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ラック=ラダーの紹介状

 また一人になったな。

 ラックが指さしていた方に進むと「買取」と書かれた札が見えた。

 言葉が通じたことで、そうであってほしいと期待していたが、この世界の文字も問題なく読めるようだ。


 「そう言えば、リダって看板も普通に読めたしな。」

 今更ながらに気が付いた。

 

 買取カウンターには、俺の前にも一人並んでいて、受付の女性に何やら得体の知れない毛皮のようなものを見せており、数分何か話した後、木札のようなものを受け取って帰って行った。

 あれか?GE○とかの番号札みたいなもんか?「何番でお待ちのお客様、買取が終了しましたので、1番カウンターまでお越しください。」的な。


 「お客様は、どういった物の買取でしょうか?」

 俺の番が来て受付嬢に話しかけられた。

 肩口まで伸びた明るめの茶髪が良く似合う、メガネ美人だ。

 イメージとしては、優しそうな秘書といった感じだ。

 しっかりとしてそうだが、キツ目ではなく優しい雰囲気を纏っている。

 背は160センチ位かな。俺より20センチ位低い。そう言えば、前の世界では20センチは理想の身長差と言われていたな。

 あまり女性経験がなかったからな。ちょっとドキドキしてしまう。


 「お客様…?」

 そんなことを考えていると、困ったような顔で、覗き込まれてしまった。

 「え、え~と。」

 俺は、急いで先ほどラックから渡された紙を渡し、鑑定して欲しいものがある旨を伝えると、驚いた顔をされ、その後、すぐに受付カウンターの奥にある部屋に案内された。


 「どうぞ…。」

 丁寧にお辞儀され、ノックの後、ドアが開かれる。


 中に入ると、そこには老人が一人いた。

 先ほどの質屋の老人のような胡散臭さはないし、若造を威圧するような感じでもない。

 口元はうっすら笑っていて、一見人の良さそうな感じなのだが、この爺さん、一言でいえば存在感がもの凄い。

 上手く表現できないが、オーラという目には見えないものが音を立てて襲い掛かってくる感じだ。


 年齢は六十歳位だろうか。金色の髪に長い顎髭。左目に大きな傷痕があり、白いマントを羽織、首に十字のネックレス、背中には身の丈を超えるほどの大剣を帯びている。商人というよりは剣士のようだ。


 「よう、ラックの紹介だって?今うちの若いもんが丁度外に出ててな。俺が代わりに話を聞こう。」


 いい声だ。この爺さん、大物臭がプンプンするぜ。

 しかし、ラックさんは、この爺さんにも一目置かれているみたいだな。

 流石秘法級のお宝を手に入れただけのことはあるってところか。


 「あの、その前に、ラックさんって有名なんですか?」


 俺は気になったことを一つ聞いてみた。


 「有名か…。」


 老人はフッと小さく笑い話し始めた。


 「『ラック=ラダー』、その名の通り『幸運の運び手(梯子)』と言われており、あいつの歩いたところには、幸せが訪れる。」

 「『ラック=ラダー』、商人の神ヤカテクトリの生まれ変わりである。」

 「『ラック=ラダー』、十歳の時に、秘法級の宝を2つも持ち帰った天才児」

 「『ラック=ラダー』、翼を失い空から落ちた天使を、天界に送り届けた男」

 「『ラック=ラダー』、幸せの大樹を作り上げた男。それも種から一日で。」

 「『ラック=ラダー』、…………。」

 「『ラック=ラダー』、後は、なんだったかな……。そうだ。あいつの招待状は見逃すな。自分の望む出会いが手に入る。」


 老人はニヤリと笑った。


 「まぁ、噂や作り話もあるだろう。なんせ俺がガキの頃からそんな話が飛び交っている。まぁ、何者かは謎なところが多いが、有名人だろうな。」


 何か凄い人だったらしい。

 って、待て待て、この爺さんがガキの頃からって、ラックは今何歳なんだ?

 少なくともこの爺さんよりは年上ってことだから、もしかして100歳近いのか?

 なんて考えていると、本題に戻された。


 「それで、今日は商館に何の用かな?」


 「鑑定と売却を。」


 俺は、手に持っていた、ブルーベリーガムを机に置いた。


 「ほう。ブルーアイだな……。『百眼の悪魔』の眼球の裏にある結晶からできたものだ。千里眼の秘薬ともいわれるもので……。」


 老人は髭を触りながら、小さな瞼を見開き、ルーペでブルーベリーガムを丹念に確認したあと、説明を始めた。

 内容は先ほどラックから聞いたのと同じようなものだった。


 「まぁ、金貨100枚ってところだな。うちで売りたいなら即金で出そう。売らないにしても、ラックの紹介だ。鑑定料もろもろは特にいらん。」


 おお、ラックさんの言う通りか。凄いな。ぴったり金貨100枚か。

 ってそうだよね。鑑定料とかかかるよね、あぶねー。払えって言われて、無一文です!とか言ったら、切り殺されるところだった。

 まぁ、売るからいいんだけどね。


 「ただ、売っちまうには少し勿体無いアイテムだと思うがな。恐らくもう手に入らんぞ。」


 まぁ、いいかな。

 恐らく千里眼は俺には不要だろう。

 竜人化した時の視力アップは、おそらく千里眼クラスの能力だろうし。


 「とある事情で、宿に泊まる金も無く、腹が減っても飯も無く。それに、これから魔法都市へ向かおうと思うのですが、その路銀も勿論ないわけです。」


 「そうか……。」


 老人は、もったいねえなぁという顔をしている。


 せっかくの機会だ。ついでに他のアイテムも鑑定してもらおう。


 「あの、それとこれも鑑定してもらえますか?」


 俺はコンビニ袋から、ミックスゼリーと一口グミと栄養ドリンクを3本取り出した。


 「ちょっと待てよ……。」


 老人はルーペでまた丹念に観察していく。ミックスゼリーを見ながら「ふんふん。」とか「ほうほう。」とか「え?まじ?」とか言っている。少し面白い。


 「ふぅーっ!お前、凄いな。こんなものを大量に持ち込んできたのは、それこそラック=ラダー以来だろうよ。」


 鑑定の結果は以下のとおりであった。


 【ミックスゼリー】

 → 転換の雫 

 ~ 飲んだ者の性別を変えたり、種族を変えたりすることができる。だが、どの性別になり、どの種族になるかはわからない。 

 鑑定額 金貨300枚


 【一口グミ】

 → 解呪の実

 ~ 自身にかけられている呪いを消し去る。

 鑑定額 金貨100枚


 【栄養ドリンク】

 → 若返りの薬

 ~ 寿命の半分若返る。一生に1本しか飲めない。

 鑑定額 金貨500枚

   還暦未満の方は、飲むと若返りすぎて消えちゃうかもしれないので注意。


 一生遊んで暮らせるんじゃないか?

 もう元の世界に戻らなくてもいいような気もしてきた。

 いや、まてまて、帰ってワラワラ動画の続きが見たい。どうしても見たい。あの漫画の続きも読みたい。うーん。


 というか、転換の雫、これは怖いな。興味はあるがいらないだろう。俺はもう竜になれるみたいだし、翼だけだけど…。これ以上得体の知れないものになってたまるか。

 若返りの薬、これも今はいらないな。俺31歳だし、飲んだら消えちゃうかもって。これも怖いなー。1個残して売ろう。って、まず消えちゃうってなんだよ。あと「かも」ってなんだよ。

 一々あやふやなんだよなぁ…。

 グミは一応とっておくか。


 「盗賊よりも先に、ラックに出会えて良かったな。お前は一体何者なんだ?」


 老人は、半分呆れたような顔で俺を眺めた。

 何者…か。

 正直に話してもいいものだろうか。

 よくわからない自分を呼ぶ声に反応して、異世界から転移してきたこと。

 異世界で買った食べ物が、こっちの世界では価値の高いものになっていたこと。

 そのうち一つを食べたことで、竜の翼のようなものが生えてきたこと。

 空を飛べるようになったこと。

 こんなことを初対面で話して、受け入れられるものだろうか。

 


 「お前は、こいつをどこで手に入れた?」

 

 「あ、いや…。」

 言いづらい。

 俺ですら良く呑み込めていないんだ。


 「ん?」

 爺さんは興味津々な目をしてこっちを見ている。

 倒して起き上がったスライムみたいな目だ。


 ぷっ。

 なんか笑けてきた。

 まあ、いいか。ラックさんの紹介だ。

 望む出会いが手に入るというジンクスがあるなら、それに乗っかって話してみよう。

 そう思い、俺は、この老人に俺の状況を説明した。


 異世界から召喚され、砂漠の真ん中に落とされたこと。

 弁当やら何やらを食って特殊な能力を身に付けたこと。

 元の世界に戻るために、召喚した奴を探す旅に出ようと思っていること。


 信じてもらえるかはわからないが、この爺さんは信頼できる。

 何となくそんな気がした。

 俺は人を見る目はある。はずだ。きっと。


 爺さんは、また、「ふんふん。」と俺の話を聞き、「旅か……。」と最後につぶやいた。


 そして、真剣な顔でこう言った。


 「なぁ、転換の雫と若返りの薬1つで俺を雇わないか?その召喚士を見つけるまでは付き合うぞ。金も金貨800枚払おう。どうだ?」


 「乗った!」


 二つ返事で答えてしまった。

 まぁいいだろう、訳のわからないものを売っぱらい。強そうな爺さんを案内人に雇った。

 金も入るというのだ。うますぎる話だ。

 爺さんもなんか嬉しそうだ。凄いキラキラした目をしてる。子供みたいでウケる。


 「爺さんは、それを買ってどうするんだ?」


 「決まってる。」


 そういって、爺さんは、金貨をどっさり800枚俺に即金で渡したと同時に、ゼリーと栄養ドリンクを飲み干した。


 「ぐぁああぁああぁぁあぁ」


 俺の目の前には、白いマントを羽織った、十歳前後の少女が立っていた。

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