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砂漠の街『リダ』

 空だ。

 俺は今、空を飛んでいる。


 太陽の光が一層と眩しく感じるが、体中を吹き抜けていく風が気持ちいい。


 翼が生えただけで、これを竜人化と言っていいものかは分からないが、先ほど生えたばかりの翼は、なぜか身体に良く馴染んだ。


 手足を動かすのとほとんど変わらないな…。


 正直、空を飛ぶには多少なりとも訓練が必要だと思ったが、まるで生まれたときから翼が付いていたみたいだ。

 

 上空から辺りを見渡すといくつか建物が集まっているのが見えた。


 砂漠の中に大きな湖が1つあり、それを包み込むように街が展開しているようだ。


 良かった。

 一先ずこれで飢えて死ぬことはなさそうだ。


 何せ残された食料は、ゼリー1つに、グミ1欠片、栄養ドリンク3本に、ガム1枚だ。

 しかも、その中のガムは、別にお腹が膨れる訳じゃない。美味しいだけだ。


 そして、気づいたことが一つ。

 どうやら、かなり眼がよくなっているらしい。

 街まで10キロ程度は離れているだろうが、何となく街の様子が分かる。

 あの姉ちゃんおっぱい大きいなぁ。とか、あ、じじいがラクダから落ちた。とかがわかる。


 元々俺は眼が悪く、自動車免許の更新の際受付の爺さんに「葉山さん、もうそろそろメガネが必要ですね~。まぁ、今回はぎりぎり良しとしときましょう。」と少し偉そうに言われるレベルだ。


 てか、ぎりぎり良しとしときましょうって、なにお前の裁量で決めてんだよ。掛けるよ、メガネぐらい。道路の平和を案じろよ。


 現世に帰ったら見返してやろう。


 「さて、行くか……。」


 そう呟き、背中に翼の生えた背広男は、街へと飛び立ったのであった。


___


 街の入り口に着くと、そこには『リダ』と書かれた看板があった。

 おそらく街の名前だろう。

 

 早速中に入ろうと思ったが、念のために翼はしまっておいた方がいいだろう。


 でもどうやって?

 あれか?逆に「人間に戻りたい」と思えばいいのかな?


 俺は「翼よ戻れー」と心の中で念じたら、翼が皮膚の中にぐにゅっと折りたたまれるように入って行った。

 

 「うぅ…。この感触は少し気持ち悪いな。」

 

 しかし、翼を生やしたままだと、良くて変人扱い、悪くて珍獣として捕まる危険性があるかもしれないしな。

 遠目で見た限り、人間は居るようだが、何しろ全く知らない街だ。

 言葉が通じるのかも怪しい。


 恐る恐る中に入ると、こちらから声をかけるまでもなく、色々な人に話しかけられた。


 褐色の人間が多かったが、人間以外にも、獣の顔をした種族(獣人と言うのだろうか)や背中に羽を生やした種族もいた。


 取りあえず、相手の言葉は聞き取れたし、こちらの話す言葉も通じているようだったので安心した。


 話しかけられた理由は、主に俺の格好についてだ。

 確かにスーツを着ている奴は一人もいないし、ネクタイなんかをしている奴も当然いなかった。かなり異質な格好だったのだろう。


 コミュ障の俺である。普段ならおどおどキョロキョロしてしまうところだが、「ほろ酔い」の極意を持っているお陰か、すんなり街の人と仲良くなることができ、スムーズに情報収集を行うことができた。


 いいね、このスキル。

 元の世界に戻ったら、友達100人できるかな?


 情報を整理すると。


 街の名前は、『リダ』。


 砂漠化の進行から、近年3つの街が統合してできた街で、その名残もあって1番街、2番街、3番街と名称がつけられており、それぞれで雰囲気は大きく異なっているそうだ。


 人口は20万人程度。

 20万というと、旭川程度だ。この世界がどれだけの大きさで、この街がそれと比べどの程度の大きさなのかはまだ分からないが、暮らしていくには十分の大きさだと思う。


 種族は人族が主だが、背中に翼をもつ鳥人。獣の特性を持つ獣人といった種族が住んでいる。 

 また、人族が主であるからと言って、種族間には差別はない。

 差別されそうと思っていた鳥人や獣人は、逆に人にない特性を持っているため高位の職業についているものが多いらしい。


 余談だが、獣人にはキリンの顔をした者もいるそうだ。

 俺は大のキリン好きなので、会ったら是非友達になりたいものだ。


 街の人の服装は、ターバンを頭に巻き、バンダナで口を隠しているものが多い。

 砂漠という土地柄からであろうか、テレビでしか見たことはないが、街はエジプトの雰囲気によく似ていた。


 それとこの街に召喚士というものはいるかどうか尋ねたが、街に定住している召喚士はいないとのことだった。

 そもそも、召喚士は魔術師を極めたものでしか辿り着けないといわれており、数は世界に10人いるかいないかと言われているらしい。

 それに、自身が召喚士であることは隠すことが普通であり、大きな特徴もなく探し出すことは難しいとのことだった。


 特徴か……。


 俺が覚えていることと言ったら、召喚される際に聞こえてきた声だけだ。

 いい声だった。録音して、起きたとき・朝・昼・晩・寝るとき、毎日聞きたい声だった。

 でも、そんな記憶は、悲しいかなすぐに消し飛んでしまうだろう。


 というか、いっそ向こうから探してくれないだろうか。

 この世界に俺を召喚したんだ。


 俺が必要だったんじゃないのか?

 そもそもなぜ俺は砂漠にいたんだ?

 失敗したのか?

 召喚士はそのことを知っているのか?


 うーん……。

 わからんが、やはりだめもとで探してみるしかないな。

 召喚士を探すためにも、まずは偉大な魔術師を探してみよう。うん、そうしよう。


 「もし、召喚士を探しているなら、魔法都市マジックフォレストに行ってみるといい。あそこなら手掛かりくらいは見つかるだろう。」


 親切な男は最後にそう言っていた。


 まっ、呼び出した奴に意地でも会わなきゃいけないってわけでもないんだが、なんにせよ人生に目的は必要だ。


 『ぐぅううううううう……。』


 取りあえず腹が減ったな。泊まる場所も探さないと野宿決定だ。

 しかし、金がない。まずは金をなんとかしなくてはいかん。


 さっき色々教えてくれた奴が、金がなければ、魔物を倒して『商館』に行けと言っていたな。

 なんでも商館には鑑定士とやらがいるから、何か高そうなもの拾ったらそこで見てもらえって……。

 

 魔物…。

 やっぱりそういうのがいるのね。

 空を飛んでまっすぐこの街に飛んできて正解だったな。あのまま野宿して、大サソリみたいなのに襲われでもしたらと思うとゾッとした。


 はぁ…。


 俺は、ポケットを弄って、板状のブルーベリーガムを取り出した。

 

 「これ、いったいいくらで売れるかな…。」

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