2話の⑦
友子はその後、退職願いを出した。相手の部長に冷たくされたのか、テキパキした雰囲気はなく、病んだような様子だった。
ーほら、幸運が来た。
凛はほくそ笑むと、周囲の声にそばだたせる。皆、ライバルが減って嬉しそうだった。もしくは、凛のようにからかわられていた人が喜んだり、持ち上げていた人がいなくなって喜ぶ声が大きかった。
ー次は、私の番だ。
もちろん、幸せになるコースを選ぶ。上司と後輩が何を望んでいるのか不思議な力で聞いていた。
ー自分はラッキーなのかもしれない。
あの時死んでいたら、こういう展開は見れなかっただろう。笑いをこらえている人もいる。
友子はふらりと歩き、廊下へ出て行った。もう彼女と会うこともないだろう。
凛は意を決すると、上司に話しかける。
「あの…、私に仕事をください」
まずは努力することから始めることにした。
男性の力のおかげか、それともくるみのおかげか。
凛はのろまでなくなってきた。むしろ、周囲から頼られるように少しずつなってきた。
ー苦手な相手さえ居なければ、大丈夫。
今の雰囲気の方が良くなった気がした。前よりも職場が明るくなった気がした。友子の不倫相手の部長は小さく体を丸めている。家庭があるから、仕事を辞められないのだろう。妻と子どものためにと心の声が聞こえるが、どうだろうと凛は冷めていた。
今日は天気が良いので、ランチは外のベンチで過ごすことにした。そこは緑に囲まれていて、癒やされる場所だった。
隣にはお付き合いしている男性が座っている。あれから凛にはハッピーなことがまいこんできて、怖いくらいだった。
「おいしい?」
「うん」
手作り弁当を渡したのだったが、彼はおいしそうに食べてくれた。凛もウインナーを口に運ぶ。これくらいないほど幸せだった。彼氏なんて初めてできたのだ。
「もっと感想を聞かせて」
ねだると、彼は少し照れくさそうに答える。
「おいしいよ。塩加減とかもちょうど良いし」
「本当!? じゃあ、また作ってくる」
凛は心から喜ぶ。彼は嘘を吐いていなかった。心の声が聞こえるのは便利だった。誰が何を求めているのか、それさえ分かれば、こっちのものだった。
太陽が祝福をするように、二人に暖かい光を届けてくれる。
もちろん、心の声が聞こえてくることや、くるみのことは秘密だった。凛だけが知っていればいいことだった。
「…幸せだなぁ」
「ん?」
「何でもない」
凛も顔を少し赤らめると、弁当に箸をつけたのだった。




