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ザックとのおもひで

 わたしは人間界に行ってしまったお父様、ザックと縁を切り、実の父であるスクイブと親子になった。


 よって、職員室にて。ザックとのおもいでをスクイブの卒業アルバムを見ながら語り合っている。


「うわーお父様ってこんな顔してたんだー。下から見るのと違って見えるー。意外と童顔」

「学生の頃の写真だからな」


 スクイブとお父様は同級生だったからスクイブが写る写真にお父様も高確率で写っている。


「この頃はまだみんな制服着てるんですね。今はだーれも着てないのに」


 わたしは自分の服を指して笑う。


「そうだな、時代だ、とでも言うと思ったか。明日からは制服着ろよ。持ってるだろ」


 さすが教師パパ。学園に忠実だわ!


「わかりました。……あ、ビーも誘わないと。一人だけ制服は無理。with B」


 スクイブは意味が分からないという顔をしていたけどわたしは一人で笑う。


「気もっち悪い」

「娘に掛ける言葉ですか! 最低。やっぱりザックがお父様の方が良かった!」


 わたしがそっぽを向くとスクイブはわざとらしく大きなため息を吐いた。


「ザックはエスが思っているような奴ではない。もっと悪いやつだ」

「え?」


 わたしは度肝を抜かれ、声が出た。


「初めて、ザックが人間界に行ったときの事。……あ、アメリカのアリゾナ州はわかるな?」

「はい。薬物と性病が特産物」


 わたしが答えるとスクイブは少し嫌な顔をした。

 なんでそんな答えが出てくるんだよ、って顔だ。


「まあ、合ってるな。そのアリゾナでザックはスーパーに行った。

 50品以上はカートに入れて、12品以下の専用のレジに並んで『ネズミがいる!』と言ってタダでスーパーを出てきた。なんて奴だ! エスもそう思うだろう?」


 スクイブは右手拳を太ももに落として顔を顰める。


「なんて嫌な奴! ザック最低!」


 わたしはスクイブと同じポーズを取り、顔を顰める。


「本当に思ってるか? その場にいた身としてはビクビクしたが」

「えー。やだー」


 わたしが適当な相槌を打ってアルバムを捲るとザックとスクイブが肩を組んで笑っている写真を見つけた。


「捕まらなくてよかったですね」


 わたしが軽く言うとスクイブは重い言葉を口にした。


「捕まったが?」


 空気が凍る。

 あー、もっと厚着すればよかった。


「捕まった、とは?」


 わたしは震える声で聞く。

 もしかしてその件でザックはこんなに人間界にいるのではないだろうか。刑期?


「あー。店員に見られていたんだ。あ、金は我輩が払ったぞ、上乗せもした」

「いや、買収じゃねーか」


 心の声が出たがスクイブは華麗なツッコミを娘ができるようになったと感心する。

 元からできるよ。お前の娘になってからは初めてだけど。あれ、初めてじゃない気が。


「あ。超関係ない話ですが、ドゥール学って何なんですか? 二回取ったことあるけど授業をしないクソ教師のせいで、ドゥールの意味も知らないし」


 わたしはクソ教師に聞く。


「あー、異国語のことだ」


 スクイブは短く言った。


「異国語? 魔界はここしかありませんよね?」


 わたしはスクイブの見ているアルバムを閉じて 話させる。

 

「……訛り?」


 教師が疑問形で返すな! 専門じゃないのか?


「訛りだけで単位が取れるんですか」


 わたしが嫌味っぽく言うとスクイブは黙った。目を泳がせ、眉毛を上げて、顔を引き攣っている。

 嘘だ。訛りというのは嘘なのだ。


「本当のこと教えてくださいよ、いじわる!」


 わたしはスクイブの太ももを勢いよく叩く、が。筋肉質なスクイブには効かずわたしの手だけが赤くなる。


「たかが講義の内容でしょう? なんでそんな頑なに言わないんですか。意味がわからない」


 わたしはアルバムを開いて元のページに戻る。


「もう聞かないのか?」


 スクイブはわたしの顔を覗き込む。


「教えてくれないんでしょ」


 わたしはスクイブの顔を叩いてアルバムを見続ける。答えを教えてくれないスクイブと談笑という無駄な時間は必要ない。

 つまり、今日一日無駄な時間。アルバムだけ盗んで寮の部屋で見ればよかった。


「教えると言ったら?」

「教えてくれないんですよね? “あともう一歩!”みたいな感じで話すのやめてくれます? 期待しちゃう」


 スクイブの目も見ずに言うとアルバムを閉じられた。さっきわたしがスクイブにしたことだが、結構イラッとくる。特に挟まれた左手が。


「話す。聞くかい?」


 スクイブはわたしの椅子を動かして目を合わせる。

 まあまあイラついたが好奇心が勝つ。


「聞く」


 わたしはスクイブを真っ直ぐ見る。


「ドゥール学は……人間界についての講義だ」

「えっ?」驚きのあまり声が出る。「どういう事ですか? 魔界で人間界についての授業が?」


「そうだ。人間界の言語や、生活について学ぶ」


 まさか。魔界で人間界が知られているなんて。

 聖華時代に読んだ本では魔界では人間界について知るものはごく少数だが、変な記憶を持つ“転生者”は犯罪者として幽閉。

 スクイブによれば魔界の魔族たちは別世界の人間界について薄々気づいているようだが、人間について論文を出した教授が死刑になったことで誰も何も言わなくなったとのこと。

 ドゥール学も魔界政府には訛りの授業と認識されてるらしい。よくそんな嘘が通るな。


「詳しくは何を学ぶんですか? 言語と生活だけ?」


 わたしは興味深くなりスクイブにどんどん質問する。


「最近だと歴史も。服や食事を真似たりもする」

「へー、楽しそう。食事ってどんな?」

「コンソメスープとか、カップラーメンとか」


 ん?


「カップラーメン? どこで手に入れたんですか?」

「ザックと人間界に行った時だ。ドゥール学を取る生徒は転生者が多い。だから喜んでくれたよ」


 ん?


「えーっと、転生者は即幽閉ですよね?」

「お前も転生者だろ」

「あ、そうか。家族が協力して内緒にしてくれる人もいますもんね」

「いや、家族との縁を切って孤児院にいる子もいるよ。元の頭がいいからイェーニット学園には余裕で合格する。そして教師の手伝いをして稼いで生活する子も」


 スクイブは職員室の扉の方向を見た。わたしも目を向けると、そこには高等部の制服を着た生徒が書類を不在の教師のデスクにおいていた。


「彼は転生者なのですか?」

「あぁ」


 彼は礼をして職員室を出て行った。


 わたしが知らなかっただけで、わたしのような人がいたなんて。


「いつか話しかけてみよーっと。英語なら伝わるかな?」

「普通に魔界語わかるだろ。これまで魔界ここで生活してたんだから」

「あ、そうか」

次回 親子の休日

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