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神の原罪 -そらかける幼女天使の物語-  作者: 幻想艇
Story3 天使の白い羽
30/31

神の原罪

 ガブリエルの聖骸を胸に抱いて、優しく頭を撫でる。

 安心して。わたしはこの感触を、あなたのすべてを、永久に忘れないから。


 ……彼女の髪を触っていると、こつんと何かに手が当たる。

 この形は、さくらんぼ?

 確か、わたしとお揃いの髪飾り。

 頭の中で声が聞こえる。


 ――それを食べて。


 原罪の声。食べてって言われても、これはガブリエルの遺品だからあんまり食べたくない。

 躊躇していると、男の声が耳に入る。あの知らない男の声だ。


「両方死んだのか? ま、自殺なら仕方ないな。俺は悪くないですよーっと」


 心の片隅に押し込めていた怒りが、再び燃え上がる。

 自分たちは仲間を殺されて怒るのに、敵が死ぬとそういう態度を取るの?

 思えば、こいつらに目を潰されたせいでガブリエルの最後のお願いを叶えてあげられなかった。

 あの時、わたしは真っ黒な視界で、失明した目でガブリエルを見つめることしかできなかった。

 最悪だ。何もしてくれない神さまの代わりに、わたしがこいつらに天罰を下してやろうか。


 ――なら、実を早く食べて。


 荒れ狂う激情が、わたしを原罪の言葉に従わせる。

 わたしはガブリエルの髪飾り、赤い木の実を取って、噛まずに飲み込む。

 そしてその瞬間、ガブリエルのささやき声が聞こえた気がした。


 ――少しだけ、力を貸してあげます。


 幻聴? わたしには判断がつかない。頭が狂ってるかもしれないから。

 今度は原罪が言う。


 ――さあ、一刻も早くこんなところ出て行こう? わたしも力を貸してあげるから。


 あ、そうだね。ここでわたしも死んだら、天国のガブリエルもきっと悲しむ。

 どうにもならなくても足掻かなきゃ。それがわたしに残された、最後の仕事だから。

 わたしはガブリエルの聖骸をもう一度抱きしめて、それからそっと地面に横たえる。

 男の動揺する声が近くで聞こえた。牢の扉が閉じられる音はまだ聞こえない。


「うおっ!? まだ生きてんのか……ゾンビかよ」


 その瞬間、全力で駆け出す。力は全然出ないけれど、一生懸命に走る。でも全然足りない。

 案の定、男に押さえ込まれる。彼は心底面倒くさそうに言う。


「もう今から飛んでも遅せーよ。ルシフェル様が神に至る方が早い。諦め……」


 邪魔、どいて。わたしは彼の顔に突き立てる――天使の血の付いた、銀のナイフを。

 纏わりついてくる赤い血が、わたしの手を染める。ナイフは皮膚を切り裂いて、その中身を穿うがつ。意思を持った状態での初めての人殺し。でも、不思議と罪悪感は無かった。

 抵抗しようとしているのか、彼の手がわたしの首を掴み、絞め殺そうとしてくる。悲鳴は上げさせない。わたしはナイフで彼の顔を抉り続ける。目を、鼻を、口を。首を絞めてくる力が強くなる。無視して、深く、力強く抉り続ける。わたしの腕が真っ赤になる頃、彼はもう動かなくなっていた。

 そのまま彼は閉じかけの鉄扉と共に外へと倒れ込む。錆びついた金属の鳴る音がして、人体が地面に衝突する鈍い音が廊下に響くと、血液が辺り一面に跳ね飛んだ。

 天使としての力が、失われていた視界が、牢の外に脱出したことによって元に戻る。

 それでも――今そこに横たわっているヒトが生前言ったように、わたしの翼ではルシフェルに追いつけない。

 牢獄を飛翔しながら、わたしは頭の中で頼み事をする。

 お願い、ガブリエル。少しだけ力を貸して。


 ――もちろん。というか、好きに使ってくれていいんですよ?


 そんな言葉が返ってきた気がした。

 ありがとう、ガブリエル。

 紫色の門を潜り、暗い視界の中、わたしは唱える。彼女がよく使っていた魔法の名を。


零時間移動テレポーテーション!」


 大海溝の底のように暗い景色が後景に退き、無機質で美しいヘヴンが目前に現れる。

 上空では一羽の青い鳥が羽ばたき、楽しそうにさえずっている。

 まだ、世界は滅びていなかった。




---




 ――ルシフェルはまだ来てないみたいだね。


 原罪の声。確かにまだ来ていないけど、ガブリエル無しでヘヴンを守りきれる自信は無い。

 相手はわたしよりずっと長く生きた天使なのだから。


 ――なら、代わりにわたしが守ろうか?


 確かにあなたに頼るしかない……けど、そしたらもうずっと、あなたがわたしの体を使うってこと?

 そうしないとルシフェルからヘヴンを防衛し続けることはできないし。


 ――何言ってるの。ガブリエルからもらった力があるじゃない。


 時間を司る力? それを使って、どうすればいいの?


 ――はあ。やっぱりあんまり頭良くないよね。わたしだから当然だけど。


 ばかにしないでよ。そんなこと言ってる暇は無いでしょ? 早く教えて。


 ――過去を変えればいい。


 過去を? でも、そうしたら"今"のわたしが居なくなって、ルシフェルが神になっちゃうんじゃないの?


 ――そのために、わたしがヘヴンを守る。そしてあなたの魂だけを過去に送ればいい。


 そんなことができるの?


 ――できるよ。あなたはガブリエルの魂の欠片を、その身に受け継いでるんだから。


 ガブリエルの欠片……。わかった、やってみる。


 わたしは静かに呟く。


時間飛翔タイムリープ


 いつか見たのと同様に、景色が引き伸ばされていく。

 後は宜しくね、原罪ちゃん。




     ☆




 ……?

 ここはどこだろう。

 というか、いつだろう。

 時間を跳んだなら、"今"はあれからどのくらい遡った時なんだろう。

 疑問に思いながら目を開く。

 久しぶりに見る太陽は眩しくて、その下には植物の萌芽ほうが、小鳥の卵、妖精たちの翅の輝ける鱗粉――太陽は命あふれる大地に、優しいまなざしを送っている。


 この風景には見覚えがある。

 今は……妖精の里を救って一週間後の、エルンと約束した日。

 どうやら、その日のイヴエルわたしの体に憑依してしまったらしい。

 確か、あの時は気を引くためにわざと岩に頭をぶつけたんだっけ。

 それで、エルンに憐れむような視線を向けられて……


「はぁー。思い出したくない」


 わたしはため息を吐きながら、体を起こす。

 すると目の前にエルンがいた。


「……あの、大丈夫ですか?」


 がーん。敬語。悲しい。

 でもそんなのどうでもいい。わたしは彼女に抱きつく。


「わーい、ほんもののエルンだー♪」


 腕を彼女の背中に回して、頬をすりすりする。わたしの翼で、彼女を包み込む。ついでに翅も触る。さわさわ……くんくん。ああ、いい匂い!

 わたし今、最高に幸せ!


「なにがなんだかわかりませんが、すごく幸せそうな笑顔ですね……あなたがもう少し慎みと常識を知ってくれれば、私も笑顔になれるんですけど」


 はうっ。わたしは慌てて彼女から離れる。そして全力で土下座して謝る。


「ごめんなさい、ごめんなさい! いつもの癖でついやっちゃいました、許してください……」


 エルンが慌てて言う。


「いや、そこまで嫌だったわけじゃないので……」


 なるほど。わたしは首を傾け、人差し指を自分の頬に当てて、問いかける。


「じゃあ抱きしめていい?」


 ちなみにわたしは上目遣いです。


「だめです」


 えー、だめなの? それなら作戦B……


「膝枕ならいい?」


 エルンは一瞬迷ったそぶりを見せて、それからほんのり頬を染めて答える。


「……私がするほうならいいですよ。逆は恥ずかしいので」


 エルンは草原に女の子座りして、膝をぽんぽんと叩く。

 やった♪ わたしはがっつぽーずして、彼女の膝に仰向けに飛び込む。

 温かい。温度だけじゃない、彼女の心が、冷えきったわたしの心を溶かしていく。

 気づくと、頬に温かい感触が伝っていた。

 あれ……どうして、わたし泣いてるんだろう?

 エルンはわたしの髪をそっと、優しくなでてくれる。


 ――もう、我慢できなかった。

 わたしは声を上げて、子供みたいに泣きじゃくる。エルンが未来で捕まってしまうこと、牢獄でのこと、ガブリエルのこと……すべてを吐き出して、わたしは泣き続ける。

 やがて心にあるものすべてをエルンに知られてしまうまで。

 わたしは叫ぶ。


「どうして、どうして神さまはこんな……みんなが傷つけあう世界を創ったの!? わたしはもう、誰も傷つけたくないのに! 目の前で誰かが傷つくのも、もう見たくないのに!」


 エルンはわたしの声を拒絶しようとはせず、小鳥のさえずるような心地良い音色で、言葉を紡ぐ。


「うーん……目の前が傷ついてる誰かがいたら、助けてあげればいいんじゃないかな。私たちには、結局そうすることしかできないわけだし。できる限り、傷つく誰かを減らしていけばいつか……」


 わたしは彼女に訴える。


「それじゃだめなの! わたしは天使だから、この世界でひとりでも不幸な誰かがいれば、放っておくわけにはいかない! でも、誰が不幸で、誰が幸福で、どうやって助ければいいのか、その時にその誰かを傷つけた誰かをやっつけるのは、悪いことなのか、良いことなのか、わたしにはもう分からない!」


 すると涙で曇った視界の中、エルンはきょとんとした顔で――


「それなら、いっそイヴエルが神さまになっちゃえば?」


 昨日の天気を聞くような気軽さでそう言った。

 わたしが神さまになる?

 そんなのありえないし、ルシフェルと同じになっちゃうよ。

 そう思って、激情を一時忘れて困惑していると、エルンは続けて言う。


「私は、イヴエルが神さまになってくれたら良いと思うけどね。強いし、優しいし――ちょっと子供っぽすぎるかもしれないけど、イヴエルが神さまになってくれたら、楽しい世界になりそうだから」


 無理だよ。わたしは世界のすべてを背負う自信なんてないし、頭も良くないし……

 神さまのうつわがあるとは到底思えない。

 でも、エルンだけの神さまになら、なってもいいんじゃないかな、とは思う。

 毎日エルンを好きにする権利……なんだか素敵な響き。

 もしそうなったら、あんなことや、こんなこと……


「……泣き疲れたのかな。幸せそうな顔して寝てる。おやすみなさい、イヴエル」


「むにゃ……えるん、はねさわらせてー!」


「えっ……」




---




 幸せな夢の後、気がつくと大理石っぽいベッドの上にいた。

 この感触には覚えがある。ここは……ヘヴン?

 耳元ですすり泣く声が聞こえる。


「お願い、目を覚まして……私を置いていかないで……!」


 ガブリエルの声だ! わたしは飛び跳ねるように起きる。

 ガブリエルはびっくりしたような顔をして、それから恥ずかしそうに目を伏せた。

 わたしは慈愛の心を込めて言う。


「ちょっとくらい、甘えてくれてもいいんだよ?」


 するとなぜかガブリエルは絶句して、頭を抱えてしまった。あ、耳が真っ赤になってる。

 そんなに恥ずかしいことかなあ……


 まあ、そこで悶絶してるガブリエルは置いといて、状況を整理してみる。

 多分、今はガブリエルと一緒に飛んでわたしが"時間酔い"をした頃。エルンと出会うより前の時間だね。

 それで、時間酔いで気絶したわたしの昔の魂の代わりに、わたしが憑依したということだと思う。

 再会を惜しんでる時間はあんまりなさそう。

 わたしは単刀直入に言う。


「ガブリエル。わたしは未来から来たの」


 時間を支配しているガブリエルなら、わかってくれるはず。

 案の定、彼女は(なぜか遠くにいるけど)理解したようなそぶりを見せる。


「そうですか……ってことはあれですね」


 どうしたの、ガブリエル。あれって何。もったいぶってないで教えてよ。

 わたしは催促するような目で彼女を見る。

 彼女はわたしをじーっと見て、呟く。


「そうですね……記憶をのぞかせてください。話はそれからです」


 わかった。いいよ。ガブリエルにならぜんぶ見られてもいい。文字通りわたしのすべてを。

 ガブリエルと目が合って、何もかも知られるぞくぞくした快感が――


「終わりましたよ」


 そう。やっぱり早いね。

 わたしはガブリエルに明るく問いかける。


「どう? 感動した?」


 ガブリエルはわたしの声色と真逆に、落ち着いた静かな感じの声で言う。


「……イヴエル。あなたも辛かったんですね」


 けれどわたしはウインクして言う。


「ガブリエルはやさしいねっ☆」


 それを見て、ガブリエルはなんとも言えない表情を浮かべる。

 でもこの際細かいことは気にしないことにしたらしく、いろいろと話し始める。


「……大丈夫そうですね。では結論から言いましょう。あなたが牢獄で食べた木の実には私の魂のコピーが入っています。それも、善か悪のどちらかに偏った魂が。これが原因であなたは時を司る能力の一部を身につけたのでしょう。これは間違いなく――神さまの創り出した『知恵の実』によるものです。あれには善と悪に分けて魂をコピーする力がありますから」


 ふーん……確か、ユーラス大陸で読んだ本にそんなこと書かれてたような。

 わたしは続きを促す。

 するとガブリエルは胸のあたりから何かを取り出す。

 赤い、さくらんぼのような木の実。ずっと髪飾りだと思っていた、ふたつでひと組の木の実。


「これが知恵の実です。本来、この実はありとあらゆる知恵を与える木の実です。しかし、ひとつの魂の善の部分を片方に、そして悪の部分をもう片方にコピーする力も持っているのです。もちろん、既に生命の木の実を食べたあなたがこれを全部食べてしまえば、神さまになってしまうでしょうけど。ただ誰かの魂をコピーして、実を身につけていればとても役に立つものです」


 わたしは首を傾げて質問する。


「何の役に立つの?」


 ガブリエルは説明する。


「そうですね……たとえば、頭の中で助言をしてくれたり、代わりに体を操ってくれたり、食べるとその力の一部を得ることができたり……ですね」


 へー、そうなんだ。

 ……あれ? 助言したり、体を操ったり?

 ガブリエルはわたしの考えを見通しているかのように話す。


「その通りです。あなたに度々語りかけてきた"神の原罪"なる存在は、恐らく、何者かの魂のコピーです」


 そういえば。わたしはずっと髪飾りとして赤い木の実――知恵の実を身につけてた。まあ、今はわたしもガブリエルも身につけてないけど。

 ……誰かの魂がその中にコピーされていたとしたら、一体誰の魂が入っていたんだろう?

 その答えを聞きたかったけど、ガブリエルは言葉を濁す。


「私の予想だと……いえ、直に分かるでしょう」


 そしてガブリエルは知恵の実をふたつに分ける。ちょうどさくらんぼをひとつずつ分け合うように。

 わたしはその片方を受け取る。ガブリエルは微笑んで、もう片方の実を左耳の上につける。

 気づいて、わたしも知恵の実をつける。

 わたしは笑って言う。


「おそろいだね、ガブリエル」


 ガブリエルも笑って言う。


「そうですね。おそろいです」


 ひとしきり笑いあった後、わたしたちにも別れがやってくる。


「そろそろ、時間でしょう。あなたの古い魂が目を覚まします」


 そうだね、ガブリエル。でも、その前にひとつだけ聞きたいことがあった。


「ねえ、ガブリエル? わたしが神さまになるの、いけないことだと思う?」


 ガブリエルは、意外なことに一切迷わず言い切る。


「いいえ、そうは思いません。あなたは優しい天使ですから、きっと良い神さまになれますよ」


 わたしは少し嬉しくなって言う。


「ほんと? じゃあ、わたしが神さまになったらガブリエルにはいっぱいお菓子あげるね!」


 ガブリエルは微妙に嬉しそうな顔で言う。


「ありがとうございます。甘いものは割と好きなので……」


 その言葉を聞き終える前に、意識が遠のいていく。もう終わりかあ。

 ばいばい、ガブリエル。またいつか会おうね。

 わたしは最後に、わたしにできる最高の笑顔で彼女に笑いかける。

 そして時間を飛翔する――今こそが、悪い夢から覚める時で、そして空夢の終わる時なのだと信じて。


「……イヴエル。"原罪"の象徴、"イヴ"。"神の"という意味の"エル"。それで"神の原罪(イヴエル)"ですか。きっと彼女が持つ知恵の実の魂は、この名を自分自身につけたのでしょう。その実は善か、それとも悪か。ええ、これもまた、運命なのかもしれませんね、神さま」




---




 ――おかえり。


 原罪ちゃんの声が聞こえる。

 元の時間に帰ってきたんだ。


 ――それで、過去は変えられた? ま、過去を変えたところでわたしはここで戦い続けなきゃいけないんだけど。


 いや、多分変わってないと思う。特に何もしてないから。


 ――もう。しっかりしてよ。


 でも、覚悟は決めたよ。


 ――そう。じゃあ、ここで終わりにするのね。


 うん。


 わたしはヘヴンを見渡す。美しい園。高いところにあって、空気がきれいでとってもおいしい。

 わたしは空を見下ろす。青く、澄み渡る空。真下には遥か雄大な海。

 この向こうには、すごく大きな山があって、さらにその向こうにはいたずら好きな妖精たちが、一生懸命に生きる人たちが、世界を彩る植物が、広大な野原を駆けまわる動物たちがいる。

 鳥は喜びを歌いながら舞い、魚は川や海を自由に泳ぎまわり、虫は植物の蜜を吸って生きていく。

 竜は気ままに天空を駆け、精霊は風を吹かせ、火を燃やし、土を耕し、水をかき混ぜる。

 そして――天使は彼らを祝福する。

 この世界に生きるすべての者たちが、太陽と大地の恵みの中で、今日一日を時に辛く、時に楽しく過ごしている。

 それぞれの、最高の瞬間を探して。

 わたしは彼らを祝福する。

 天使イヴエルの名において。


 ――そして、天使ガブリエルの名において。


 ごめんなさい、神さま。わたしは今からあなたに反逆します。


 ――古い時代が終わり、新しい時代が始まる。


 でも、イヴがエデンで知恵の実を食べた時、神さまはそれを見ているだけ。


 ――原罪を背負ったのは人か、それとも全知全能でありながらそれを止めなかった神さまか。


 もしかすると、人だけじゃなくて、天使も、そして神さまも原罪を負っているのかもしれない。


 ――この世界を創った神さまは、わたしたちを見ているだけ。


 そこでどんな苦しみや、不幸が起きていたとしても。


 ――それこそが、神さまの罪、神の原罪。




 ルシフェルの気配を感じる。そろそろかと思ってたけど、もう来たんだ。

 ごめんね、ルシフェル。あなたの願いは叶えてあげられない。


 ――でも、悪いようにはしないよ。


 あなたの本当の願いは、叶えてあげるから。


 ――善も悪も、全部わたしが決める。もう迷う必要なんかない。わたしは世界そのものなのだから。


 さあ、木の実を食べよう。最後の食事かも知れないから、おいしく食べなきゃね。


 ――どう? おいしい?


 うん、おいしい。とっても甘くて、やさしい味がする。ところで、あなたはどうなるの?


 ――わたしは、あなたの一部に戻るだけ。


 わかった。今まで本当にありがとう。


 ――それじゃ、ばいばい。あとは頑張ってね。神さま。

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