魔王候補
「魔王様! 本当に辞任されるんですか!?」
魔族全体会議、魔王の始まりの言葉よりも先に魔法団長が声を出した。
「おい、魔法団、うるさいぞ」
騎士団長はどこからかハリセンを出し、魔法団長の頭を引っ叩く。
「いたっ、すんません」
「では、魔族全体会議を始める」
魔王は何事もなかったように笑って会議を始める。
「次の候補は?」
会議室は凍りつく。
「魔王様、本当に辞任されるんですね? まだ十年も勤めてないのに……」
「次期魔王候補は?」
騎士団長は魔王に資料を投げられ、魔王候補しついて話し出す。
「候補は三人。まず魔王様の一人娘のナイチン様。今年イェーニット学園中等部をご卒業されて十五歳。
二人目はウィルディー国の第一王子、ハウステン様。三十一歳で二人の息子がいます。軍事力が強いので、隅に置けません。
最後にザック・ウァニュ様。しかしここ一年姿も……この会議にすら出ていません。病にでも罹っているのではないでしょうか?」
騎士団長は魔王の隣の空席に目を向ける。
魔王、魔法団長、ウァルティーニ王、ウィルディー王、アダーステルト王、リンカーン王、冬の英雄、夏の英雄、魔法局長、イェーニット学園長、ウァニュ家当主。
会議にいる者、全員が空席を見た。
「あと八年は帰ってきませんよ、彼」
冬の英雄、スクイブが気まずそうに言った。
「八年……」魔王はため息とともに足を組む。「ザック様はどこ行っているのだ。仲の良かったスクイブなら知っているだろう?」
魔王は年下の格下のザックに様を付ける。
「……リンカーンら辺に旅でも行ったのでは? 我輩も詳しいことも知らされていないのです。捜索隊でも出してはいかがでしょうか? 靴の片方ぐらいは見つけられるかもしれません」
スクイブは冷たい笑みを魔王に向ける。
魔王は裏腹に純粋な笑みを浮かべていた。
「それはいいな! ザック様捜索隊か!」
おいおいまじか、とスクイブは苦笑いをする。
しかし魔王は捜索隊に何人出せるかを話合う。騎士団長も魔法団長も魔王に媚を売り、五百人は出せると二人張り合っている。
「魔王様」ウァルティーニ王が手を挙げた。
「ん? なんだ」魔王は彼に発言を許す。
「今考えるべきはザック様の居場所より、次期魔王ではないでしょうか? 魔王様は辞任されるのですよね?」
イケオジ感溢れるウァルティーニ王は全員を納得させる独特の喋り方で会議を本題に戻す。
「そうだな。では次期魔王候補についての話し合いを再開する」
魔王は組んだ足を元に戻し、会議室を見渡した。
全員が引き締まった表情をしいてる中、ただ一人、ウァニュ家当主のジーク・ウァニュのみが不的な笑みを浮かべていた。
「もしもし、エス・ウァニュさん? 寮官のアナールですが〜?」
休日。
寮の部屋でパジャマでゴロゴロしていたらノックが聞こえた。
「エスですけど、寮官が何のようですか?」
わたしはドアを開けながら尋ねる。
「それが、あなたのお父様のザック様について話したいというお方が……」
寮官の案内通り食堂にいるという人の元に行く。
そこにはお父様の色違いがいた。
お父様は白髪で茶色っぽく見える目で赤い服を着るが、その人は白髪で金色の目で黒い服だ。
どこかシックと似たものを感じる。
「私はウァニュ家当主、ジーク・ウァニュだ。ザックは私の弟で、君とは叔父と姪になる」
お父様の兄? ってことは戦闘術の講義にいたシックのお父さん?
「シックのお父様ですね、初めましておじ様。どんなご用件で?」
わたしは彼の隣に座りながら家族として挨拶する。
「それが、ザックを知らないかい? いなくなって一年ぐらいになるだろう? 次期魔王に推薦したいんだが……見つからなくて」
ジークおじは足を組み直してわたしを見つめる。
お父様は人間界に行った。
わたしが小等部、中等部を卒業するまで。
しかし今の魔界は人間界と繋がる道はないとされている。だから転移陣で人間界に行っているお父様は……よく言えば未来人、悪く言えば犯罪者なのだ。
「言えないところにいるのか? ザックは。
もしかして人間界とかか?」
あ、図星。
「あ、いやあ、どう、でしょう……ね?」
わたしは取り繕って返事をする。
ジークはじっとわたしを見つめる。
……あっこれ、バレてる。
「人間界だね。スクイブが行った通り八年?」
「うん。でもなんでおじ様がスクイブ先生と? ここに来る前会ったんですか?」
わたしは頬杖をついて上目遣いで聞く。無意識にいい女が出てしまう。
「いや、魔族全体会議で彼が言ってたのだ」
「魔族全体会議? それにスクイブが出てたのですか?」
「あぁ、英雄達は毎年出てる」
「へえー、冬の英雄スクイブが会議にいるとか寒そうですね。わたしなら会議に出たくない」
二の腕を擦って見せるとジークは笑った。
「いや、寒くはなかったよ。夏の英雄がいて調和されていたからね」
「え、夏もいるんだ。どんな人ですか?」
「うーん、赤髪で冷静な人だよ」
「赤髪で冷静? そんな人います?」
「いるさ、お茶会でも開いてあげようか? シックは何度も会っている人だよ」
「えー、シックが? 二人一緒にいたら紅白みたい」
「白髪は君もだろう?」
かれこれ一時間は話したのか、外が暗くなる頃にジークおじさんは帰った。
「今の人、エスの家族? 似てたわ」
ジークを見送りに外に行って帰ってきたらビーがいた。
「うん。シックのお父さんでわたしの叔父さん」
わたしとビーは食堂に向かう。
「そうなの? ウァニュ家の当主ね。お偉いさんだったんだ」
「ビーのお父さんほどじゃないよ。ウァルティーニ王でしょ?」
わたし達は親子丼を頼む。
「ウァルティーニは魔界の一国に過ぎないわ。ウァニュ家の足元にも及ばない」
自分を謙遜するビーも可愛いが、気取っているビーの方が何倍も可愛い。
「そんなことないよ、ビー! ビーは魔界一のお姫様だよ、ウァニュ家も魔王も比べ物にならないくらいの!」
わたしが親子丼を机に置きながら言うとビーも隣に座る。
「そうかしら、さすがに言い過ぎよ、エス。あたしはあなたが思っているよりも普通だわ」
頬を赤らめて笑うビー。
お人形みたいに可愛い。こねくり回して食べちゃいたい。
「何笑ってるの、エス。気持ち悪いわよ?」
ビーは顔を引きつらして食べる手を止める。
「あ、ごめん。そんな笑ってた?」
「えぇ。恐怖を感じたわ」
ビーはスプーンを置いてわたしを見つめる。
「気を付けてね、エス」
彼女の潤う目は真剣な眼差しをしていた。
「な、なんで?」
わたしが恐る恐る聞くとビーはうつむいた。
「ジーク・ウァニュは……戦争を起こそうとしているわ」ビーは続けて「お父様から聞いたの。ジーク様はザック様を魔王にって思ってる。でもこのままじゃ魔界は……」
彼女の目から涙が落ちる。
わたしはビーを強く抱きしめる。
「わたし全然知らなかった。ごめん。気を付けるよ」
ビーはわたしにハグを返す。
「あたしは、エスに死んでほしくない。だから約束して」
ビーは顔を上げて自分の小指を突き出した。
「死なないって」
わたしはビーの小指に自分の小指を重ねて折り曲げる。
「魔界にも指切りげんまん、あるんだね」
「あなたが転生者で、あたしが友達だから合わしてあげてるの、感謝しなさい。返事は?」
わたしはビーにキスを返す。
「約束する!」
次回 ドゥール学




