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その他小説

逃げた先には空色歌姫

作者: 八島えく

 涙目を隠しながら、リールは石畳の街道を駆け抜けていく。こうして、お気に入りの道を泣きながら走っていくのは、いつものことだ。

 昼下がりで人はまばら、太陽が明るく人々の心は自然と前向きになる…………リールは例外だが。

 またいつもの失敗だ。そそっかしくて鈍い、要領が悪いため、やることなすことすべてが遅い。今日の失敗は、学校での掃除だった。綺麗好きの部類に入るリールは、教室掃除をきっちりやっていた。のだが、花瓶を落としたりバケツをひっくり返したり、窓を拭こうとして枠から足を滑らせたりとさんざんだった。クラスメートたちは呆れて皆帰った。掃除が進まず、かえって教室が荒れたのをリールの責任にして、サボタージュを決め込んだらしかった。

 責任の自覚のあるリールは律儀に掃除を続けて、ようやく帰ることができた。その途中、クラスメートからも先生からも、盛大なため息を露骨に聞かせてもらった。足早にその場を去ったが、泣きたくなるのを止められなかった。


 自分がどうしようもなく鈍くてドジなのは自覚している。親からも諦められた。

 なんとか人並みになろうと彼女なりの努力はしたが、実を結ぶことがなかった。


 街道を駆け抜けて、リールは廃校となっている小さな学校に逃げ込む。誰も来ないしお化けもでない。リールのお気に入りの場所だ。


「わたし、いつも駄目だ」

 小さな教室に置かれた机はわずか三組しかない。そのひとつに突っ伏した。

「わたしなんていなくなればよかったのにね」

 ぎゅっと目を閉じて空想に更ける。リールの空想は、リールに優しい世界だ。ここなら、いくら失敗をしても大丈夫。


「いっそのこと、ここにずっといたら。誰も気づかないで静かに寝てたいな」


 誰に言うでもない独白に答えたのは、かすかに聞こえる歌だった。

 リールは机から顔を上げ、歌をたどっていく。

 廊下だとさらに歌が鮮明に響く。


 かつては音楽室だった教室で、女性が歌っていた。空色の髪が風に揺れる。

 ピアノはもう音を奏でることはない。その人は、ピアノを優しく撫でながら、透き通った声で歌う。



 ふいに、リールは立ち尽くしたまま、ぽろぽろと涙を落とした。さっきまで必死に押さえていたのに、今はそれすら気にならない。

 これほど慈愛に満ちた歌声を、聞いたことはなかった。その人の歌は、静かにリールの心に溶け込んでいく。

 さっきまでの嫌なことや、逃げ道のための空想も、全部忘れた。この歌を聞いて、リールは自分の心が優しくなった気がした。

 リールは、廃校をあとにする。


歌を聞くとたまに感動してグッと来ることがありますよね。たまに涙目になる私の涙腺のゆるいことゆるいこと(笑)

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