1話の終わり
しばらく貴明は何もする気も起きなかった。朝起きているのか夜起きているのかさえ分からない。ただ、酒をくらっているだけの壊れた人間のようだった。
「仙人か…」
ボソッと呟く。Aの興奮した顔が忘れられなかった。あんなに仲が良かったのに、隠し事をされたようでつまらなかった。
「だから不思議な術が使えるのか?」
扉を見上げながら、舌打ちする。早く元の状態に戻りたかった。
「…Aに会いに行くか」
Aだけが頼りな気がして、貴明は立ち上がった。
Aの家に着いた貴明は、チャイムを鳴らした。しかし、出てくる気配がない。
「…眠っているのか?」
玄関のドアは簡単に開いた。鍵もかけずに物騒なと思い、少し苛ついた。貴明がここに来るまでに、どれほど苦しんでいるか分かっていないAが憎かった。
「入るぞ」
一言かけてから入ると、貴明はヒッと声をあげた。玄関を開けると、柱からAが首を吊っていたのだ。
「おい!」
慌てて声をかけるが、体が動かなかった。
動け、自分。
そう鼓舞して、何とか体を動かすが、Aの体に触れて愕然とする。Aはもう生きていなかった。末期の癌を抱えているといったが、まさか自殺するとは思わなかった。頭の中にAの笑顔が浮かぶ。しかし、目の前にいるAは既に血の気はなく、うつむきがちだった。
「おい! おいってば!!」
体を揺さぶってみるが、Aは動いてくれない。話かけてもくれなかった。
仙人候補になるんじゃなかったのかよ。
貴明は愕然として座り込む。生きているうちに仙人候補になるんじゃなくて、死んで候補になれということなのだろうか。だとしたら、仙人は憎き相手だと思った。しかしー。
「…何だ、これ」
足元に紙切れを見つけ、手にとってみる。その瞬間、貴明は真っ青になった。
「何だ、これ!!」
保証人の欄に貴明の名前が書かれて印が押されていた。いつの間にこんなものを用意したのか。その前に、なぜ自分の名前と印が押されているのか信じられなかった。
勝手にできるものなのか。
正直な感想だった。しかし、それ以前にAに裏切られたことが大きく心臓をえぐった。
まさか、まさか、まさか。
Aの心の声を知りたかった。それなのに、何も聞こえてこない。最悪の状況だった。
「どうしてーーーーーー」
声がかすれた。この前、会った時のAの顔が浮かぶ。その時にこのことが心の中に分かっていれば、と後悔しても遅い。
因果応報ー。
妻殺しの責任だろうか。神だか、仙人だか知らないがどうして貴明だけ苦しめられるのだろうか。貴明は紙を破ろうと手にかけたが、パトカーの音が聞こえてきて、止める。「ひ」とまた小さく声が出た。
どうして、どうして、どうして。
貴明はAの遺体の前に、膝を崩れ落ちさせた。自分の人生がもう終わった気がしてならなかった。
1話、終わり。
読んでくださって、ありがとうございます。
続いて、2話が始まります。
ただ、登場人物が変わります。
お楽しみにお待ちください。




