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13階段  作者: WAIai
26/29

3話の⑧

ひとみが迎えにきた。

「ほら、帰るわよ」

「…うん」

短く答え、洋介は後に続く。ひとみのハイヒールの音が廊下に響いた。すると、周りの声が聞こえてくる。

ー何、あの人。派手な格好で。

ーホステスか。子どもがいるのか。

ひとみは心の声を潰すように、ヒールの音をさらに高める。周りに興味がないのか、真っ直ぐ前だけを見ている。しかし、心の声は聞こえてくる。

ー病院って嫌いなのよね。消毒臭いし、暗いし。

洋介は黙ったままついていく。ひとみの足に合わせるように、足早にする。

ーしかも、余計なお金を使って。何で、階段でなんて転ぶのよ。

怒りの矛先は洋介に向かってきた。洋介は一瞬、傷ついた表情をしたが、何とか流した。

しかし、ひとみは続ける。

ーこの子さえ、居なければ。

「!!」

さすがにピタリと足を止める。ひとみも気づいたらしく、振り返ってくる。

「どうしたのよ」

「…。ううん、何でもない」

平気なふりをして言うと、洋介は再び歩き出す。ひとみも負けじと足を早める。

ーそうか、僕が居なくなれば良いのか。

洋介は悲しくなってきた。いつもひとみのことを思って行動してきたのだが、無駄のようだった。まさか、要らないとまで思われているとは知らなかった。

ー今だけ、心の声が聞こえるのが怖いよ。

青年の顔を思い出し、下を向く。ひとみは手を繋ぐどころか、洋介を置いていきそうな勢いだった。必死に洋介はついて行く。

病院を出ると、気持ちが良い風が吹いていた。塞いでいた気持ちが少し軽くなる。

「ほら、乗って」

タクシーを指さされ、洋介は乗り込む。後から、ひとみも乗ってきた。

「あそこまで」

ひとみが場所を告げると、タクシーがゆっくり走り出す。

洋介は額にそっと触れる。もう包帯は無かった。ほかに異常はないようだった。

タクシーが走る中、2人は会話すらしなかった。



アパートに着くと、腕を引っ張られた。抵抗せず、そのままにしておくと、ベランダに出された。

「ここで反省しなさい」

バシンと勢いよく、戸が閉まった。洋介はなすすべもなく、ひとみの後ろ姿を見送るだけだった。

救いは良いお天気くらいのものだろうか。ポカポカとした陽気が気持ち良かった。

ーお母さん、怒ってる。

少しショックを受けて、下を向く。世界に一人しか母親は居ないのだ。それなのに、自分は迷惑をかけてしまったと、自分を強く責める。すると、両隣から声が聞こえてくる。

ーうるせぇ、誰だ、力強く閉めたの。

ー嫌ねぇ、ホステスかしら。怒りたいのはこちらの方よ。

洋介は手を拳にし、耐える。ひとみは本当に

ーあんな子要らない

と思っているらしかった。今まで我慢してきたものが溢れ出てくる。

「それなら…」

小さく1人ごちると、ベランダの手すりをつかむ。2階建てアパートだから、地上までの距離はそう遠くなかった。

洋介は決意すると、手すりに足をかけた。








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