3話の⑩
しかしアパートまで行かなくてもいい状況になった。
「…お母さん」
小さな公園にさしかかった時、向こうから怒りの形相でひとみがやってきた。飲んだのか酒臭い。洋介に対し、敵でも見るような視線を向けてくる。
「あんた!! よくも抜け出して」
「あの…!!」
ひとみに説明しようとすると、青年が制した。公園にはブランコや滑り台があるが、誰も遊んでいなかった。時刻がお昼過ぎだと思われるから、皆、ご飯を食べに行っているのかもしれなかった。
「行くわよ!!」
「待って、お母さん」
洋介は珍しく、感情を出し、拒絶する。
ひとみの心の声は、
ー要らない、要らない、要らない。こんな気持ち悪い子。
と聞こえてきた。洋介は背中に冷たいものを感じる。ひとみと取っ組みあっていると、青年が言ってくる。
「お前の母親、ちょっと借りる」
「…は?」
拒絶の手を緩め、青年を疑わしそうに見る。ひとみも誰なのか興味あるようだった。
ー誰、このイケメン。この子の知り合い?
青年は心の声を無視し、ひとみに近寄る。ひとみはかなしばりにあったかのように、動けないようだった。
洋介の時と同じく額に手をあて、放す。すると、
「何よ、これ!!」
洋介の頭を指差し、ひとみは口をぱくつかせる。階段がどうやら見えるようだった。
「見えるの、お母さん!!」
洋介の言葉は無視され、ひとみは青年に詰め寄る。
「どういうこと!?」
「どうもこうも早く乗れ」
「「へ?」」
洋介とひとみの声が一緒に重なった。青年は苛立ったように繰り返す。
「早く上れと言っているのだ。さあ」
ひとみの背中を押し、階段に足をつけさせる。重たいのではないかと危惧したが、そんなことはなかった。ひとみが不安そうに振り返ってくる。
「早く、行け。試されるのはお前だ、お前」
訳分からないことを言い、青年は洋介の肩に手を置く。ひとみを見守るようだった。
「…あの」
「何? どうした?」
「階段に上るとどうなるの?」
洋介が聞いても青年はうっすらと笑ったのみだった。ひとみは言われるがまま、階段を上っていく。扉にさしかかり、チラリと視線を向けてくるが青年の視線は冷たいものだった。
「開けろ、早く入れ」
ひとみは操られるように扉に手をつける。すると、その途端、眩しい光が溢れ出してきた。
「うわ……!!」
ものすごい光の渦だった。目には痛すぎて、ギュッと瞑る。
「少し寝てろ」
青年はそう言い、洋介の首の後ろを叩く。気絶させられ、洋介は体を預けたのだった。




