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神の原罪 -そらかける幼女天使の物語-  作者: 幻想艇
Story3 天使の白い羽
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約束は転生と共に <Epilogue>

 逃げるひとりの妖精を鳥の魔物が追いかける。

 羽ばたくエルンは風向くままに木立を縫って飛んでいく。

 薙いで、くぐって、木陰に隠れて見つかっちゃったらまた逃げる。

 時は夕刻・クリスマスイヴ。混じりけなしの逢魔が時に魔物と彼女の鬼ごっこ。

 冷たい大気を切り裂いて彼女が目指すその先は、妖精の里ハーベスト。

 緑あふれる平和の園へ、逃げるひとりの妖精と、鳥の魔物が飛んでいく。


「イヴエル……」


 エルンが小さくそうつぶやくと澄んだ涙がきらきら散って、はためく髪は若葉色、お空にかかる満月の、静かな光に揺られてる。

 葉がさざめいて闇が染み出し猛獣はびこる夜の森には、狂気を孕んだ月明かり。

 洞窟内でのあの錯乱は夜風に吹かれて消え去った。

 だけど小さな問いかけは、無限の恐怖と錯乱と、絶望だけに満ちていた。


 彼女が見知らぬ異界からゲートをくぐって帰ってきた時、彼女は無理やり手を掴まれて彼女の母に囚われた。

 彼女は辺りを見回して天使の姿を探すけど、彼女の大事な友達の小さな姿は見当たらない。

 "彼女はきっと異界にいるはず"そう考えて母から逃げ出し門を開放しようとするけど、小さい妖精エルフの体では押しても引いても開かない。

 得意な精霊魔法すら聖絶内では役立たず。彼女の母は嘲笑わらっていわく、”ルシフェルさまを信じなさい。すぐに世界は生まれ変わるから”。

 既に聞く耳持たないシルフィア。エルンは彼女を拒絶して洞窟外へと飛び去った。


 逃げたエルンに怒りを覚えて魔物に追わせてやろうと考え、不死鳥フェニックスたち呼び出して辺りに放った馬鹿なシルフィア。

 妖精エルフの愛した豊かな自然は、みるみるうちに燃えていく。まるでかつての再来のように。

 エルンは不死鳥から逃げて、そして決して見逃さないように目を凝らす。

 たった一枚の、天使の白い羽でさえも。




---




「イヴエル……いま、あなたはきっとどこかで、自由に空をかけてるんだよね」


 私の虚ろな声が、森の静謐な空気によく響く。


「ほら、私の翅、触りたかったんでしょ? いくらでも触っていいから――」


 頬にひとすじの涙が伝う。

 わかってる。私が、私が彼女を殺してしまったんだ。

 私が捕まったから、イヴエルはきっと、私の代わりに……


 いや、昔、彼女が語ってくれた。

 一度死んだとしても、またいつか生まれ変わることができるのだと。

 それなら、まだ望みは絶たれていない。


「――お願い、もう一度だけ、私に笑顔を見せて」


 私は反転し、向き直る。

 真後ろにはイヴエルと約束した時にふたりで植えた、リーン草の花。

 いずれにせよ、ここを燃やされるわけにはいかない。

 絶対に、他の誰かには指一本触れさせたくない。

 それは私とイヴエルがまだ友達である証なのだから。




 青く燃える不死鳥が迫ってくる。

 すべてを焼きつくす永遠の炎が、すぐそこにある。

 なのに、私は全然怖くなかった。

 かつては、みんなの死を願ってしまったけど、今は。


「私が死んだ後もきっと、みんなが幸せに過ごせますように」


 自然と、そう口にすることができた。


 さあ、もうすぐイヴエルと会える。

 私は空を見上げてその時を待つ。

 夜だけど、雲ひとつ無い晴れ空。

 彼女と一緒に飛ぶには最高の天気。

 そして一枚の白い、羽……?


 あるいは幻想だったのかもしれない。

 それでも、私は振り返らずにはいられなかった。




 ――約束は転生と共に結ばれる




---




 ――約束する


 そこには、ふたつの白い花が、互いを支え合うように生えている。


 ――もし、あなたが助けを求めるのなら


 白い花の上に、白く輝く羽が舞い落ちた。


 ――私は、必ず助けに行く


 大きくて真っ白な翼、輝く光輪。


 ――うん。約束だよ、イヴエル!


 そして、天使は舞い降りた。




「お待たせ、エルン!」




                End

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