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春
私は春が嫌いだ
暖かくなって 桜が咲いて
新しい年が始まる そんな季節
人は春を待ち望む
まるで希望を春に見出だしているかのように
私には解らない
どうして他人は そんなに待ち望むのか
どうして他人は この重みを感じないのか
新しく始まるということは
また一つ 足枷が増えることだ
その重みを 確かに感じているのに
平気なふりをして ひきつった笑顔を張り付ける
それよりも 私は冬がいい
暗く冷たい夜なら 私がここに居ることを解らせてくれるから
陰鬱な暗闇の中なら 浮かび上がれない私の心が
他人に覗かれることもないから
春は 心を無防備にさせる
いくら心を沈めても
見つけ出そうとする他人が居る
だから私は 春が嫌いだ




