迷える親ヒツジ
スクイブの両親、つまりわたしの祖父母が毒で貴族の一家を殺した犯人だと分かって三日。三日間自室で過ごし、気持ちが落ち着かないままスクイブとの講義の日になった。
自分の苗字をこれまで言わなかったスクイブはきっと親へ何かの気持ちがあるのだろう。わたしは聞きたい事ばかりだが何をどこまで聞いていいのか分からない。スクイブの両親が事件を起こして死刑になったのはスクイブが学園に入学する一年前。つまり六歳、少しでも記憶が残っているだろう。これまでスクイブと仲の良かったザックもエルも何も教えてくれなかったということは本人が話していないか、本人が話されるのを拒んでいるか。
でも事件を起こした彼らはわたしの祖父母でもある人だ、スクイブもちょっとは教えてくれるかもしれない。そう願って講義室のドアを開ける。
「エスちゃあーん! 久しぶりね!」
ドアを開けきる前に中から女性が飛んできてわたしに抱きつく。無駄に胸がでかくて限界までコルセットで絞めてボディラインが映える紫色の髪、わたしの母親代わりのエルだ。一年のころはホームシックで週2で文通をしていたが最近は全然手紙を送っていなかった。
「お母様、どうされました?」
エルを引き離して目を合わせる。前とは違い、背伸びをしなくとも彼女の顔が見える。わたしは大きくなったことを実感した。
「どうしたじゃないわよ! エスちゃんから手紙が来なくなって心配したのよ!? アールもジーも心配ないって言うけど……、わたしはエスちゃんの身に何かあったんじゃないかって。でも何もないみたいで安心した。あなたの顔を見れただけで一週間かけてここまで来た甲斐があったわ!」
笑顔でもう一度強く抱きしめてくれる彼女には申し訳ないが何もなかったというわけではない。ここ三年間で何度も手紙も書く暇もない事件に巻き込まれた。
一年のころは何度も殺されたし、ループのチート見つけたし、二年ではザックと縁を切ってスクイブのもとに帰ってお母様と縁もなくなった。そして今まさに祖父母の犯行に手を焼いている。
「エル、エスの顔色が悪いようだ」
スクイブがエルの手からわたしを奪う。エルに向ける眼差しは完全に悪役のものだ。わたしはスクイブの親の事件を思い出し、彼から少し離れる。
「あら本当に気分が悪そうだわ。エスちゃん、大丈夫?」
わたしの顔をのぞき込み頭を軽く撫でてくれるエルの手が懐かしくて安心してしまう。ここに来たときもエルに手を握ってもらってたような。わたしは思わず彼女の胸に飛び込んでしまう。
「エス……」
スクイブは自分が実の親だというのに母代わりのエルにエスを奪われたことに嫉妬感が芽生え、エルを睨む。しかしエルは彼の目など気にせずわたしを包み込んでくれる。わたしは入学してから人に甘える機会がなかった。もちろんスクイブはこんなに温かく抱きしめてくれないしザックはいなくなったし。
「お母様、わたし家に帰りたい。お母様にたくさん話したい事があるの、アールにもジーにも会いたい、ザックにも……」
わたしが涙を堪えながらエルを強く抱きしめると部屋に沈黙が訪れた。わたしが学園をやめたいと捉えたのか、ザックがいないことを可哀そうに思っているのか。わたしは誤解を解くためエルから離れてスクイブに向き直る。
「次の休暇、一週間ほどレーシェンファースに帰省したいです。外出許可、出してくれますか?」
わたしが得意な上目遣いでスクイブのハートを射抜く。スクイブはさっきまでの目つきが嘘のように笑顔になった。
「上に頼んで長期の外出許可を特別に出そう。そのかわり、一週間のうち三日間は我輩の家にいるように。場所的にレーシェンファースの家の後に我輩の家に来た方が良いな。わかったか?」
胡散臭い笑顔だと思った! 許可をもらえるのはありがたいがスクイブと二人で三日も過ごさないといけないのか!? 仮に一日目に祖父母のことを聞けても後の二日が地獄だし、三日目に聞いても帰省が台無しになる!
「返事は?」
スクイブは真顔に戻ってわたしに詰め寄る。エルはわたしが帰省することに相当喜び、助け舟を出してくれそうにない。
「わかりました……」
わたしは不承不承ながらも返事をする。
これで帰省してみんなと沢山話せるし、事件の真相についても知れる。
でもスクイブと三日間も二人きりなんて……。
次回 きせいちゅ




