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見えない本性

 わたしが外出許可をもらった一週間のうち、四日間レーシェンファースに帰省し、これからの三日間を実父のスクイブ宅で過ごす。正直スクイブの家なんて行きたくないが、彼と過ごすことで外出許可をもらった。


 レーシェンファースはイェーニット学園から遠く離れたアダーステルト国の端にあるので、スクイブの犯罪魔法(転移陣)を使って行き来した。

 しかしスクイブ宅はイェーニット学園があるウァルティーニ国にあるので馬車移動を強要される。



「お、エス! 帰って来たばかりに荷造りか。次はどこ行くんだ?」


 寮の部屋で荷物をまとめていたらエイがやってきた。


「なんでエイは学園にいるの? 休暇なんだし城に戻りなよ」


 エイはレーシェンファース領地のトップの息子だ。休暇の真っ最中に寮に閉じこもるなんて彼らしくない。


「あー、オレ今反抗期なんだよね」


 魔界の反抗期は自己申告系なんだ……。


「へー。一人で暇じゃないの? みんなどっか行ってるじゃん」

「別に? 近くのモーテルに泊ったりもしてるし」


 9歳のエイが近場のホテルに行く意味はよく分からないが、わたしは適当に相槌を打ちながら荷造りを済ませる。


「そーいえばさ、シック知らね? あいつ帰省しないとか言ってたのに、休暇中一回も見てないんだよ。死んでんのかな」


 エイは笑いながら親友を貶す。

 たしかにシックは家に帰らないとか言ってたような。


「行方不明ってこと? スクイブに言っとこうか?」

「いや、いい。あいつ死ななそー」

「たしかに。尻尾切られても生えてきそう」


 魔族に尻尾あるか知らんけど。


「じゃあわたしもう行くね」

「おん、じゃあなエス」



 わたしは寮を後にし、頼んでおいた無人馬車に乗る。一人で馬車に乗るのは初めてな気がする。

 ビーと馬車に乗ったときのことを思い出し、行先を台に備え付けの魔法のペンで書く。

 “フェアビュー345”

 書いた文字はすぐに消え、馬車が動き出した。


 馬車に揺られること30分。窓から見る景色が田舎になってきた所で馬車は止まった。


「着いたのかな?」


 トランクに毛布を戻し、靴を履き、扉を開ける。

 外は春の温かみと花の匂いで充満していた。見覚えのある館の扉はすでに開いていて、まるでわたしの帰りを待っていたかのようだった。

 重いトランクを引きずりながら館に入る。


「おかえり、エス」


 館にはスクイブが待っていた。わたしは靴を履き替え、スクイブにトランクを預ける。


「お邪魔します、スクイブ先生」


 スクイブの館に来るのは二年生の夏休み以来かな、すごい久しぶりな気がする。今回は春の休暇なので気温も丁度良く、快適に過ごせそうだ。


「なあエス、前も言ったがそろそろ父と呼んでくれないか?」


 一人掛けソファに座った私の前に膝をつくスクイブ。

 そういえば前の休暇の時も言われた気がする。しかし私の中ではまだスクイブが父親な感じは全然しない。どうしても先生のイメージが勝ってしまう。


「スクイブにはあまり父親っぽいことをしてもらえなかったので、まあ今回の休暇で考えときます」


 わたしは足を組んで館を見渡す。


「前来た時と内装変わりました?」


 スクイブは機嫌が悪そうに私の向かいのソファに腰かけながら口を開く。


「……たしかに変わったか?」


 自分の家なのになぜ疑問形なのか。これは同居人がいるな、絶対。


「恋人でもできたんですか?」

「いや、友人を少し泊めてた。勝手に変えたみたいだ」

「迷惑な人ですね。スクイブに友達がいるのは意外ですね、誰ですか? 友人って」


 普通の会話をしたはずなのに急にスクイブの顔が凍り付く。これは怪しいな。


「やっぱり恋人がいるんですね?」


 私はスクイブの隣に座って問い詰める。スクイブは紫色の目を泳がせながらわたしを見つめる。


「喉乾いただろ? 飲み物を持ってくるよ。なにがいい?」


 こいつ話し逸らした、まあ喉は乾いていたのでちょうどいい。


「紅茶で」



 わたしはスクイブの館のわたしの部屋で、悠々自適に本を読んだり、休暇中の宿題をしたりして過ごした。外が暗くなりお腹が空いたので自室を出てスクイブの書斎を訪ねる。


 久しぶりなので書斎の場所が分からずウロウロする。

 すると話し声が聞こえた。


「その話は何度もしただろ、私は中立だ」


 少しイラついているスクイブの声が客間から聞こえた。

 わたしは引き続き耳を澄ます。


「ザックがいない今しかチャンスはない。スクイブ、どちらにつくかもう一度よく考えろ」


 誰の声だろう。高圧的でスクイブにタメ口。

 身震いするような低い声はどこか聞き覚えがあった。


 模様替えをしたスクイブの友人か? にしては友達っぽくない。

 政治的な関係っぽいな。


「今エスが泊まりに来てるんだ、また別の機会にしないか? 聞かれたらまずいぞ」


 スクイブがいつも羽織っているマントが擦れる音がした。立ち上がったのだろうか。


「エスがいるのか……。どうりで」


 どうりでなんだよ。臭い?わたし。


「夕食はどうする? もう帰るか?」

「いや今晩は泊めてくれないか?」


 随分と鬱陶しいなこいつ。スクイブはOKしたがわたしは気にくわない。

 まあ隠れて聞いてる立場なので何も言えませんが。

 そろそろ聞き耳を終わりにしよう。ご飯ももうすぐだろうし。


 わたしは忍び足で自分の部屋に戻る。

 少ししてスクイブがノックをして入ってきた。


「エス、夕食の時間だ。下に来い」



 ドキドキしながらわたしは下に降りる。


「今日はお客様がいる」


 スクイブの紹介でわたしの前に現れたのはザックによく似てる、しかし目つきがもっと怖い男の人だった。


「久しぶり、エスくん」


 ニコッと外面の良い笑顔で手を差し伸べてくる男。


「今晩ここに泊る、ジーク・ウァニュだ」


 ジーク・ウァニュ!?


 怪しいことを企んでいた男の正体はわたしの友人シックの父親で、ザックのお兄ちゃんだったなんて。


「お久しぶりです、ジーク様」


 わたしも同様外面の笑顔を張り付け握手をする。

 手袋をしているジークの手はとても冷たく、生きているとは思えなかった。


 コイツ、何を企んでるの……?

次回「叔父という名の不安要素」

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