砂漠のど真ん中で、弁当を食べる
ある日 声が聞こえたんだ。
「ねえねえ、こっちに来ないかい?」って。
俺は、「うん。」っていうと、気付けば見たこともない世界にいた。
あ、これ、外国とかそういうのじゃない。
きっとあれだ、今流行りの異世界ってやつだ。
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俺の名前は【葉山 水希】、年齢は31歳、男、独身で彼女はいない。
仕事は公務員をしており、先月係長に昇進したばかりである。
今日は、残業もなく、「さて帰ってワラワラ動画でも見るか。」と、コンビニで甘いヨーグルトっぽい味をした缶酎ハイと『竜が火を噴く旨さ!』と書かれた胡散臭いカルビ弁当と、食後のミックスゼリーと一口グミと明日のために栄養ドリンクを3本買い、意気揚々と家のカギを開けようとしたその時のことだった。
突如聞こえた謎の声に不意に反応してしまい、俺は異世界に召喚されてしまった。
「なぜ、こんなことに……。」
「こっちにこない?」と聞こえたその声が、なんか凄く可愛い女の人の声っぽかったので、つい嬉しくなって「うん。」と答えてしまった。
やられた…。と思ったが、こればっかりは仕方がない。俺は 声フェチなんだ。
気を取り直して、周りを見渡してみる。
砂漠だ…。
なんてこった。これはひでえ。
召喚する人も、せめてもっと楽しくなるような場所にしてほしかった。
東、西、南、北、全部砂漠だ。砂、すな、スナ。
その中で、スーツ姿でコンビニ袋をぶら下げている俺一人。
…。
………。
っざざざ……。
ざざざ……。
砂が目に入って痛い。
「おいいぃいぃいぃいぃ!!!!!」
「普通異世界に来たら、特殊能力とかスゲーのが身について、その世界の頂点に立って、可愛い子に好かれてとか!なんか色々あるじゃん!」
「俺、今めっちゃ普通の人間なんですけどーーーーーー!!!」
「どーーーー!!」
「どーーー!」
「どーー…」
俺の美声が砂漠に消えていく。
俺は、やけくそになって、取りあえず、今一番貴重だと思われる、コンビニで買った甘いヨーグルトっぽい味をした缶酎ハイを一気飲みした。
ゴクゴク……。
「ぷはーーーー!!!」
さらに頭にきたことから、『竜が火を噴く旨さ!』と書かれた胡散臭いカルビ弁当も同時に食い尽くした。
「まぁ、人間いつか死ぬんだし!砂漠で死ぬのも悪くねえか!」
と一人、息をまいた。
その時、どこからか声が聞こえた。
『スキル:【竜人化】を取得しました』
『スキル:【焼き尽くす息】を取得しました』
『スキル:【ほろよい】の極意を取得しました』
ん? あれ? もしかして、今食った物が原因?