3話の終わり
「…おい、起きろ」
頬を叩かれ、洋介は目覚める。一瞬、何だったか分からなかったが、すぐに思い出し、体を起こす。
「お母さんは…!!」
「大丈夫だ」
青年は短く言い、洋介の額に触れてくる。
「…何するの?」
「もうお前には必要ないから」
そう言って手が離されると、洋介は頭上を見る。13階段が無くなっていた。周りの心の声も聞こえなくなる。
「何で…?」
洋介が呆然として聞くと、青年は腕を組んで微笑む。
「よしなに。それより、お前の母親…」
「そうだ、お母さん」
ひとみは洋介の側に倒れていた。しかも気のせいか、微かに黄金色に輝いて見える。
ー何だ、この粉みたいの。
洋介が触れると、消えてしまった。不可思議なことに首を傾げる。すると、ひとみが言ってくる。
「…うーん」
「お母さん、大丈夫?」
洋介は起こそうとする。ひとみは目をパッチリ開けると、洋介を見てくる。
「洋介…」
「なに? どうしたの?」
声を拾うため、身を乗り出すと、急に抱きしめられる。驚いたのは洋介のほうである。
「あの…?」
抱きしめられると温かかった。ひとみの温もりを初めて知った気がする。
「ごめんね、ごめんね、ごめんね」
力強く抱きしめてくる。洋介はされるがままにした。ひとみはなおも続ける。
「お母さんが悪かったわ。本当にごめん」
ひとみは憑物でも落ちたのか、穏やかだった。どうなっているんだと、洋介は青年を見るが、既に青年は消えていた。
ー居なくなっている。いつの間に。
不思議なことだらけだった。洋介はひとみに聞く。
「お母さん、13階段の先に何があったの?」
「……」
ひとみは駄々っ子のように首を振る。
「よく分からない。でも、怖かった、怖かった、怖かった」
本心らしく、震えが伝わってくる。そんなに怖がるほど何があったのだろうか。頭上を見るが、もう階段は無いので、知る術がない。
「お母さん、落ち着いて。僕が居るから」
「ああ、洋介」
ひとみは頭を擦り寄せ、いっそう出す力を強くする。
「お母さんが悪かったわ。あなたを失う気がして」
「…僕のため?」
ひとみに返す力が強くなる。ひとみはいつもの怒っている状態ではなく、純粋に母親の気持ちになっているようだった。
ーここまで変われるって、何があったんだろう?
洋介は興味があったが、とにかく、ひとみに抱きしめられて嬉しかった。子どもらしい子どもをやったことがないので、離れたくなかった。
「キャハハ」
子どもたちが遊びに来たので、洋介はひとみの服を引っ張る。ひとみも気がついたらしく、頭を撫でてくる。
「ー行こうか?」
「うん」
2人は立ち上がり、お互いを見合う。すると、ひとみが手を差し出してきた。
「…良いの?」
聞くと、頷いてきた。洋介はゆっくり、ひとみの手を取る。ひとみと手を繋いでみたかった。普通の母子関係みたいに優しくしてもらいたかった。それが今、叶うのだ。
洋介は手を繋ぐと、ようやくはにかんだ。それは少しぎこちなかったが、子どもらしい笑顔だった。
「ー行こう」
「うん!!」
洋介はひとみと一緒に公園を後にしたのだった。
3話、終わり。
読んでくださって、ありがとうございます。
13階段はこれで完結です。
新作をお待ちください。




