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13階段  作者: WAIai
19/29

3話の①

「ーご飯はこれだけね」

そう言い、母親の水川ひとみは出て行った。テーブルの上には、牛乳が1杯とタマゴボーロのみ。9歳と成長盛りの水川洋介には、全く足りないカロリーだった。

「…お母さん、まただ」

牛乳を手に取り、喉に流す。冷えて美味しかったが、別の件で洋介の心は冷めていた。

ひとみはいつもキレイに化粧をして、オシャレな格好で出ていく。職業はホステスだった。子どもを抱えた女が手っ取り早く金が入るのは、それが早いようだった。

香水の残り香をかき、「うえっ」と少しもどす。気持ちが悪くてしょうがなかった。ひとみに真っ当な職に就いて欲しかった。それくらいは9歳の頭でも分かる。

「…お金がないから、しょうがない」

ボーロを手にし、口にほおばる。甘くてサラリと溶けた。栄養面を考えてくれているのか、牛乳を喉に流し込み、ホッと息を吐き出す。

「ごちそうさま」

1人ぽつんと言うと、洋介はコップと皿を持って流しに向かった。



「おはよう」

教室についた洋介は小声でクラスメイトに挨拶をした。しかし、返答はない。いつものことなので、自分の机に向かうと声が聞こえてくる。

「また同じ服を着ている」

「汚い。お風呂入っているの?」

わざと聞こえる音量だった。洋介は悔しそうに机を見つめる。初夏のせいだけではなく、恥ずかしさで体が熱くなっていた。

陰口はいつものことだった。ひどい時には椅子を蹴ってきたりする奴もいた。

それでも、洋介は負けずに学校に通っていた。ひとみが一生懸命お金を稼いで来ているのに、自分が学校に行かなかったら、申し訳ないと思っていたのだった。

ーここは我慢だ、我慢。

いじめられていることは担任にも言ってなかった。言っても、かばってもらえると思わなかった。ひとみの職業が職業だから、子どもでも嫌でも社会の仕組みが分かっていた。

ー先生はほかの子どもをかばう。

公務員や医者など、肩書がいい子には優しいが、洋介のようなパターンでは、厳しくあたってきた。ひどい理不尽な話だが、仕方ない。

ランドセルから教科書とノートを取り出すと、洋介は負けじと黒板を見たのだった。



給食の時間がきて、洋介は「いただきます」と手を合わせると、ガツガツと食べ始めた。すると、陰口がまた始まる。

「何、あれ」

「すげぇ、スピード」

洋介は無視した。ボーロしか食べていないから、腹が減っていたのだ。パンにかぶりつき、牛乳に喉に流す。おかずが少なくなってきたので、洋介はおかわりをする。今日は洋介の好きなハンバーグだった。

ー皆に何を言われても、気にしない。

担任に睨まれた気がするが、無視して自分の席に戻る。パンもおかわりをした。口いっぱいに食べ物をつめこんで、咀嚼する。この時間が唯一、学校生活での楽しみだった。

「ごちそうさまでした」

誰よりも早くたいらげ、手を合わせる。ほかの子たちを見ると、視線を向けられたり、給食に苦戦している子どもがいた。

ー僕が食べてあげるのに。

食器を片付けながら、洋介はチラリと視線を向ける。なぜ、給食を食べるのがそんなに遅いのか、理解ができなかった。

ーそういえば、お母さんの得意料理って何だっけ?

ほとんど、料理をしないひとみは、今頃、家で寝ている頃だろう。それか、化粧して男の客と遊んでいるか。洋介は首を横にふる。考えても仕方ないことだった。

とりあえず、自分の席に戻り、皆が終わるのを待つのだった。


















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