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その後コータローはその一本一万円する注射を三本打ってもらい、この日の治療は終わった。「もし今晩を越して生きているようだったら、明日か明後日にでももう一度診せに来なさい」治療を終えた後で、獣医は例のぶっきらぼうな口調で僕たちに言った。ありがとうございました、と、僕と川田は心から頭を下げて礼をした。
病院を出て、僕と川田は学校に戻り、コータローを部室に戻した。本当なら川田か僕の家に連れて行ってやるべきだと思ったが、家族に事情を説明していない上に、コータローを電車に乗せて連れ帰るわけにもいかない。とりあえずこの日のところは、部室に置いていく他無かった。
「俺、コータローを家で飼っていいかどうか、親に聞いてみます」
コータローの入ったダンボール箱にエサを置きながら、川田が僕に言った。
「ああ、頼むよ」
僕は答えた。未だ、獣医が治療してくれたことへの感動に浸り、僕も川田もぼうっとして、ただ部室の隅にいるコータローを眺めていた。
と、その時だった。ダンボール箱に敷かれたタオルの上で横になっていたコータローがゆっくり立ち上がり、猫用缶詰のエサの匂いを嗅ぎ、食べはじめたのである。
「おー」
僕は間抜けな声をあげた。注射が効いたのだろう。川田は段ボール箱に近づき、コータローの背を撫でながら、
「よかったな、食べろ、もっと食べろ」
とうれしそうに言った。
*
しかし次の日の早朝、学校の授業が始まる前に部室に寄った僕は、部室の窓から注ぐ朝の光に照らされながら、冷たく、硬くなっているコータローを見つけた。やはり、手遅れだったのである。
僕は休み時間に川田のいる一年生の教室に向かい、彼にコータローが死んだことを伝えた。川田はそれを聞いて、「まじっすか」と言って固まり、しばらく言葉が継げなかった。
その日の昼休み、僕と川田は部室の裏の土の上にコータローを埋めてやった。穴ができて、そこに入れるためにコータローをダンボール箱から持ち上げると、その体はぐにゃりとはならずに、横たわった姿勢のまませんべいのように硬直して宙に浮いた。
川田はその姿を見ながら、黙りこくってショックを受けているようだった。
「最後に注射してもらって、ちょっとでもエサが食べれて、よかったんじゃないか」
僕は川田を励ました。すると川田は、
「そうっすね」
と答えて、今左目から流れた涙を拭った。




