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扉は渡れど開かない

作者: 榎本 涼介

それでは皆々様、ごゆるりとお過ごしください。

「扉渡り」

高校生になってから僕はそれができるようになってしまった。

僕が自分の部屋の扉を開けば、別の場所に繋がる。

困っている誰かの元へと。


例えば昨日、扉を開けばエスカレーターから落ちそうなおばあさんの元へと繋がった。

すんでのところでおばあさんを受け止め、「ありがとう」とお礼を言われる。

困り感が解決すると僕の目の前には扉が出現する。

扉を開けば僕の部屋だ。


例えば一昨日、扉を開くと満員電車の中だった。

女子高生がものすごく嫌な顔をしている。

「この人痴漢です」

僕は大声をあげて助ける。

顔面にパンチを二発くらったが、名前も知らない女子高生からは「ありがとう」と言われた。

お礼を言われると悪い気分はしない。

困り感が解決すると僕の目の前には扉が出現する。

僕以外には扉は見えない。

ちなみに扉を開けなかったことはない。

一生帰れなくなるかもしれないからだ。

扉を開けば僕の部屋だ。


さて、今日はどんな場所に扉渡りするのだろうか。

手に力を入れ僕の部屋の扉を開く。

「……っ!?」

目の前には猫耳の少女、オークのような大きい男が二人。

これは、間違いなくファンタジーの世界だ。

今までの扉渡りでは現実離れしたところに渡ることはなかった。

僕は今、素直に興奮している。

って、そんな場合じゃない!

扉を渡ったということは困っている人が目の前にいるということ。

キッと前を睨む。

どう見ても猫耳の少女が襲われているではないか!


「おいおい、女性に対して二人ががりで乱暴なんてカッコ悪いじゃんか!」

僕は女性の前に立ち、両手を広げる。


「あぁん?なんだめーは!?」

オークの一人が棍棒をブンっと振るう。

え、ちょっと待っていきなり攻撃?

聞いてないって僕は普通の高校生、そんなことされても!

しかし棍棒は空を切る。

僕が滑ってこけたからだ。

あ、危ねぇ。


「し、失礼しましたぁぁぁ!!!」

僕は猫耳の女性を連れてスタコラと逃げた。

あんなん相手にできるわけねぇ!

痴漢とかいうレベルじゃないもん。


「はぁ、はぁ」

「あ、あの」

小さな声で少女が話しかける。

「助けてくれてありがとうおにいさん、お名前は?」

「いやぁ、もっとカッコよく助けられたらよかったんだけどね、僕はソラ。ミズシマソラっていうんだ」

「ソラ、ありがとう、私はカエデ」

「カエデちゃんかよろしくね」

「ソラ見たことのない服や格好だけど、どこの人?まさか、私誘拐されてる!?」

「ちょ、ちょっと待って、えーと、そう、ずっと遠くの東の国からきたんだ。そういうカエデちゃんは猫の耳みたいなのがついてるね?」

「私はネッコア族だから」

おお、ケモ耳少女、本物だ。


だけど、困ったことが一つ。

いつもなら困り感を解決すれば扉が出現するのだが、今回はカエデちゃんを助けたけど扉が出てこないぞ?

どーなってるんだ?

僕はカエデちゃんに聞いてみる。

「カエデちゃん、何か困っていることはないかい?」

「え!どーして私が困ってるってわかったの!?ソラすごい!」

「ふっふっふ〜。ひ・み・つ!」

僕は子供をあやすように答えた。


「私、さっきの人たちに大事なもの盗まれちゃって……。それで」

「ふむふむ」

それは非常にまずい。

困り感を解決しないと僕は部屋へ戻れない。

「もしかしてソラ、取り返してくれる?」

「マ、マカセテ」

そりゃこういう流れになるよなぁ。

全く僕の方が困ってしまっていた。


詳しく話を聞くと盗まれたものは輝石と呼ばれる手のひらサイズの宝石のようなものらしい。

「よし、じゃあ僕が二人の注意をひくから」

「ひくから?」

「カエデちゃんがあの二人の懐に飛び込んで盗み返すんだ」

「無理だよ!私死んじゃう!」

「でも僕じゃあいつらに勝てるわけが…」

みると、カエデちゃんは今にも泣きそうだった。

「私、あれがないと私……」

「わかった、わかったって、僕がなんとかしてあげるから」

「ほんと!?ソラ!ありがと!」

うっ、なんて純粋な瞳なんだ。

さて、困ったなぁ。


とは言っても帰れないのは困るし、何よりカエデちゃんを見捨てるわけにはいかなかった。

困ってる人は助ける。

それが僕の信条だ。


「やい、そこのオーク二人!」

「あぁ!?あぁ、さっきの逃げた腰抜けか。なんだよ」

「盗んだものを返してもらおうか」

「……はははっ!できるもんならやってみな」

見てろよ。

ここは異世界。

僕にも魔法の一つや二つ使えるんじゃないか?


ゲームの知識なら僕の右に出るものはそうそういなんだぜ。

もしもここが魔法やらなんやらが使える世界なら僕にだってできるはず。

一か八かだ。

僕は目を瞑り叫ぶ。


「スティール!」


ゆっくり、ゆっくり目を開けると、僕の手のひらは輝いている。

「て、てめぇ、魔法が使えたのか!?」

「ちくしょう、油断した、死ねぇ」

オーク二人が棍棒を僕に向かって振りかざす。

ヤべぇ。

体すくんで動けねぇ。

僕はさっきと同じように目を閉じた。

今度は死を覚悟して。



「ウインドブレス」



ブゥゥゥンとものすごい風が突き抜ける。

い、一体何が起こったんだ?

恐る恐る目を開けると、カエデちゃんが僕の手を握っている。

正確には僕の手の中にある輝石に触れている。

「ありがとうソラ、取り返してくれて。ネッコア族は輝石がないと魔法を使えないの」

「……もう、そういう大事なことは早く言ってくれよ」

「盗まれて動揺してそれどころじゃなかったもの。輝石はそばにいる人の魔力を増幅させるとても貴重なものなの。それであいつらも私から盗んだんだわ」

なるほど。

じゃあ近くにいた僕の魔力も増幅してたのか。

僕のうちなる力が目覚めたんじゃなくてちょっと残念。


「ソラ、うちにおいでよ。お礼がしたいの」

お?

これはフラグが立ったんじゃないか!?

と、ワクワクしていると、目の前に扉が出現する。

なんだよそっちのフラグかよ。

少し、いやかなり残念。


僕は一生分くら迷ったんじゃないかってほど迷ったが、

「悪い、いかなきゃいけないところがあるから、また今度ね」

「え、ちょっとソラ!どこいくのよ!?」

「いつかっきとまたどこかでね。もう盗まれるんじゃないぞ!」

僕は扉を渡った。

「……ほんとにありがと、ソラ」

そんな声が小さく聞こえた気がした。


僕は戻ってきた。

僕の部屋へと。

いつもの僕の部屋だ。

と、階段の音がする。

母さんだ。

僕の部屋は二階にある。

ずっと住んでるから階段を登る音で誰が来るのかわかるようになった。


「……ソラ……晩御飯扉の前に置いとくから……」

いつものようにか弱い母さんの声がする。

「ありがとう」

そっけなく、僕は、答える。

「明日は……学校……行きなさいよ」

「わかってる」

そっけなく、僕は、答える。


僕は目の前の扉を開く。

目の前にはご飯もない。

階段も見えない。

母さんもいない。

全く別の世界へと繋がる。

困っている誰かの元へと。


扉は渡れど開かない。

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