれたのか。
なるほどと思い吉良に頷いた。
「うん、大丈夫。ところで、ここが何処だか知ってる?」
「…………お前、わからないのか」
いや、わからないから聞いているんですけど。
「ここはお前の姉貴が勤めている製薬会社の研究所だそうだ」
吉良の口から驚くべき答えが出て口が開いたままになってしまった。だけど、研究所? また何でそんな所に僕はいるんだ?
顔に疑問がでていたのか吉良は答えてくれた。
「ちなみにここにいるのはお前の姉貴が連れて行くと言ったからだ。教室で倒れた後すぐにお前の姉貴が来て俺がお前を抱えてお前の姉貴の車で来たんだ」
「…………吉良君が、私を抱えた?」
「? ああ、お前の姉貴じゃ無理だろ。だから俺が運んだ」
「………………」
…………穴があったら入りたい。まさか、教室で倒れて女子に人気の吉良に『お姫様抱っこ』されているのを皆に見られるなんてっっ!! 恥ずかしいし、今後の僕の学生生活は大丈夫なんだろうか? 女の子の嫉妬は凄いって聞くし…………だ、駄目だ!! 怖すぎる!!
…………というかこいつと二人きりって初めてかも。今までは由梨ちゃん達いたし。
「……何だよ」
「あ~~何でもない」
じーっと見すぎたらしい。吉良の眉間が険しくなっております。
ちなみにそんな時もイケメンです。イケメンって特だよね……クソゥ僕もイケメンだったら華ちゃんに告白して付き合えたかもしれないのにぃ…………。
そんな事を思っていたら吉良がこっちを向いてじーっと見ていた。
何っ!? 僕なんか見て……はっ! もしかして仕返し!?
「……あのさ、さっきから俺の名前呼んでるよな」
「へ? あぁ、うん。それがどうか――――」
「…………」
あ――――――――!? しまった――――――!!
……今さら気づいても遅かった。目覚めてテンパってたのもあるが吉良をいつもなら『蓮見君』と言っている僕がさっきから『吉良君』と名前を連呼していたのだ!!
あぁ――――やってしまった。だけど、聞いてほしい。別にいつもなら呼ばなかった筈なんだ。だけど、この間休日にやったBLゲームで自分の名前でやっていると自分が主人公になったみたいで何とも言えない気持ちになるので他の名前にしようと思って考えたところ恵君と吉良が思い浮かび、恵君は申し訳ないので却下して結果吉良にしたのだが、やっていると何故か爽快な気分でやれたので良かった。
だが、それがいけなかったらしい。ゲームをやっていてバッドエンドだと「あぁ……吉良が……虚ろな目に」とか。はたまたハッピーエンドだと「良かったね~! やっと吉良が両想いに!!」という風に吉良と連呼していたら…………こうなりました。(泣)
「ご、ごめんね!? 勝手に名前で呼ぶなんて嫌だよね? もう呼ばないから安心して!」
「別に……呼べばいいだろ」
「え……?」
今、吉良は何と言った? 聞き間違えじゃないなら呼んでも良いって言った!?
「お前のことも夕夜って呼ぶし、これからはダチとしてヨロシクしてやるよ」
「……何で上から目線なの。しかも急にダチって……」
「だって、お前華のこと好きだろ?」
「!? な、何で知って……!?」
怒濤の追撃に僕の思考がまたパニックになってくる!
「見てれば分かるだろ。それに、お前は恵のこと友達としか見てねーし。あいつらは俺にとって大事な幼馴染みだから傷付ける奴は許さない」
なるほど。僕にとっての由梨ちゃんと由良ちゃんみたいなものか……うん、分かる! 分かるよ、その気持ち!!
しかし、恵君との関係に腐的なものを感じるのは僕がBLをやり過ぎてるせい?
ま、いっか。
「ありがとう。友達が増えて嬉しい!」
「! お、おう……」
男の友達が増えて結構嬉しかった。なんせ、中学時代は大人しい性格だったせいか男友達はいたがオタクの男子数名だったからね。こんなイケメンとなんてなれるとも思わなかったし。
ていうかイケメンなんてこの世から居なくなれとかリア充爆破しろとか思ってたし……。
僕達が話していた時にまたもや入り口のドアが開いた。
そこから現れたのは――――
「姉さん!!」
「…………目が覚めたのね。良かったわ」
僕を見て安心したのかホッとした様子を見せる姉にびっくりする。
(そんなに心配してたのか……僕の身体何かなってるのかな?)
急に不安がつのってくる。
「ところで、夕夜に大事な話があるの。…………だから、蓮見君には悪いのだけれど帰ってもらって良いかしら?」
姉の言った言葉に僕は苛立った。
「姉さん! 吉良君にそんな言い方はないんじゃないの!? 私をここまで運んでくれたのにっ!!」
「夕夜、良い。大事な話なんだろ? 俺は帰るけど、無理すんなよ?」
「吉良君…………ありがとう」
「おう。じゃあな――――それじゃ、失礼します」
そう言って吉良は帰って行った。
そして後に残ったのは僕と姉の二人だけ…………気まずっ!!
「夕夜、身体は大丈夫? 熱はない? 気持ち悪いとかは?」
そう言って僕に詰め寄って来る姉を見ながら僕は慌てて距離をとって回避する。
「ね、姉さん、僕に話があるんでしょ!? 早く話してほしいんだけど!」
「……分かったわ」
どうやら納得したらしく姉は話始めた。
「夕夜、今あんたの身体は急に女性の身体になった為に身体の中のホルモンバランスが不安定になって女性ホルモンが多く、男性ホルモンが凄く少なくなってしまったの。その為に発作が起きて倒れたのよ」
「…………マジっすか」
そんなことになってるなんて思いもしなかったよ!?
ぼ、僕の身体どうなってんの!? も、戻れば大丈夫だよね?
まさか、男に戻れないとか――――ないよね?
「ちなみに、検査結果を見て夕夜、あんたは――――もう、男の身体に戻れない身体になってしまったという結果が出てしまったわ」
「…………」
信じられない。
だって、元に戻れると思って僕は頑張って来たんだ。
…………なのに、戻れない? 何で?
ねえ、神様。僕は何か罰を与えられるような事をしたんですか?
こんなの、こんな事…………あまりにも酷すぎる!!
――――ああ…………また頭がグラグラしてきた。
熱のせいなのか、はたまた精神的ショックなのかわからないまま、夕夜は本日2度目の気絶をしたのであった。