2話の⑥
「何よ、これ!!」
翌朝、会社に大声が響いた。声の主は友子である。自分の机に置かれた1枚の紙を手にしわななく。そこにはこう書かれていた。
ー部長と友子は不倫している。
文章はそれだけだったが、効果があったようだった。友子が真っ青な顔で全身を震わせている。作成したのは、もちろん凛だった。それも1枚だけでなく、コピーして皆の机の上にそっと置いといたのだ。誰にもバレることはなかった。
「誰!? 誰なのよ!!」
友子が叫んだ。しかし、誰も相手にしない。それよりも、
ーへぇ、部長とできていたのか、あの女。
ー良いことを聞いた。脅そうかなぁ。
友子に攻撃的だった。一緒に笑っていても、こんなものかと凛は呆れる。表面上の付き合いだけで、中身は何にもないのだ。人間関係とはそんなものかと凛は冷めた気持ちだった。もちろん、友子が取り乱すところが見れて、溜飲を下げる。
ーやった! やった! やった!
ざまあみろと口の中で毒づく。友子が紙を破く。ハラハラと舞ったのは彼女の人生が終わったような気がした。
「誰よ! 正直に言いなさいよ!!」
あまりの剣幕に不倫相手の部長が咳払いする。そこまでにしておけというサインのようだった。
「そんな…」
と友子の口が動いた気がした。周囲は表面上は冷静だったが、心の中は愉快そうに語っている。出世のライバルが減るかもしれないと思っているようだった。
ー馬鹿、馬鹿、馬鹿。
散々、いじめられたので、全員から無視されている姿は心地よかった。
凛は優雅にコーヒーを飲むと、自分が犯人だとバレないように、パソコンの画面を見ながら、平気なふりをした。
「聞いて、聞いて!!」
凛はアパートに帰ると、くるみに抱きつき、体を回転させる。こんなに嬉しい日はなかった。くるみも「にゃあ」ト鳴くと甘えるように頬を寄せてくる。相変わらず、くるみは黄金色のままだった。
ーもしかして、神様だったりして。
男性を思い出し、凛が困っているのを見かねて、力を与えてくれたのかもしれない。しかも、くるみにも力を与えてくれたみたいだった。
「お前…、何の力をもらったの?」
「にゃあお」
くるみは普通に鳴くだけで、何も喋らない。
友子にやり返しただけで、こんなにも嬉しいことはなかった。
ーそうだ。この力を利用しよう。
色んなことが聞こえることは不安だが、便利といえば便利だった。相手が何を考えているか分かるからだった。諦めていた出世も望めるかもしれない。
「私、頑張るね」
くるみの頬にキスをする。くすぐったかったのか、くるみは手でかいてきた。
「お前も私を幸せにしてくれるのかもしれない」
運気が上がったのかもしれない。階段の扉で何があったのかは知らなかったが、凛を幸せへと導くような気がした。
ーのろまな私は終わりだ。
ニヤリと笑うと、くるみを抱え直し、部屋に入った。




