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【短編童話】顔のない少女【挿絵あり】

作者: 十土川三
掲載日:2026/03/16

挿絵(By みてみん)

 むかしむかし、あるところに顔のない少女がいました。


 少女は生まれたときから顔がなかったため、まわりの人たちは彼女を化け物だと言いました。


 化け物と呼ばれ、泣いていた少女にお母さんは言いました。


「あなたは化け物じゃない。あなたは可愛い女の子。世界で一番可愛い私の子」


 少女はお母さんの言葉に励まされ、自分を化け物だという人たちから距離を取るようになりました。


 お母さんの言葉を信じて自分は可愛い女の子だと言い聞かせるようになりました。


 けれども、鏡を見ても可愛い自分はいません。


 顔のない自分の姿だけが映っていました。


 そんな日々に嫌気が差した彼女はお母さんに言いました。


「お母さんは私を可愛いと言うけれど、鏡に映る私は可愛いとは思えないの」


 少女は自分を励ますために、お母さんが嘘をついたのだと言い、家を飛び出しました。


 走って走って走って、ただひたすらに前だけを見て走りました。


 胸のドクンドクンと言う音が聞こえ、少女は自分の心臓が飛び出すのではないかと心配になりました。


 しかし、お母さんに嘘をつかれたことと比べたら、なんてことのない些細なことでした。


 飛び出すならそうなってしまえ!


 私は可愛くなんてないのだから。


 すると自分の顔に冷たい何かが当たりました。


 少女は確かめるように手で触ります。


 それは冷たい涙でした。


 それが自分の流した涙であると少しして気づきました。


 どうして泣いているのだろう。


 私が可愛くないから?


 お母さんが嘘をついていたから?


 少女は自分が流した涙の理由がわからないまま、進みました。


 日が傾き気づけば森の入り口に立っていました。


 森のなかは危ないから入ってはいけない。


 少女はお母さんから言われた言葉を思い出しましたが、気にせず先へと進みました。


 風が吹けば、ガサガサと木の葉が笑っているように不気味な声が聞こえます。


 日はすっかり落ちてしまい、夜空の月明かりを遮るように木々は立ち並んでいました。


 行く当てもなく、少女は歩き続けます。


 すると何処かから、人の声が聞こえました。


「ここに来てはいけないよ」


「あなたはだあれ?」


「僕は森人。迷子を助けることが僕の仕事さ」


 少女は森を見回すが、森人と名乗った人の姿は見えません。


「どこにいるの?」


「ここにいるよ。けれど君が見つけられるとは限らない」


 そう言うと森人はクスクスと笑い始めました。


「さあ、早く家にお帰り。お母さんも君を心配しているはずだ」


「……いや! 帰りたくない」


 森人の言葉に少女は首を振りました。


「どうして帰りたくないの?」


「お母さんが嘘をついたから」


 少女は話しました。


 顔がないために化け物だと言われることを。


 お母さんが世界で一番可愛いと言ってくれたことを。


 そしてそれは嘘であるとお母さんに言ったことを。


「なるほどなるほど。それで君は泣いているのか」


 森人の言うとおり、少女は涙を流していました。


「でもね。君のお母さんが嘘をついていたと、どうして思うんだい?」


 森人は少女に質問しました。


「だって私は鏡で見た自分を可愛いとは思えないもの」


 少女は濡れた顔で話しました。


「なるほどなるほど。君はそう思ったんだ。でも、だからと言ってお母さんも同じ気持ちだったのかい?」


「どういうこと?」


 森人の質問に少女は首を傾げました。


「君とお母さんの見ている景色は別なんだ。同じものを見ても同じ気持ちになるとは限らない」


 森人は風を吹かせて少女の頬を撫でました。


「一つ質問するね。君の嫌いな食べ物はなんだい?」


「私の嫌いな食べ物はニンジン」


「なるほどなるほど。なら君のお母さんもニンジンは嫌いなのかい?」


 そう言われて少女は首を振ります。


「お母さんはニンジンを美味しいと言ってたよ」


「なら君とお母さんは同じものに対して違う気持ちを持っているんだね」


 そう言われて少女はハッと驚きました。


 森人が言うとおり、私とお母さんはニンジンに対して異なる気持ちを持っていました。


「自分と同じ人間なんてこの世にはいないよ。似ている人はいるかもしれない。けれど同じ人なんて一人もいない」


 森人はスラスラと少女に話します。


「君を世界で一番可愛いと言ったお母さんは本当にそう思ったから君に伝えたのさ」


「お母さんは、嘘をついてなかった」


 そう思った少女はまたポロポロと涙を流しました。


「君が涙を流すのは、自分を可愛いと思えないことでも、お母さんが嘘をついたと思ったことでもない」


 森人はもう一度、少女の頬を風で撫でました。


「お母さんが嘘をついたと口に出して言ってしまったからだ。それを聞いたお母さんはいったいどんな顔をしていただろう?」


 少女はお母さんの顔を思い出します。


 お母さんが嘘をついたと言ったとき、お母さんはとても悲しい顔をしていました。


 少女が涙を流したのはお母さんを悲しませてしまったからでした。


「お母さんに謝らなくちゃ」


 少女がそう言うと森人は嬉しそうに言います。


「そうだね。謝らないといけないね」


 森人は指をパチンッと鳴らすと、少女が通ってきた道に明かりが灯ります。


「明かりに沿って進みなさい。お母さんが待つ場所まで迷わず行けるよ」


「ありがとう。森人さん」


「どういたしまして。それと最後に一つだけ」


 森人は少女に言いました。


「君は自分を世界で一番可愛いとは思えないかもしれない。けれど、お母さんを悲しませてしまったと涙を流す君はとても素敵な心を持っているよ」


 そう言うと、森人の声は聞こえなくなりました。


「帰らなくちゃ」


 少女は明かりに沿って進みます。


「早く、もっと早く」


 グングン進むとやがて森のなかを抜けました。


 そしてそこにはお母さんが立っていました。


「お母さん!」


 お母さんは家を飛び出した少女を探して森の入り口まで来ていたのでした。


「怪我はしてない? どこか痛いところはない?」


 お母さんは少女が怪我をしていないか心配しました。


 しかし、少女は傷一つありません。


「お母さん。ごめんなさい。お母さんは嘘つきじゃなかった。私のせいでお母さんを悲しませてしまった」


 少女は涙をポロポロと流し、謝ります。


 そんな彼女をお母さんも抱きしめました。


「お母さんもあなたの気持ちに気づかなかった。自分を可愛いと思えないのはとても辛い。その気持ちに気づけてあげられなくてごめんね」


 お母さんも涙をポロポロと流します。


 二人はお互いに謝って、手を繋いで家に帰りました。


 夕食を食べ、お風呂に入り、歯を磨いた少女がベッドで眠ろうとします。


 そんな少女にお母さんは言いました。


「お母さんはあなたを世界で一番可愛いと思うの。あなたはそうは思えないけれど、そのことを忘れないで」


 コクリと笑顔で頷き、少女は眠りにつきました。


 次の日、少女を化け物と言った人たちが家に訪ねてきました。


「化け物と言ってごめんよ。俺たちが間違っていた」


 どうして急に謝ってきたのでしょうか。


 少女とお母さんは不思議に思うと、彼らは言いました。


「昨日の夜、声が聞こえたんだ」


 その声は彼らに対して怒って言いました。


「人の気持ちを傷つけるお前たちこそ化け物だ。化け物に家など必要ない」


 そう言うと、強い風が吹きました。


 風は家を取り壊し、瞬く間に全てを奪いました。


「化け物と言われた少女は居場所を失くし、悲しんで過ごしていたんだ。住む家を失った今のお前たちなら彼女の気持ちがわかるだろう」


 彼らは恐怖し、自らの過ちを認め、少女に謝りに来たのでした。


「顔がない君を怖がって化け物と言ってしまった。許してくれ」


 頭を下げる彼らに少女は言いました。


「顔がない私を怖がってしまうのも無理ないわ。私も私の顔を可愛いとは思えないもの」


 少女はそこまで言うと頬を膨らませて言いました。


「でも、化け物なんて言われると傷つくの。もうそんなふうには呼ばないって約束して」


「わかった。もう二度としないよ」


 彼らは少女と約束すると、帰っていきました。


 お母さんは不思議そうに首を傾げます。


「いったい何があったのかしらね」


「ふふ。そうだね」


 少女は朝の暖かい日差しに包まれながら、空に向かってニコリと笑って言いました。


「私の顔、素敵でしょ」


 彼女の言葉を受け取った風が森に向かって帰っていきました。




最後までお読みいただきありがとうございました。


これの教訓は「自分と他者の価値観の違いを尊重し、そのうえで自分の意見をしっかりと伝えることの大切さ」「謙虚でありつつも自分の意見をしっかりと口に出すこと」「自身を尊大でも卑屈でもなく、ありのままに見つめ自分の感じたことに嘘をつかずに正直に言うこと」


あくまで自分が執筆して感じたことではありますが、読む人によって価値観は違うと思います。


正解や間違いはありません。


お読み下さった方々、それぞれの感じたことが答えだと思います。


楽しんでいただければ幸いです。


ありがとうございました。

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