魔族の親事情
「うぅ……」
起きるとベットの天蓋とイケメンが目に入った。
朝イチでこの人の顔を見るとは、と悪態を吐こうと口を開きかけたが、いい子ぶりっ子を演じる作戦がおじゃんになってしまうのでわたしは口を閉じる。
「おはようございます。閻魔様。朝から貴方の顔を拝められるとは、良い日になりそうですね」
「朝からうるさいな、私の名前はザックだ、ザック・ウァニュ。君もエス・ウァニュだ。覚えておきなさい」
イケメンさんはザックというらしい。正直どうでもいいけど。
「まあ、素敵な名前ですね! ご両親に感謝するといいですよ!」
「怪しいな…何が目的だ?」
「思った事を口にしただけです」
わたしがニコニコ笑顔で答えると、思いがけない人物から返事が帰ってきた。
「今はお昼ですよ。エス様。体調はどうですか?」
「ジー!」
わたしはジーに反射的にぎゅーをする。
「私と随分反応が違うでは無いか」
「日頃の行いでは?」
わたしは睨まれたことに気付き、ジーから離れ、ザックに向き合う。そして、両手を広げる。
「……私、魔術具を外し忘れましたね。出来損ないのお付です」
「その様だな。もう降ろせ。疲れただろう?」
ザックがわたしの腕を下げようと手を伸ばしてくる。わたしはその手を掴む。
「違います! ジーと同じ、ハグです!」
彼の手を離し、もう一度両手を広げる。
ザックは呆れたようにため息を吐いた後、ベットから去って行く。
「わたしがせっかく気を遣ってあげたのに…あの態度は無いですよねぇ」
わたしの愚痴にジーは苦笑いで応えてくれた。
わたしはベットから降りる。
……ここ、わたしの部屋だ。運ばれたのかな。
すると、椅子に座っているザックと目が合った。わお。悪口が聞かれてたね。
「エス様、急いで着替えましょう。もうすぐ全員来ます」
「ぜーいん?」
ジーはクローゼットから可愛らしいフリルの付いたワンピースを出してきた。そして素早くわたしの服を脱がせていく。わたしがザックを追い出す暇も無いぐらいに。もうどうでも良いんけどね。
……わたし紳士らしくって言われたのに、こんな可愛い服良いの? そういえば最初着た服も可愛かったよね。
「はい、出来ましたね。可愛いですよ」
「確かに可愛い服ですね」
「ジーは服では無く、君の事を言っているのだ」
気付くとザックがわたしの頭を鷲掴みにしていた。
「そんな事より、ザック様。今からヘアセットをしようと思って…『アレ』をお借りしても良いでしょうか?」
「『アレ』…とは何ですか?」
わたしはジーとザックを見上げる。ジーはわたしの髪を触っていて、ザックは『アレ』の事を考えているみたいだ。
……アレってなんなのよ。言い方からして髪に関係しそうだけど。まぁ、長い髪がまとまるなら何でも良いや。
「分かった。貸そう。部屋から取ってくる」
「ありがとうございます。お義父様」
ザックは父親と呼ばれて嬉しかったのか、少し笑った後扉に向かって歩き出した。
「…あんなに喜ぶならずっと父親と呼んであげたらいいのに」
「今は仕事中なので」
「キッパリ断れるジーはかっこいいですね!」
ジーはわたしの励ましに、困った様な顔でわたしの髪を梳かしてくれる。
何分か経った頃、扉が開いた。
「お母様! アール!」
「エス!」
お母様がわたしを抱きしめてくれる。胸元が見えそうでこわいけど。
「私もいるのだが?」
ザックがジーに何か渡しながらわたしを睨む。別に気づかなかったわけじゃ無いのに。わたしは彼の呟きが聞こえない振りをする。アールはザックに同情する様な顔をしている。
ジーが何かを机に置きながらわたしのほうを見る。
「ではエス様、こちらにお座り下さい。髪をまとめます」
わたしはジーの指差した椅子に座る。
「大人しくしてて下さいね」
「はぁい」
するとジーはわたしのストレートヘアーをひとつにまとめ、机から赤い物を取る。
「カチューシャ……ヘッドバンド…? 高そうな生地ですね。でもそれを貸してもらう為にそこまで…?」
「これはエス様のお母様の……物だったからですよ」
ジーはわたしの髪をヘッドバンドでまとめながら言う。
「はい、出来ましたよ」
「まぁ! 顔も髪型もあの人そっくり!」
「あの人、とはわたしの生みの親の事ですか?」
みんな黙ってしまった。この話はしないほうがよかったみたいだ。
話題を変えよう。うん。そうしよう。
「それより、なぜみんな集まったのですか?」
「エス様の、これからの話をするためですよ」
「これからの話、ですか?」
ザックがわたしのベットの側のベルを鳴らしながら言う。
「あぁ、色々と聞きたい事があるからな。昼食も含めて」
…この人ってほんっとイケメン。怖いイケメンだけどね。
全員が椅子に座り、食事が運び終わる。わたしの話をするからか、給仕をした人も出て行った。わたしからしたら残って欲しかった。そのほうが根掘り葉掘り聞かれないで済みそうだからね。
「食事を用意できることと、いただけることに感謝します。」
「「「感謝します」」」
「します」
ザックに続き、みんなが挨拶をする。わたしはまだ二回目でワンテンポ遅れたけどお咎めなし!
わたしは自分のお皿に視線を落とす。
「あれ? なんでわたしだけ料理が違うのですか?」
わたしは自分のお皿を指差す。みんなのお皿には高そうなお肉がのっている。それに比べてわたしのお皿には野菜一色だ。健康食を食べないといけないのは分かっているけど少しぐらいお肉があっても良いのではないか。
わたしの答えにみんな目を逸らす。ジー以外のみんながね。
「この前出した料理の食べ残しがゼロでしたので…エス様は野菜が好きだと…わたしの不手際です…申し訳ございません」
ジーは黄色にも橙色にも見える、潤んだ目がこちらを見つめている。
…そんな可愛い顔されたら何もいえないよ!
「野菜は嫌いじゃ無いので今日はこれで良いです…あ、次からは少しだけでもお肉が欲しいで…」
「前世で野菜しか食べていなかったのは何故だ?」
ザックの言葉に背筋が凍る。まさか前世の事を調べられるとは思わなかった。
「人間界のお肉は生臭くてあまり美味しく無いんですよ……ホホホ」
わたしはできるだけ平常を装う。彼のほうをチラ見しようとしたら目が合ってしまった。隣の席なのに。そして他の3人はよく分からない魔術の話をしている。わたしを助けてくれる人はいない。
悩んでいるとザックが口を開いた。
「そろそろ良いか?」
「えぇ、こちらの話も落ち着きました」
エルの言葉にアールとジーが頷く。
「では、まず…其方には魔界の言葉を勉強して貰う。喋れる様だが、読み書きは出来ないであろう?」
「……基本文字ぐらいなら…たぶん書けます。読みは…ほぼ全部」
「何故人間界に魔界の情報が?」
「詳しくは実家のほうにご連絡下さい」
わたしは笑顔で答える。家にわたしが生きてる事をと知られるのだけはごめんだけど。
「まぁまぁお兄様、教えることが少なく済むじゃない」
「それもそうだな」
……てんきゅーお母様。
「ザック様、続き、よろしいですか? あの事で」
「あぁ、それは私も迷っているのだ。エスの母を誰にするか」
「え? 聞き間違いですか? 母を誰にするか、と聞こえたのですが。わたしったら、耳が悪いようで」
「聞き間違いでは無いわよ。耳の悪くないエスちゃん」
「わーお。あー、お母さんにするなら優しいお母様が良いなぁ、なんて…えへへ」
わたしが戸惑っていると、アールが手を挙げた。
「それなら、エル様に配偶者が必要ですね。よろしければ私を……」
「黙れ三流」
ザックの言葉でアールは怒ったような、悲しんでいるような顔でお肉を食べ始めた。
…アール、ファイト。
わたしはザックに聞こえないよう、アールに囁く。
「チャンスはまた来ますよ」
しかし、わたしとアールはザックに睨まれてしまった。聞こえてたみたいだね。
次回 パパパパーン




