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それからしばらく後のこと。僕と川田はボクシング部の部室に戻っていた。部室の床の片隅には、先ほど拾ってきた猫がいた。猫は、底に何枚かのタオルを敷いたダンボール箱の中に入っている。タオルもダンボール箱も、僕と川田が手分けして見つけてきたものだった。
僕と川田とが猫を拾ってきたことをどこからか聞いたボクシング部の部員が、ランニングを終えて練習場に行くまでの合間に、猫を見に部室へ集まって(集まって、とは言っても全員で数人しかいない部だったが)きた。どの部員も猫を物珍しそうに眺めている。そうして口々に、僕と川田に向かってこれからどうするんだとか、ずいぶん弱っているなとか、無責任に勝手なことを言うのだった。猫はそんな部員たちを無視して、ぐったりと横になって目をつむっていた。
これからどうするんだも何も、とりあえずはエサをやらなくてはいけないのは明白だった。そこで僕は自転車を飛ばして近所のドラッグストアへ行き、猫用缶詰と牛乳を買ってきた。この代金は、僕が出した。なんであんな猫のために僕が小遣いを遣わなければならないのか、全く納得がいかなかったが、僕の所属しているボクシング部には、後輩には先輩がおごってやる、という不文律があったので、川田に金を出させるわけにはいかなかった。
買い物を済ませた僕はやはりどこかから見つけてきた皿にエサを盛り、それを猫のいるダンボール箱の中に置いてやった。もう他の部員たちは練習場へ行ってしまい、部室には僕と川田しか残っていなかった。僕と川田は、猫がむしゃぶりつくだろうと期待したが、やはり猫はじっと黙って横になったままであった。
「食べないですね」
猫の様子を眺めていた川田が、心配そうに言った。
「食べないな」
僕が相槌を打った。
「コータロー、ほら、食べろ。エサだぞ。コータロー」
川田はそう言いながら猫の顔をなで、目を開けさせようとした。しかし猫は相変わらず無反応のままである。
「コータローって、お前、それなんなん」
「こいつの名前です。木村みたいにガリガリなんで」
「ああ」
川田が言う木村というのは、川田と同級生のボクシング部員であった。木村コウタロウという名前で(このコウタロウという下の名前の漢字は忘れてしまった)、身長が170センチほどありながら、なんと45キロ以下の階級に出ているのだった。確かにこの猫の、あばらが浮いている具合が、木村に似ていないこともなかった。
「まあいいや、とりあえず、もう練習に行くべ。ほうっておけばそのうちエサも食べるんじゃないか」
「そうですかね」
「そうだよ、ほら、行こう」
「はい」
というわけで、私と川田はコータローを置いて練習に向かった。




