もしも私が悪魔なら
もしも私が悪魔なら
この心が痛むこともないのだろうか
もしも私が悪魔なら
陰鬱とした負の感情に苦しむこともないのだろうか
もしも私が悪魔なら
自分のせいで誰かを傷つけている事実を
気にしないでいられるのだろうか
もしも私が悪魔なら
世界は希望に満ちているよと言われても
その言葉をせせら笑い
その言葉の重みで押しつぶされそうになることもないのだろうか
もし私が悪魔なら
誰かが傷ついたりしても
それによって私自身も深く傷つくこともないのだろうか
そして
たとえ愛する人を喪ったとしても
その悲しみに苦しむことなく
その存在の大切さ
その存在の愛おしさ
その存在の温かさ
その存在の優しさ
そのすべてが私の心を満たしてくれていたことに気づき
もうその存在が私のそばに還ってくることは二度とないことに
心を引き裂かれることもないのだろうか
でも
もしも私が悪魔なら
愛する人と何気なく過ごす時間が
愛する家族と笑いあう時間が
あんなに素晴らしいものだったのかと 気づくことはないのかもしれない
もしも私が悪魔なら
我が子を愛し
その成長を喜ぶことも ないのかもしれない
陰鬱とした心の闇を晴らしてくれる光もまたあるのだということに
気づくことはないのかもしれない
眠れない夜に
だんだんと心が負の感情に覆いつくされて
私自身が見えなくなる
でもそんな時
ふと小さな小さな我が子の手が
きゅっと私の指を握り返してくる
そして愛する人が
心配そうに声をかけてくれる
その瞬間に感じる 温かなこの気持ちは
きっと 知らないままだったのだろう
彼らを喪いたくはないと
そう願う気持ちにも 気づくことはなかっただろう
もしも本当に私が悪魔だったなら
何度も何度も繰り返す悪夢にとらわれて
心が何も見えない漆黒に塗りつぶされる度に
同じ空想にふける私
その私を 現実に戻してくれるから
まだ私は生きていこうと思えるのだ




