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傷跡
リストカットの詩
血はきれいだ
私はいつもそう思う
手首から伝う赤い雫が
まるで宝石みたいに光を反射している
なんど隠されても
そのたびに私はカッターを買い直す
手首に刃を当てて引く瞬間は
まるでキスするように甘くて
私の心を溶かしてくれる
私は手首を切る
痛みを感じたいから
その痛みが
生きていることを実感させてくれるから
その痛みが
真っ暗闇な深い海の底に沈んだ私の心を 掬い上げてくれるから
その痛みが
ずっと張り詰めたままでいる私の心の風船に
ぷつん と小さな穴を開けてくれるから
その痛みが
私の心に巣食う
抗えないほど強い死への誘惑を 断ち切ってくれそうだから
私は今日も手首を切る
それは
今日という日を辛うじて生き残った私への贈り物
明日も続く
永遠に続く「明日」という重圧を
ほんの刹那の間 忘れるために
この痛みと傷跡が
私を私でいさせてくれるのだ




