3話の②
日差しが暖かく、洋介は赤いカゴを持つ。カゴのほうが大きく見えるが、他人の視線など気にしなかった。それよりも今日の特売品は何か、入口のチラシで確認し、いざ買い物へ向かう。まず、野菜売り場でジャガイモや玉ねぎなどを入れ、どんどん歩いていく。学校の帰り道で買い物をするのは、いつものことだった。
買うものを全てカゴに入れて、レジへ向かう。いつも同じ人のところで、50代くらいだろうか。見た目に優しい人を選んでいた。
「いらっしゃ…、あら」
女性が気がつき、笑顔になる。しかし洋介は無言でカゴを差し出す。それから、ランドセルの中を開け、財布を取り出す。
「いつも偉いわね」
そう言われ、洋介は無言で固まる。他人の好意に慣れていないのだ。人見知りということもあった。
品物が次々とスキャンされていく。合計金額に達すると、女性が洋介に聞いてくる。
「一人で持てる?」
「……」
無言を通し、頷く。まだ9歳だが、男だから力はあるほうだと思う。それに一人で買って帰るのも、いつものことだった。
「ありがとうね」
女性がそう言い、お釣りを渡してくる。洋介は丁寧に受け取り、財布にしまう。なくしたら、ひとみのヒステリーをくらうだけだった。
エコバッグに全部入れると、スーパーを後にする。
外は眩しく、洋介は目を細めたのだった。
スーパーから歩いて5分ほどだろうか。洋介はアパートに帰ってきた。早速、ランドセルを降ろし、キッチンに向かう。今日はカレーのつもりだから、宿題をしてしまう前に、作ったほうが美味しそうだった。
カレーの箱の裏側に作り方があるので、分量を見ながら作る。もちろん、エプロンを忘れずにつけている。ひとみが食べるかどうか分からないから、半量分のみ作る予定だった。
「まずは玉ねぎとニンジンなどの野菜を切って」
包丁は慣れたものだった。自分が生きるために、握り始めたのだった。ほかの家庭は母親が作ってくれるらしいとは、薄々分かっていたが、洋介は料理の時間が嫌いではなかった。それに、お腹が空いたといっても、ひとみが作ってくれることはなかった。いつも自分で忙しい人だった。せっかくしたネイルが剥げるのも嫌な人だった。
「痛っ」
ちょっとだけ指を切り、その場所を舐める。表面だけ切っただけのようで、絆創膏を貼れば大丈夫だった。
「…よしできた」
カレーが出来上がると、スパイシーな香りが部屋の中に広まった。部屋には一人しか居ないが、寂しくはなかった。慣れてしまったのだ。少し味見してみたが、なかなかの腕前だった。
「宿題を先に終わらせよう」
ポツリと言うと、洋介はキッチンを後にしたのだった。




