天使が見えた日
今日は終業式。
二年生を終わらせる記念すべき日だ。でも今日はただの終業式じゃない。
「では今年の表彰者を発表します。まず一年生……」
そう、わたしが二年生の表彰者に選ばれたのだ。
イェーニット学園終業式では毎年学年に一人表彰される。去年はわたしの親友ビーが表彰されたが、今年は過酷な決戦を乗り越え、わたしに決まった。
「二年生、エス・ウァニュ」
わたしは席を立ってステージへの階段を登る。そして一年生の表彰者の隣に並ぶ。司会である教頭のズラがずれている話で一年の男の子と盛り上がっていたら六学年全員揃った。
わたし以外は全員男だ。わたしも理由あって男のフリしてるから全員男だね。
「君はなんで表彰されたの? チャリティー活動? それとも校長に賄賂でも渡した?」
隣の三年生が四年生と話飽きたのかわたしに話しかける。
「違う、他の候補者がチャリティーして賄賂渡して髪の毛掴む乱闘したの」
わたしが話終わると表彰者代表スピーチとしてわたしの名前が挙げられる。これは想定外。教頭はわたしが見えるように台の前にマットを置いてくれる。わたしは教頭に頭を下げ、できるだけ上品に講演台に立つ。
「在校生の皆さま保護者の皆さま、ご来賓の皆さま。エス・ウァニュです。二年生の表彰者としてこのステージに立てることを光栄に思います」
わたしはセイカ時代の記憶をさかのぼり震える手でマイクを握る。
「今年。なぜわたしが表彰されたのか、疑問に思っている方も少なくないはずです。わたしは去年とは異なり、ウァニュ家のチャリティーイベントに何度も出席しました。もちろんそれだけじゃありません、ホームレスの方々のためにコートを集めて寄付をしました。ぜひ来年は皆様もこの魔界に少しでも貢献してくれることを願っています」
ほんとは何もしてないけど。ビーとシックが話してくれててよかった。
「ではわたしからは以上に……」
講堂内を見渡した時、保護者席でいないはずの“彼”が見えた。
真っ白の髪に赤紫の目。赤くてダボっとしている服を着まわす彼が。
ザック・ウァニュが、いたのだ。
「ザック……?」
わたしはマイクを落とし、ステージから飛び降りる。痛いはずの足を無我夢中に動かし、彼がいるはずの保護者席へ駆け寄る。
いない。保護者席で移動するザックをこの目で見たのに。
講堂内は急にステージから降りて保護者席に走ったわたしに注目している。マイクを落としたときに鳴った超高音波ノイズに耳を壊された人もいる。
「エス、どうしたんだ急に」
後ろから声がかかる。
「あ……ジーク叔父様……」
わたしは息を切らしながら真剣に状況を説明する。しかしジークは笑い飛ばした。
「ザックがいた? 冗談はよせ、いるはずないだろう」
ジークに連れられてわたしはステージに戻る。落としたマイクを拾い、マットに乗る。
「ご迷惑をおかけしました、わたしからは以上です」
マイクを怒り気味の教頭に返し、わたしは一年と三年の間に戻る。
「髪の毛掴む乱闘のほうが何倍もマシだ」
三年の皮肉を無視し、それ以上の問題を起こすことなく終業式を終えた。
「エス、どうしたんだ?」
わたしは担任兼父のスクイブに個室に呼ばれて尋問交じりのセラピーを受けている。
「……ザックを見たんです。だから咄嗟に……。馬鹿ですよね、わたしの卒業までいないはずなのに。でも確かにザックだったんです。髪が白くて……」
「ザックの特徴は分かるよ。でもザックがいるはずがない」
スクイブはわたしの心が相当弱ってると思っているのだろう。背中をさすり始める。
「ザックがいないって、なんでわかるの。娘の表彰スピーチだよ」
「元娘の、な。でもザックは途中で帰ってきたりしないはずだ。それだけは覚えていてくれ」
わたしは軽くうなずく。スクイブは納得がいったのかソファから立つ。
「学校が休みの日、エスの部屋でセラピーをしよう。毎週だ。分かったか?」
「うん」
スクイブは笑って部屋を出て行った。
わたしはクッションに顔を埋める。
「ザック……」
次回 好かれたい症候群




