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ホラー短編 その1「迎え」

掲載日:2026/09/17

 その日は豪雨だった。買い物しようと思って玄関を開けた瞬間、とんぼ返りするレベルの。

 幸い、食料はレトルト食品の備蓄があるし、断水とか停電が起きているわけでもない。


 問題は、雨のせいかWiFiの電波が混んでいて、スマホで動画を見ようとしても上手く読み込めないことだ。

 これだから集合住宅は嫌なんだ。そりゃ、これだけ天気が悪い中、外に出るやつはガキか馬鹿の二択だ。


 こうなるともう、飯食って風呂入って、寝るしかない。俺はいつも通りロフトに上がって、かなり早めの時間に寝た。




 普段と寝るタイミングが違うせいか、俺は変な時間に目が覚めてしまった。

 枕元のスマホで時間を確認すると、まだ深夜の3時前だった。


 このまま二度寝すると午前中のバイトに遅刻しそうだし、漫画でも読んで朝まで時間を潰すか。


 俺は部屋の電気を付けようと、スマホのライトでベッド付近のリモコンを探し、スイッチを押した。

 反応しない。最近、電池を交換したばかりなのに。

 接触不良を疑った俺は電池を入れ直して、軽くリモコンを叩いてから再びスイッチを押す。

 うんともすんとも言わない。


 リモコンがダメだと分かれば、直接、壁掛けスイッチを押すためにベッドから離れた。

 その時、ふと、ロフトから窓に向かって伸びる物干し竿に視線が移動した。


 理由は自分でも分からない。洗濯物なんて、その時一つも干していなかったのに。



 最初は、目の錯覚かと思った。

 俺の脳みそが、暗闇の中にありもしないものを見出してしまっているのだと。


 でも、確かに「そいつ」はいた。


 人影が、物干し竿の上にちょこんと腰掛けて、こちらを見つめている。

 視線を感じる。泥棒?いや、玄関も窓もきちんと閉めているはず。


 それに、足場もないのに、どうやって物干し竿の上に人が座れるんだ。



 俺は一歩も動けなかった。頭の片隅で、これが蛇に睨まれた蛙の気持ちかと、冷静に思ったりした。



 どれくらいの時間が経っただろうか。突然、部屋の電気が付いた。

「そいつ」はもう、そこにはいなかった。俺の体は、冷や汗でびっしょりと濡れていた。




「って感じの、ちょっと怖い体験をこの前したんすよ。」


「えぇ~?それ本当?作り話じゃないの?」


「いやいやガチっすよ先輩!あ、らっしゃせー。」


 俺はバイト先のコンビニで、仕事の隙間に先輩と軽く雑談していた。

 お客さんが来てすぐ会話は打ち切られたが、あの日見たことは全て事実だ。


 あの一件以来、体のどこかが痛むとか、妙な気配を感じるとか、そういうことは一切なかった。

 俺の部屋が一時的に、霊の通り道でもなったのかと思って、納得することにした。まだ、引越しもしてないし。



 その日も、出勤してきた店長と入れ替わって、俺は帰路に着いた。

 バイト帰りのバスの中、俺は夕暮れに染まる街並みをぼんやりと眺める。

 窓から見える景色はいつもと何も変わらない。

 俺が生まれ育った、何の変哲もない街だ。



 だから、その異常に敏感に反応してしまった。



 あの人影が、街路樹の枝にちょこんと座り、俺のことを見つめていたから。

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