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離縁からの養子縁組 ~ドゥール学を忘れて~

 今日受ける講義はドゥール学。

 一年生の頃に一回受けたが、担任が尋問類の質問をしてきたので他の講義で単位を賄っていた。


 しかし、今年も同じ担任に来いと言われたのでドゥール学を取ってみた。



 一人掛けのソファが二つ。間に木の机がある。きっとIKEAのものだろう。ここが人間界ならば。


「来てくれたか。講義を始める前に少し話をしようか」


 担任のスクイブは口角を上げてニヤリと笑った。

 初講義と同じ、また二人きりだ。


 ……こんなことだろうと思った。さいあくだ。


「少しだけ? 今度はちゃんとドゥール学を教えてください」


 わたしはソファに座り、スクイブを睨む。


「大丈夫、君が質問をしなければすぐに終わるさ」


 スクイブは二枚の書類を机に出す。

 翻訳してみると離縁書と養子縁組書。嫌な予感しかしない。


「スクイブ先生? その“少し話を”ってわたしと家族になる話じゃないですよね?」


 恐る恐る聞くとスクイブは真顔になった。


「正解だ」


 最悪な問題に正解してしまった。嘘でしょ? この人、わたしとお父様の関係を終わらせて、わたしと親子になろうとしてる。クレイジーだわ。

 わたしとお父様は本当の親子じゃないけど親子という関係はあった。でもその関係すら壊されると、ただの知り合いだ。それどころか、お父様とキスをしていたスクイブ先生と親子になってしまう。


「あー、なんでわたしとあなたが親子に? そのぉ……。理由は?」


 理由は何となくわかっている。

わたしとスクイブのクソな性格とか……、紫色の目とか……、指の形とか……。


 スクイブは真っ黒の服のポケットから写真を取り出してわたしに見せる。

 スクイブとどこか見たことがあるような二十代前半の女性が赤ちゃんを抱いている。赤ちゃんの皮膚の感じからして生まれたてのようだ。


「結婚してるとは聞いてませんでした。子供自慢ですか? わたしの弟か妹になる子?」


 わたしは写真を突き返す。スクイブは首を振る。


「この赤ちゃんは君だ」


 スクイブの言葉にわたしはもう一度写真を見る。震える手でそして女性を指差す。


「じゃあ、この人は……わたしの、母親?」


 この写真の女性は前も見た。わたしの部屋に飾ってあった写真の、わたしの母親メルだ。前世のわたし、聖華の母の若いころとそっくりのメル。


「えーっと、この写真で言いたいのは……」

「君の父親は我輩だ」


 空気が凍る。

 冬の英雄であるスクイブの部屋に行くのでまあまあ厚着したつもりだが、やっぱり寒い。


「……親子の再開としてハグでもします?」

「結構だ」


 気まずい。

 二年ほど一緒にいた人が急に父親だと白状したら?

 みんな気まずくなる。わたしだけじゃない。


 でもなんとなくわかっていた。似てると思ってたし。言動とか。人を……バカにするとき使う言葉とか。

 スクイブは真剣な顔で離縁書をわたしに向け、ペンを握らせてくる。


「ザックが人間界に行った後、我輩の部屋に離縁書が置いてあったのだ。サインはもうされている。あとはお前だけだ」


 ……え、今?


「す、スクイブ、サインがもうしてあるって……お父様はわたしと離縁したがってるってことですか? 違いますよねぇ!?」


 わたしが涙目で離縁書を受け取るとスクイブは眉間に皺を寄せる。


「離縁したがってるに決まってるだろ。他にサインする意味が?」


 スクイブはわたしの感情を切り捨ててもう一つの紙、養子縁組書にサインする。わたしと家族になる気満々だ。

でもわたしは、お父様との関係がなくなるのは嫌だ。

でもこれをお父様は望んでいる。


「……お父様がいなくなったのは結構前ですよ。なんで今更こんなこと?」


 不満たっぷりに睨む。

 睨み返されると思ったが、そんなことはなく、少し驚いたように口を開く。


「あー、それが……結構難しい場所に置いてあって、見つかるのが遅かったんだ。我輩が一人じゃ、絶対に行かない書庫の鍵が保管してある棚でね。ザックを思い出すために入ろうとしたんだが、こんなものがあるなんて。置手紙もあったが、読むか?」


 雑に切り取られた紙をスクイブに渡される。


「お父様が破ったんですか?」

「あぁ。本を少し」


 ……なんてやつだ。


『親愛なるスクイブへ

君がこれを見るとき、もう私はいないでしょう。なんちゃって!

下の封筒に私がサインした離縁書と君たちの養子縁組書がある。

これでエスを自由にして。

何年も預かっててごめんね。今謝ったから帰ってから何も言わないでほしい。

ジークに気を付けて。

君より背が高いザックより』


 わお。対面だったら殴ってる。

 けど、この手紙を読んで気が変わった。


 わたしは離縁書にサインする。

 スクイブは口角を上げて養子縁組書もわたしに渡す。

 わたしはスクイブのサインの下にサインした。


「これからよろしく、パパ」

「あぁ。我が娘よ」


 黒の組織かよっ!


 魔界ではサインした紙は契約成立して燃えてなくなるそうで。


「パパ! わたしの手、燃えちゃうぅ!」

「いや、燃えるのは紙だけだ。うるさい」

「それでも親か! いやあぁ! 燃えてるぅ」


 わたしは全身に水を受けた。


 パパなりの愛だね。

 んなわけあるかいっ!


「あれ? ドゥール学は!?」

次回 ザックとのおもひで

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