3話の③
ドンドン。
何か物音がして起きれば、時計は2時を知らせていた。
「誰だ、こんな時間に」
まだ誰かがドアを叩いているので、洋介は立ち上がり近づく。外を見る穴から覗くと、男1人ずつだった。男は人相が悪く、派手なシャツを着ている。チンピラみたいだった。そして、女のほうはひとみで、具合でも悪いのか男にもたれかかって、支えてもらっていた。
ーお母さん。
洋介は急いでドアを開ける。すると、アルコールの匂いが凄かった。無理して強い酒でも飲んだのかと心配する。
「たらいま。おやしゅみ」
ろれつの回らない声で言い、ひとみはその場に倒れ込む。洋介が起こそうとするが、力が足りず、持ち上がらない。
「ーおい、ガキ」
ひとみと一緒に居た男が話しかけてきた。毎回、ひとみを送ってくる人は違かった。洋介がひとみを守ろうと睨むと、男も睨み返してくる。
「金を寄越せ。運び賃だ」
「…金なんかない」
無機質な声で言うと、男は差し出した手を引っ込め、ひとみを見下ろす。金がないのは本当だった。あったら、苦労なんかしていない。
男は舌打ちをすると、ひとみのバッグを拾う。
「あっ、それは」
洋介が慌てて、取り返そうとしたが、腕のリーチの差で負けてしまう。
男はバッグから財布を取り出し、物色する。
「ちっ。しけてやがる」
2、3万円引き抜き、財布を捨てる。大事な生活費だった。
「返せよ」
淡々とした声で言うと、男は洋介を無視し、大声でひとみに言う。
「また来るからな」
「はーい」
ひとみはキャハハと笑い、また寝てしまった。男が立ち去ろうと背中を向けたので、洋介は必死になって言う。
「お金、返してってば」
「嫌だね」
ドアが閉まる。洋介は唇を噛んだ。何で、自分だけこんな思いをするのだろうか。家にも学校にも居場所がない。無視された存在なのだ。なぜ生まれてきたのか分からなかった。泣きたい気分だったが、我慢をする。泣いても何も変わらないし、ひとみから慰めの言葉なんかなかった。
ー死のうかなぁ。
ふと思ったが、ひとみを残すのは躊躇われた。それよりもお金を返してもらおうと、キッチンから包丁を持ってくる。男と対峙するには、武器を持つしかなかった。
玄関を出、男を追う。パジャマ姿だが、構わなかった。
「ちょっと待て」
そう言い、包丁を男に向ける。あんな母親でも守るつもりだったし、自分のためでもあった。
「二度と来るな」
「何だと、クソガキ」
男に向かい、包丁を差し出す。子どもの力で、男にかなうわけなく、手を押さえつけられる。2人は取っ組みあう形になった。
「コノヤロウ」
男は包丁を奪いさり、代わりに刺そうとしてくる。まずい、と思ったが遅かった。男の一撃が腹に刺さる。一瞬強い痛みがあったが、興奮状態にあるせいか、熱く感じるだけだった。
「ふざけるな」
男がもう一度刺してくる。今度は心臓だった。洋介は「うっ」と小さい声で悲鳴をあげると、その場に倒れ込んだ。




